十五時限目 二つが良い?いやあ、根性が有りますね
鈴木 太郎
Lv6
HP 3323
MP 487
身体 324(117)
気力 251(77)
生命 288(98)
精神 255(72)
魔力 116(31)
拒絶 462(188)
運 397(109)
称号 未来への重荷
クラス 力に餓える殺戮者
加護 狡智神の加護
スキル ・物理― 投擲(198) 足技(136) 棒術(82) 槍術(19)
・強化― 幸運(139) 血の滲む努力(槍) 戦士の勘(132) 下克上(121) 歩む者 (12) 虐殺者(40)
・特殊― 覚醒(120) 鑑定(290) 努力(76) 罠士(111) 盗賊(145) 隠密 (143) 鷹の目(96)
「さて、まずは何処がどう不味いのかって所を教えてよ。狡智神の加護は特に問題ないの?」
取りあえず九死に一生を得た僕は、二人と会議をすることにした。さっきからどっと疲れが押し寄せて来てはいるが、そこら辺を不屈の労働者で誤魔化しながら話し合いを開始する。明日にはまた潜りたいので、出来ることは早めにしておきたい。
「ん~、特には問題なナイ思うよ? 狡智神ト言えばロキ様の事だケど、ロキ様は気まぐれデ加護を与えたり剥奪しタりするから、入界門を出るころには加護ヲ与えているってノも珍しい事ジャあ無い。まあ、ここ暫くハ無かったけどネ」
「へー、じゃあ本当に隠す必要なんて無かったな……」
確かにあのクエストをクリヤしたら貰えるんだったら、今までこの加護を貰える奴が多くても不思議じゃない。今回は僕を含めて四人も居るんだから、ことさらに隠す必要も無かったと言う事か……ああ、自分が醜く見える。
「しかし、ここまでデタラメなステータス表も珍しいです。魔力こそ低い(この中では)ですが、それ以外のステータスが平均的に伸びているのにこの値とは……改めて見てもどうしてこうなったのか想像が付きません」
「そうダよー、と言うカ称号なんてドこで授与されタのサー?」
……まあ、良いよね? もう腹括ったつもりだし。この二人にも一枚噛んでもらおうか。
「そうだね……じゃあ、まずはその話からしようか? 聞いて後悔しないでね? 実は……」
「と言う事があってね、その時に持たされたのがこの勲章だったって訳なんだ」
僕は皮鎧の下の勲章を見せる。これは何処に着けても効果を発揮するので、普段は目立たない所に着けているのだ。
「……」
「……」
取りあえずの説明を終えてみて、二人とも似たような顔で固まっている。どうもロキのやつは、僕が想像していたよりももっと不味い事に手を出していたらしい。
先に呆然とした表情から復活したのは、やはりと言うかアリアハムだった。
「……マジですカ。いやー、あの人はブッ飛んでるって皆知ってルけど、そんなことマでしていたとハ……しかもレア4の勲章とかマジで何考えテんだか……事にヨっちゃ、降格トか…は無いカ、あの方以外ニ製作犯をまとめラれる奴なんて知らんシね」
「随分な言いようだね? と言うか前から気になってたんだけど、なんかイントネーションおかしくない? 迷宮製作班だよね? 一班二班の」
僕が言っていることが一瞬理解できなかったのか、アリアハムは何度か瞬きをしてから手をたたいて思い出したことをアピールした。
「ああ、そうかソウカ、スズキーは知らないんだネ。確かにここヴァルハラでは流通班とカ教育班とカ、役割ごとに班で区切ってるンだけど……迷宮製作犯だけハ正式名称からコレなんだワ」
「正式名称から!?」
びっくりだ、せめて通称とかだと思ってたのに……
「何故にそんなにふざけた名前を?」
「いヤー、あそこノ連中、年がら年中作業所ニこもってる上ニ、迷宮に私情ばかり持ち込んダ階作ることが多くテね。しかも殆ド虐めに近いよウな仕掛けを山ほど思いついては設置すルし、絶対に倒せないヨうな特性持たせたユニークモンスターもバンバン設置するから、いツノ間にか訓練兵かラ正規兵かラ皆に怨まれちゃってネ……冗談から通称ニ、通称から正式名称ニってナ具合に変わっててネ。本人たちも気ニ入ってるみたイだし、それデ固定しちゃったみたイ」
「マあ、アタシの生まれるズっと前の事らしいシ、詳しくは知らないンだけどね」と言う事らしい。まあ、豆知識として頂いておこう。
「あー、と。話が反れたね、とにかく、多分この勲章のおかげでここまで成長できたみたいなんだ」
勲章を指ではじいて効果を説明する。すると、黙り込んでいたアルがそろそろと声を出した。
「おそらくですが、その勲章は努力系の系統の物なのでしょう。たしか努力系のスキルや称号は、重複するとステータスやスキルの成長制限を緩和すると聞いたことがあります。あまりそこまで能力値が上がる人が居ないので未確認だったらしいのですが……現状を考え見るにその話は本当だったようです」
「そもそも成長値がレベルを大きく超えるなんて、初めの内だけだしね~。そう考えれば、ホントなんでこんなことになってんだか……」
そんな目で見られても困る。こっちは強くなることに必死だったんだから。と言うか
「と言うか、確か一レベルの時の成長値って五以上なかったっけ?」
運とか普通に三十以上あった気がする。
「それは、三レベルまでは制限が緩和されるからです」
アルがぴしゃっと答えてくれた。もう完全に先生モードだ。
「極偶にですが、ここに来る前から成長値が高かったりする方も居る事がありまして、そう言った方々の才能を潰さないための措置なのですが……今回マスターには、その措置を利用しての初期修業を行っていただきました。その結果が、最初に迷宮に挑戦する時のステータスだったのですが……マスターがここまで立派になられたのは予想外でした」
「流石マスターです」とか輝いた目で言われてもね……ほら、アリアハムが呆れた目で見てるじゃないか。
「アルや? 忘れちゃイけないヨ? 制限が設けらレてるのニは意味があってノ事なんだかラね?」
「意味?」
はて? それは初めて聞いた。強くなりすぎて何か悪い事でもあるのだろうか?
「そー。スズキーはレベル上げノ原理についてノ説明は受けたカイ?」
最初にアルから受けた説明の事か? 溜めて固めて加工するってやつ。それなら……
「失礼ですねアリア、そんな初歩的な事はすでに説明してあります。マスターもそれを理解したからこそ修業に励んでいただいたのですから…そうですよねマスター?」
「あ、うん」
本当は言われるがまま修行していただけなんだが……まあ、良いか。
「ふーン? じゃあ、最初の圧縮ノ前に研磨をし過ぎルと、記憶がブッ飛ぶってのは知ってタ?」
「……はい?」
知らんよ
アリアハムの説明では、どうも少ない蓄積の時に魂を磨きすぎると、魂の核の部分まで削ってしまう事があり、過去にはそれで記憶喪失になった戦士も居たらしい。その戦士は感情まですり減らしてしまい。最終的に敵を切り刻む事以外考えなくなってしまったとか……
いや、アルさん。大丈夫だよ? 僕はいたって健康だし、小さい頃に幼馴染に泣かされた回数だってきちんと覚えてるから、だから……
「取りあず顔を上げようか? 女の子が地面に額なんてこすり付けちゃいけないと思うんだ、うん」
僕の精神衛生的にも、女の子に土下座されてるとか非常によろしく無いわけなのですよ?
「じゃあ、取りあえずこれ以上はレベルを上げずに成長値を上げるのは危険だと?」
何とか二人がかりでアルを慰め、紅茶を飲んで落ち着いてもらった。しばらく休めば大丈夫だろう。
「ンー、どっちかってート、スキル熟練度を上げる方ガ危険かな? 急なステータスアップは体に障るケど、いきなり三倍くラいにならないと急死すルってことは無いカら。あっても気絶クライ?」
十分悪いわ。迷宮で気絶したら死ねる。
「そんな目しないでヨ~、取りあえず今のスズキーなら三十レベルどころカ四十レベルくらい直ダって。心配なら取リあえず圧縮ノ儀式をさっさトシても良いシ」
「? 圧縮は成長限界に達してからじゃないの?」
確か成長限界をカバーするための方法が圧縮では無かったっけ?
「普通はネ。でも、一度圧縮した魂はそノ形で固まっちゃうカら、今のママ固めても良いかナって。普通は一度固めちゃうトそれ以上いい形ニするのが難しイから、皆圧縮する前ハ必死に修練するんだケど……今のスズキーにハ無縁の話だからだいジョーぶ」
……さらに判らない。圧して固めてスペースを作るのが圧縮じゃなかったのか?
「さらに判らない。圧して固めてスペースを作るのが圧縮じゃなかったのか? ッテ顔してイるヨ? アルはそノ辺説明してくレなかったノかな?」
ビクッと震えるアルの肩。えーと、なんか説明受けてないような気がするけど……僕も聞きたい時に聞くようなこと言ったし、取りあえずは気にしなーいって意味でアルの頭を撫で回す。キョトンとするアルは結構可愛い。と言うか心読むなし。
「受けてないから説明してくれたら嬉しいです」
「マあ、直前になラないと気にシない物だし……別ニ悪いって言ってル訳じゃないカら、そんナに落ち込まないでネ?」
僕が手を放すとほぼ同時にアルの頭を撫で回し始めるアリアハム。どことなくドヤ顔している気がするのは気にしない。だって目しか見えないし。
「まあ、殆ドさっき言った通りダけど……一度固マった魂は削るのガ難しいんだ。ソれこそ何十倍もノ修練をこなしテモほんの少しズツしか削れない。だカら、固める前ニ出来るだけ真ン中ノ方から形を整えテ行かないと、後ニなるにツレてかなりの力のロスが出て来ル。だから皆競っテイい形に削ろウとするんヨ?」
なるほど、最初に適当にやると後に苦労するってわけだ。 そういう事で言ったら、確かに僕は十分やったかもね。しばらくは楽できそうだ。
しかし、アリアハムはまだ話を切った雰囲気を出していなかった。
「たダし、注意が一つ。こノ工程は研磨と言うダケあって、宝石を削ル作業に似てるんダ。より美しく削るニは、それダケいびつな所を切リ落して、平面を掘りこマなければならナい。当然、原石の方はそレだけ小さくなっていク……判るかナ?」
「……つまり、さっき言ってた症状と似たような事が起こるって事?」
削り過ぎれば中の方まで削ってしまう。つまり、削るだけでは周りに付けた経験値をどんどん削って行くため……下手したらレベルが下がる?
「多分今考えテるので正解。良かッタね? 今回はギリギリでも研磨より張リ付く方が多かったかラ無事にレベル六になれタンだよ? もし下手してたら……レベルが全部剥がレ落ちて魂ガ擦切っちゃってたカモね?」
だからそう言う事言わないの。ただでさえ小さくなってるアルの背中が、消えて無くなりそうなくらい丸まっちゃったじゃないか。
「つまりは、ひとまずレベルを上げれば良い訳だ?」
「そうダね。技巧とか考えナいで、ここヲ出た後は、ヒたすら大迷宮ノ奥の奥を目指せバいいと思うヨ? どこまデ上げれば良いとかハ知らないけど、取リあえず二十を過ぎれば、ソう簡単に魂の核まで擦り切れル事は無いはズ?」
疑問形で宣言されてもな……取りあえず後半の合宿は中止になりそうだ。
「……あ、あの、マスター?」
後ろからクイクイとシャツ(あの後アルが本格的に落ち込んでしまったので、アリアハムが慰めている内に体を洗って着替えて来た)を引っ張るアル。何とか落ち着いたが、なぜか僕と顔を合わせ辛いらしく、僕と背中合わせになるようにして座っている。
「どうしたのアル?」
ササッ
顔を後ろに向けるが、完全に視界の端にも引っ掛からないアルは、やはりまだまだ僕より数段強い戦士なのだろう。少し悔しい。
「……分かった。無理してそっち見ないから話して?」
「す、すいません」
アル……完全にキャラ崩壊したな…なんだろう? 高校デビューして二か月目くらいで化けの皮が剥がれて来たクラスメイトみたいで新鮮味がある。
「あの……経験値が大量に必要なら、ボス討伐をしてみてはいかがでしょうか? 今のマスターが単独撃破すれば、レベル二十位なら何とかなれるかと思います」
「ボス? なんかあの……ここの十層に居るっていうあの? そいつってそんなに経験値落とすの?」
なんかイメージと違うな……どうせチュートリアルの終いに出て来るボスだから、二レベルくらい上がるくらいだと思ってたんだけど……?
「えと、そのボスでは無くて、その、八層に居るこの迷宮最強のモンスターの事です」
最強……こんな序盤に裏ボス?
「アレって本当ニ居るの? アタシはテッキリ根も葉もナイ噂の類だとばカり……」
「そ、そんな事無いです。現にお父s……倒した方を、私は知っています」
いまお父さんって言おうとしたよね? アルのお父さんも戦士だったのかな?
「ふーン。ハロルドさんがネー? それは初耳ダナ。でもアの人が言ったノなら信憑性は大だネ? 楽しみタノシミ」
え? いつの間にか挑戦する空気になって無い?
アルは痛い子じゃありません、責任感が人一倍強いだけなんです。
次回から魔改造編下に入ります。今までの下済みの集大成なので、少しチート臭が強いかもしれませんが……作者的には許容範囲内かと。




