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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
23/38

二十時限目 さて、やっと出席が取れるな



 その後、懇切丁寧な説明をしていただき、これが何なのかが解った。



 名称はシェルと言う物(正式名称はもっと長いが、長すぎるので略称で呼ばれているらしい)で、用途はヴァルキュリーの培養器らしい。


 そもそも、ヴァルキュリーとは普通の人間のように生殖活動で生まれるのでは無く、親となるヴァルキュリーが生み出した核に生体魔力(経験値)を注ぎ込む事によって誕生するらしい。


 分裂? とも思ったが、どうもヴァルキュリーの体は、親になったヴァルキュリーを元に、生体魔力を絞り出した生物と生体魔力を注ぎ込んだ人物の特性を引き継いだ形で生まれるため、別に同一の存在になると言う訳では無いらしい。


 つまり……アルの父とか言うハロルドさんは、アルに生体魔力を注ぎ込んだ人物であり……


 「え? この中に核が入ってたら僕お父さん?」


 十七歳の父親って……!? ヤバイ、コロサレル。ジョスミンノアクマガ…


 【父か……珍しい解釈だが、あながち間違ってはいないな】


 【うむ、戦闘の癖も似る事があると言う、し? 如何したのだ少年、顔が真っ青だぞ?】


 風神サマが心配してくれる。ふふふ、余り宜しくは無いですが優しさは嬉しいです。


 「大丈夫です。それでこれがどうかしたんですか? まさかもう産まれるとか?」


 悪い予感は後回しだ。


 生体魔力の注入は、コレを身に着けた状態で普通にモンスターを倒せば良いらしい。コレを身に着けてから倒したモンスターは、マットパペット複数・メタルイーター大量・ホーンドック少数・カシアアント超大量・カシアアントクイーン(ボス)・ニセ風神(ボス)・ニセ 雷神(ボス)。


 ……うん、幾ら注入すれば産まれるのかは解らんが、もう産まれるって言われても驚かないくらいには十分な経験値が入ったと思う。


 【うむ、もう産まれ出でる事が可能な生体魔力は溜まっているようだ。我々の分体を倒したのだから、擬似的ながらも神の力を授かるかも知れん。楽しみな限りだ】


 倒したモンスターからも特性を受け継ぐことが出来るなら、確かに彼らの力も宿るかも知れない。と言うか、得られる経験値が桁違いなのだろうから、特性を受け継ぐなら、まず間違いなく彼らの物だろう。


 ……まあ、僕は殆どその恩恵に預かれなかったわけだが。成長限界ってなんだよこん畜生。


 【む! その手があったか!】


 いきなり雷神サマが手を打ち鳴らす。頭の上に電球ならぬ雷球が浮かんだ所は突っ込んだ方が良いのだろうか? 


 【如何したのだ兄者?】


 【うむ、少年にやれぬとなれば別の者にやれば良いのだ。例えば、この先少年を支える配下の兵などに、な】


 【……おお、その手があったか!!】


 いや、あんた等だけで納得しないでよ。




 先ほどの説明の続きであるが、一般的にヴァルキュリーに生体魔力をつぎ込んで誕生させる役割は、核を作り出した本人かその近しい物、またはたまに神様なんかがやることもあるそうで、余り決まってはいない。しかし、戦士が従えるヴァルキュリーは、基本的に戦士本人が誕生させなければならないらしい。


 それは、自分で生み出したヴァルキュリーは念話で話せたり、ステータスを逐一確認出来たりするなどのメリットが多い事もあるが。強き者は多くの戦力を持つ、と言うヴァルハラの掟の様な物があるため、伝統的にそうなっていると言う部分が大きいらしい。


 つまりどういう事かと言えば、このシェルに入っているヴァルキュリーは、最早僕の部隊(配下にヴァルキュリーがいる戦士は、それを自分の部隊として管理する義務と権利が生まれるらしい)の最初の隊員になる事が決定しており、僕自身が報酬を受け取れないのならその下の者に回す、と言う結論に達したらしい。



 「それで、実際には何をするんですか?」


 取りあえず聞いてみる。多分先ほど僕が受け取らないと言っていた物を渡すのだろうが、確認は必要である。


 【なに、先ほど少年が受け取らないと言った物を授けるだけだ】


 【まあ、少々色を付けて……だがな?】


 ちょ!! 風神サマ!? 何ですかその不敵な笑みは! 僕じゃないからってあまりふざけた事は……


 【では行うぞ? 少し離れていろ】


 【天上の染みでも数えていれば終わるからな。では】


 ではじゃねえぇ! 人の話聞けこの…


 瞬間、辺りに暴風と閃光と轟音が鳴り響いた。



 いや、あんたらもっと静かに出来ないの?






 【少年、大丈夫か?】


 「……なんとか」


 不甲斐ないが、閃光と音に酔ってしまったようで、僕はしばらく気を失っていた。


 【すまぬ、久々に楽しそうな事柄であったためつい、な】


 二人とも本当にすまなそうな顔をしていたので、取りあえずもう深く考えることはやめた。別に直接危害を加えられた訳でも無いし。


 「もういいですよ。貴方たちは善意でしてくれたのですし。それに、この先何が有るのか解らない中で少しでも力があるのに越したことは無いですしね」


 ……そうだ、元々はあのチートクラスの幼馴染達と並び立ちたくて、僕はこの小さな迷宮に潜ったんじゃないか。ここは臆病になってはいけない。


 【そう言ってくれるなら助かる。それではこれが力を加えたシェルだ、受け取るがいい】


 そう言われてシェルを手渡される。先ほどまではただの銀細工だったが、今は淡く光っているように見えた。


 【本当は誕生の儀まで執り行いたかったのだが……あれには多量の魔石が必要でな、すまないが今持ち合わせがないのだ】


 【うむ、やはり最後まで付き合いたいのだが……時に少年、今魔石の持ち合わせは無いか? 先ほどの戦闘で投擲魔槍を使っていたようだし、魔鉱石でも構わんのだが……】


 魔石と魔鉱石って……


 「種類を問わないと言うんだったらない事も無いですけど?」





 【これで良いな】


 【うむ、完璧だ。これは良いヴァルキュリーが生まれそうだな】


 二人とも本当にいい笑顔だ。


 僕は現在、最後の攻撃の影響でボロボロだった入り口付近を罠設置の応用で修復し、軽く百メートル四方はある大部屋の中一杯に描かれた魔法陣の中心に立っている。


 これは、風神サマと雷神サマ、そして僕の血液(専用のインクが無かったため代用として)を混ぜた中に、二人が選別した魔鉱石と魔石(例のごとくここから拠点の倉庫をひっくり返して取り寄せた)を砕いた粉を混ぜて書き上げてあるモノだ。


 雷神サマ曰く、これ以上は望めない位には良い触媒が揃った、


 らしい。どうも魔鉱石の中に風と雷との相性が良い物が幾つかあったようで、それの事を言っているのだろう。


 そしてなぜ僕がこの位置で待機しているのかと言えば、この儀式の中で、僕に溜まっている余剰魔力をすべてシェルの方に移して、有効利用をしようと言う腹らしい。


 余剰魔力とは、レベルの成長限界に達した後に自分に吸収された生体魔力の事で、もっていても魂の圧縮の時に邪魔になるので、こうしてシェルに注ぐか専用のアイテムに移しておいて、後で再び自分に使うかしなければ、霧散させてしまわなくてはならないらしい。


 そんな道具を買うお金も、次のヴァルキュリーを育てるつもりもないため、使えるなら使っておきたいと言うのが本音なので、在り難いと言える。僕は物を無駄にするのは嫌いなのだ。



 【では少年、始めるぞ?】


 「お願いします」


 風神サマと雷神サマが、僕には聞き取れない呪文を紡いでいく。それは、どちらも独立した呪文の様でいて、しかし呪文の切れ目などを補い合うかのような一体感のある呪文だった。


 そう思っている内に、僕の体から何かが抜けて行くような感覚が在った。おそらくこれが余剰魔力と言う物なのだろう、体がどんどん軽くなっていくのを感じる。


 その感覚が思いのほか心地よく、僕は目を瞑って体を休めた。







 【少年、終わったぞ】


 「……はい」


 儀式が終わったのは雰囲気で分かったが、余韻が中々抜けず、声をかけてもらうまで目を開ける事も動くことも出来なかった。決して寝ていた訳では無い。


 「成功したんですか?」


 【ふふ、あれだけの触媒を揃えられて失敗しては神を名乗れなくなってしまうでな、儀式は万事成功を収めた。どうだ? 気分は悪くないか? 我々が思っていたよりもかなり多くの余剰魔力が抜けたのだが……もしかしたら魂を削ってしまったのではないのかとヒヤヒヤした物だが】




 鈴木 太郎



 Lv32(Max)


 HP 19776


 MP 1229



 身体 4403(181)


 気力 2825(99)

 

 生命 3983(162)


 精神 2645(99)


 魔力 1198(50)


 拒絶 7230(270)


 運  4491(190)



 称号 未来への重荷 ミニマム・セロ


 クラス 悪徳の肯定者


 加護 狡智神の加護


 スキル ・物理― 投擲(212) 足技(138) 棒術(82) 槍術(21) 投槍(67)


     ・強化― 幸運(143) 血の滲む努力(槍) 戦士の勘(161) 下克上(221) 歩む者      (35) 虐殺者(101)


     ・特殊― 覚醒(187) 鑑定(311) 努力(76) 罠士(151) 盗賊(149) 隠密      (151) 鷹の目(101)




 「……特に問題は無いと思います、逆に体が軽くなった気すらしますよ」


 そう言って腕を回すなどの元気アピールをすると、雷神サマは満足げに頷いた。


 【しかし、本当にかなりの量が抜けたのだぞ? そうだな……まるで我々の分体の生体魔力が殆ど受け付けられなかったと思うほどだったが……もしやすでに成長限界に達してから戦闘に入ったのか?】


 風神サマが近づきながら聞いてきた。やっぱ二十とか三十とか辺りのやつが八レベル上がるくらいじゃ殆ど消費されないのだろうか? 三十レベルのボスですらあれだけガッツリと上がったのだし。


 「いえ、結構上がりましたよ? おかげで八レベルも上がりました。これからの門出に幸先の良い事です」


 変な心配をされても嫌なので、笑顔で言っておく。自慢ではないが、僕の作り笑いは完璧だ。今までヒヨコに位しか見破られたことは無い。


 【ん?】


 【八……とな?】


 「……はい?」




 ただいま絶賛正座中。理由は目の前で呆れ顔の神様二名。


 【いや、楽にしていい。別に我らは責めている訳では無いのだ】


 「恐縮です」


 【しかしまさか二十底々でアレを降す者がいたとは……本当に人間とは不思議な生き物であるな?】


 「恐縮です」


 とまあ、こんな感じで反省会をしているのですよ。


 本当はあの後暫くしてから解散できそうな流れになったのだが……


 【む? 少し動いたな。太郎よ、もう少しだぞ】


 「え? 本当ですか?」


 コレのせいでお二人にいびられる事になってしまった。まあ、せいとは言えないか。



 目の前にあるのは光の繭だ。この中に新しいヴァルキュリーが眠っている。


 本当は儀式を行って一週間はしないと人の形にはなれないのだが、今回は専門の術者が既定の儀式をしたのではなく、使った素材から紡いだ呪文から全てが産まれてくるヴァルキュリーに合わせて、しかも神クラスの者が二人で行った特別な儀式だったので、身体形成も能力定着も早く、半日も待てば産まれると言う事らしく、拠点に帰らずにここで待つことにしたのだ。殆ど言っている事を理解できなかったが。


 そのせいで多くのお小言を頂いたが、色々と為になる話も聞けたので、中々有意義な時間だった。


 

 【さて、そろそろ産まれる頃合いだし、今の内にやっておくとしよう】


 【うむ】


 二人がそう言って立ち上がり、部屋の奥の祭壇に向かて行く。特に僕にどうしろと言った訳では無かったが、なんとなく、少し遅れて付いて行った。



 【戦士・太郎よ、貴殿は我らが風雷の試練を見事達成し、己の力を我らに十二分に知らしめた】


 【よってここに、我らの試練を達成した証を貴殿に与えよう】


 二人の前に跪いて頭を下げる。何となくこうしないといけない気がした。


 すると、頭上で何か不思議な力を放つものが現れた気がしたので頭を上げる。丁度目線の高さに、緑色と紫色に輝くメダルの様な物が浮いており、手を伸ばすと、自然とそれらは僕の手に収まった。


 【これをもって貴殿に我らの信頼を預けた事とする】


 【期待を違えず、さらなる高みを目指すのだ】


 何か一言言わなければならない気がして焦る。何にも用意していない。


 迷いに迷って考えた末の言葉が……


 「ま、どーんと任せとけって」





 何であんなこと言ったんだ何であんなこと言ったんだ何であんなこと言ったんだ何であんなこと言ったんだ何であんなこと言ったんだ……


 【カカカ、中々力の入った誓いだったではないか太郎。ますます気に入ったぞ】


 【うむ、神事の際の神を前にしてその啖呵、中々出来る物では無い。本当に期待をしても良いと思えて来るわ】


 「くぅ……そもそも初めに言ってくださいよ、行き成りだから混乱しちゃいましたよ」


 本当にあんな事言う気は無かったんだ。ただ困ってたらあの言葉が出てきて……ああ、彼らが懐の深い神様で良かった。


  ピシ……


 【ん? ふふ、まあ、良いではないか、アレが在ったから、我はお前にさらなる興味を持ったのだから。そんな事よりそろそろ産まれるぞ?】


 「え?」


  ピシ…パリ


 よく見ると、魔法陣の真ん中からややずれた場所にある繭に少しずつヒビが入って行っているようだ。


 知らず、僕の足は魔法陣の真ん中に向かって行くのだった。



  パシ、プシ……カキ…ペキン


 少しずつ大きくなっているヒビは、そのところどころからパチパチと小さな電気が放電されているようで、近づくと繭から腰に付けているポーチの金具に電気の筋が伸びた。流石雷の神様に祝福されて産まれるだけはあり、元気いっぱいの様だ。


 そこで初めて、いまこの部屋にある気配が自分とこの繭だけだと分かる。振り返っても二人はいなかった。


 ……気でも使わせたかな?


 真偽は解らないが、今はとにかく、産まれてくる者にしゅうちy…


  パッァァァン!


 「……はい?」


 いきなりなった大きな音に前を向くと、自分から見て右側に焦げた跡が付いていた。


 ……結構黒々とした


  パンパンパン  パッァァァン!


 それを皮切りに、大綱の様な電気があちこちに飛んでは周りを焦がしていく。僕は反応出来ていない。


  ボオオオオオオン!!


 僕が状況を理解する前に、僕の顔面に一際でかい雷が落ちた。




 「は!」


 一瞬意識が飛んだが、どうやら顔は焦げていないようだった。


 それどころかこちらに飛んで来る電気の筋は、どれも僕に当たる直前で消えている様だった。……何故に?


 そう思っていると、手の中からピリピリとした感触が在った。


 手を開いてみると、先ほど貰った勲章の片割れである雷神の勲章が発光して、微かな静電気を発している様だった。




 雷神の勲章


 耐久 2500


 R3


 効果 雷系の攻撃を吸収し、HPとMPを回復する 雷系のスキルの効果が増加する




 どうやらコレのおかげで助かったらしい。


 さらに放電の勢いを増しながら、繭はゆっくりとヒビを広がらせて行く。


 それに伴い風も少しずつ出てきて、今では普通は立っていられないほどの暴風が吹き荒れていた。


 それでも必要以上に体が振り回されないのは、恐らく風神の勲章の影響だろう。今は鑑定している暇がないが。


 砂塵をまき散らしながら風を吹き荒らして放電している球体は、何処か現実離れした光景を作り出していて、見ている者を引き付ける魅力の様な物を放っている。文字通り神がかっているとでも言おうか?


 そうしている間にもどんどん放電と風の勢いは増して行き、ついには雨粒の様な水滴が吹き荒れ初め、まるで嵐のような現象にまで発展し始めた時、突如として視界が白く塗り潰され、すべての現象が終息した。


 強い閃光に意識が半ば飛びかけ、やっとの思いで星の舞う視界を前に向ける。


 そこには……






 「ふにゅう」















 寝顔の眩しい女の子が、体を丸めて眠っていた。



 最後の魔改造は新しいヴァルキュリーさんでした~(ぱちぱち)


 取りあえずここで魔改造は終了予定です。それでも彼にはもっと成長してもらう予定ですが……さてどうなることやら。


 ……え? 人物の口調が安定しない? 何をいまさら、タグにもちゃんと書いてあるじゃないですか~(泣)


 一応あと三本程度で月曜日編終了予定です(最終話が長いので四本になるかも)


 ぐだ~っと長くなりがちですが、名作秀作の箸休めにでも読んでいただければ……と。

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