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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
17/38

十四時限目 なに、水はおまけです




 この状況はどうした物だろうか? 


 あの後、アルがお縄を抱えて突っ込んできたのは知っている。その後に「ごめんなさい」の言葉を貰いながら気絶させられたのも覚えてる。


 問題はその後。


 気が付いたらお縄についたのはまあ良いだろう。アルが申し訳なさ気にこちらを見ているのもまだいい。


 問題は我が物顔でソファーに腰かけてこちらを睥睨しているアンタだよ、アリアハム。




 気が付きはしたが、何だか中々起きる機会が回ってこない。なぜなら……



 「……アリア、やはりこんな事はいけません。仕えるべき主人を縄に掛けるなどと…」


 「カー! まだ言うかネこの子ハ!! 良い? アンタは前にもまっタク同じことが在ったンだよ? 前科もちナノですヨ? いい加減現実を見なさイ!!」


 「し、しかし」


 「……ふー。アル? いいこと? 私はね、もう泣いてる貴女なんて見たくないのよ? だってそうでしょう? 前の貴女の主人(・・・・・・・)なんて最悪だったじゃない。もう、貴女に辛い思いをして貰いたくないの、判るでしょう? 貴方は頭が良い子なんだから」


 「う、し、しかし姉さ……」


 「しかシも案山子もナイよ。結局はこノ子が自分の口かラ真実を言えバ分る事なンダから。カンタンなことデしょう?」


 「う、それはそうですが……で、でも、他人のステータスを無理に見るのはマナー違反です。それも主人の物を無理に聞き出すなど……」


 「……アル? 何度同じことを言わせるの? これは貴方のためなの。それに付人は戦士の奴隷ではない、あなた達は戦士をより強く導かなくてはならないのよ? だったなら、過ちが在ったなら早めに正さなくてはならない。貴女は、前回の戦士で失敗したのは自分の至らなさからだって言っていたでしょう? だったなら、この子が道を踏み外さないように、しっかりと情報を集めなくてはダメ。戦士のステータスすら知らない付人が居て良い物ですか」


 「そ、それは…その、しかし、でも」


 「ふう」


 「ね、姉さん!?」


 「大丈夫、少なくてもこの子は貴女が逆らったぐらいで、貴女をどうこうしようなんて言う下種では無いわ。それだけはお姉ちゃんが保証してあげる。磨けばきっと何処までも強くなる事も、ね。この子が強くなれるかどうかは貴女次第なの。大丈夫、貴女もこの子も出来る子だから。お互いに気を付けていれば道を反れたりなんかしないわ。しっかりやりなさい」


 「ね、姉ざん…」


 「泣かないの、あなたはラギアス様の娘なんだから、今度こそは大丈夫よ。自信を持ちなさい?」


 「は……い」


 「いい子ね……じゃア、判っテるわネ?」



 ……いい感じの姉妹の抱擁が、悪魔の契約に取って代わった瞬間を見た気がする。目がギラ付いてますよアリアハムサン?


 しかし、話の内容を整理すると……


 

 どうやらあまりに露骨にステータスを隠し過ぎたため、二人に不信感を与えてしまったらしい。


 今回はどうもアリアハムが切れたらしい。


 アルはどうやら、今回が初めての付人では無いらしく。また前回の主はあまり良い人間では無かったようだ。


 アリアハムはアルの姉貴……と言うかお姉さん的な存在でみたいな雰囲気であった。


 アルが意外と弱気な性格だった。


 

 んー、元DV被害者の女とその良き理解者の姉って感じかな? んでもって、僕が後夫で姉に警戒されまくり……と?


 うわ、ヒルドラでありがちな関係だなおい。


 ……まあ、不安にさせた僕が一番悪いのかな? 考えてみれば、アルやアリアハムが僕の秘密を言いふらす事なんてありえないし……悪いことしたかな?


 じりじりとこちらに近づいて来るアリアハムに内心ビクビクしながら腹を決め、思いっきり目を開けて体を起こす。こういった事は勢いが大切である。


 気配で、二人ともびっくりしているのが解ったが、ここで止まればアリアハムの鉄拳制裁が飛んできそうだったので、そのまま勢いのまま行動に移った。


 手足は拘束されているが、幸い口は塞がれていない。ならば、まず行う事はただ一つだ。


 「申し訳ありませんでしたーーー!!」


 自分でもびっくりする位の土下座だったと思う。


 




 この状況はどうした物だろうか?


 まず、仰向けの状態からのジャンピング土下座に大成功したのは覚えてる。その後に二人が声を失うほどに驚いていたことも気付いた。


 問題はその後。


 アリアハムが一瞬で怒りを取り戻したのは当たり前だろう。アルが悲しみにくれた目線を送っていたのも、現状からは納得だ。


 その後、勢いでステータス表を、大スクリーンで映し出すまでは普通に物事は運ばれていたと思うんだ。


 そこから事態は一変。


 ステータス表を丸五分は見ていた二人は、それぞれ正反対の行動に出た。


 アルは、ポカーンとした後、驚いたり深い笑みを浮かべたり(物凄く綺麗だった)この世の終わりだとでも言わんばかりに青ざめたり……今は虚ろな目で「どうしよう」と繰り返しながらぽろぽろと泣いている。


 一方アリアハムは、一瞬虚を突かれたような顔をした後、メッチャ嬉しそうに微笑み、直に動揺した風を装って(バレバレだ、特にお姉さん的な微笑みの後では)から、急いで僕を縛り上げている縄を解いた後、猛烈な土下座を披露した。それはもう先ほどの僕のジャンピング土下座が霞むくらいの口上まで追加しての、見事な平謝りで、だ。


 アルの方は暫く再起不能(アリアハムの行動に気付いてすらいない)ようなので、先にアリアハムを片づける事にする。


 「いや、良いよ。頭上げて? と言うか明らかに妹守るための中身のない口上並べられてもねぇ? 別に今回の事でどうこうとかする気は無いから。アルにも手上げる気ないし」


 「……いやダな、聞いてたノ? 人が悪イ」


 頭を上げたアルは、これっぽっちも悪気なんてないような顔をしていて、軽いウインクまでしていた。幾らなんでも変わり身早いな。


 「そンな顔しなイデよ、悪いとは思ってルンだかラ。しかシマあ、確かニこれは見せられなイかもね……」


 話をそらすためなのかどうかは知らないが、アリアハムの目は僅かならず呆れが混じっていた。


 「やっぱ加護はまずいかな?」


 アルの話では、加護はかなり後の方でないと手に入る機会すらないと言う。ハッキリ言って、一生手に入らない事の方が多いので、基本無視しても構わないとすら言っていたくらいだ。しかも、今回は手に入れた手段がかなり問題でもあり、二重の意味で見せられないのだが……


 「いヤあ? 加護自体ハそこマでじゃあないよ? 神様ってのハみんナ娯楽が少ないカらね、こイツって決めた奴に力を与えてソノ人生を観戦して遊ぶってノも結構流行ってたりスるし……最初カラ粉掛ける物好きナ奴らも少なクナいらしいヨ?」


 「確か今回モ何人か最初に貰ったやツが居たはズ……」とか何とか。何だかまたこの世界の事が解らなくなってきたような……と言うか、


 「じゃあ、何がみせちゃだめなんだ?」


 加護以外はいたって見せて行けないと言う感じのものは無い。精々が幸運値と拒絶値がとんでもないことになっているらしいが、それはスキル幸運とロキの加護から来るものだ。どちらも問題ないのなら何がいけないのだろうか?


 「なニって……ああ、そウか。君はマダ外に出て無いンダったね、なるほド……井の中の蛙ってヤツかい?」


 ……


 え?


 「それは弱すぎて話にならない……とか?」


 「……ふあ~」


 いや、アリアハムさん? ダメだこいつ、とか言いそうなアクションを取られるとさらに不安になるのですが……? ああ!? 遠い目をしないで!!






 その後、やや説教気味に“常識”と言う物を教えて頂いた。


 どうやら僕の成長値は、普通で言えばレベル百を超えてしばらくたった戦士のそれと比べても遜色無い物らしく、一言で言えば「ヤリスギ」と言う物になってしまったらしい。


 「大体、何処を如何すれば召喚されたばかりの戦士がそんな事になってるの? 意味が解らない。幾ら努力のスキルを得たからって……普通、成長値はレベル数の五倍以上になると殆ど上がらないって言うのに……一番少ない魔力以外全てが十倍以上って……詐欺? どんな裏ワザを使ったと言うの?」


 ぼそぼそっと独り言を呟き出したアリアハム姉さん。口調、口調が変わってますよー?


 ……ダメだ、完全に半片言キャラ忘れてるよ。


 取りあえずこっちは良いだろう。ほおって置けばその内再起動すると思う。


 問題はこっちの壊れたレコードだ。



 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんn」


 目が虚ろなので、壊れた人形の様だった。ハッキリ言って怖い、ホラーだ。なまじ絶世の美女と言っても良い容姿なのだから手におえない。


 取りあえずこっちにも状況説明をしなければ。頼りのアリアハムはもう少し時間が要る様だし……何よりこのままだと、涙だけで脱水症状を起こしてしまいそうだった。


 「あ~、その、アル? 大丈夫?」


 「ごめ……ま、すたー?」


 虚ろな目にほんの少しだけ光を戻して、アルは顔を上げる。ふにゃりと女の子座りをしていたので、出来るだけ目線を合わせるためにこちらも座り込んでから話を始める。


 「アル、ゴメンね? アリアハムから大体の事は聞いたよ。何だかんだで隠し事をしていた僕が悪かったんだ、アルは……何にも悪くない」


 「ち、違います!!」


 アルは物凄い勢いで首を振って否定する。千切れそうな位の勢いの付いたその行動は、先ほどからのアルの様子と合わせて、彼女をさらに幼く見せていた。少なくとも、最初に見せていたクールなお姉さんキャラには、もう見えなかった。


 「マスターは正しい事をしていたのです! ここまでの能力をこの段階で手に入れる事の如何に難しい事か! こんな、こんな……入界門を抜ける前に、しかも十レベル未満でここまでの可能性を提示するなんて……マスターは奇代の戦士になる方に相違ありません! そして、その可能性の如何に危険な事か! 前途有望な戦士は、妬み辛みで長生きできない方が多いと聞きます。ですから、マスター程に可能性の塊のような方は、今のような内は御力を隠していなければならないのに……わたしは…わたしは…」


 思いの丈をすべて吐き出す様な話は、堪え切れない何かを吐き出すための行動か。アルは言う事が途切れると、またしても目が虚ろになって行った。


 ……僕は知っている。この行動は、己の内で自分自身を叱りつける行動だ。前向きな叱咤では無く、自分を永遠と苦しめるための行動。


 僕の可愛い幼馴染がよく行う悪癖だった。


 ……そっか、アルはヒヨコに似てるんだ。


 頭は飛びぬけて良くて、得た知識を実践を通して確実に力に出来る子。そのための努力を怠らず、そのため実力は飛びぬけて付いて行くが、その実自分の対処できない事に対しては滅法弱い。


 今の彼女は、少し前までのヒヨコにそっくりだった。


 一番信用している兄弟に、一番肝心な事を相談しない。


 不安と問題をすべて一人で抱え込んでそれを中々表に出さず、大切な人にばれる事を一番怖がる。


 他人の失敗は何も気にしないのに、自分の失敗だけ異様に気にして自分を責め続ける……


 ……アレは去勢するのにかなり苦労したのを覚えている。兄弟三人がかりでやって、何とか軽減した位だったが、今のアルみたいな発作(・・)は最近見なくなった。


 だとすると、自ずと対策は絞られてくる。



 「アル」


 ポスン


 「ほえ?」


 アルを抱き込む様にしてすっぽりと抱きしめる。この時、相手の耳をこちらの胸元に当てるのがミソだ。心音を聞かせるのが良いらしい。


 幾ら中肉中背だと言っても、一応アルよりは背も高いし、肩幅も大きい。だから、自然と抱きしめるとこの形にはなる。


 「アル、余り自分をいじめ過ぎちゃいけないよ? 人間、人生長いんだから。気楽にやって行かないと体も心も持たないって」


 「で、でもマスター。わたし……」


 恥ずかしさのためか、流石に少し戻ってきたアル。ゴメンな、くっついて気持ち悪いだろうけど、今は我慢してくれ。


 「デモも行進も無いって。僕だってまだ十七年しか生きてないけど、ウジウジしてるよりは誰かと笑ってた方が楽しいって事くらいは知ってるつもりだよ? 特に兄弟とのバカ話は最高さ。アルは、アリアハムと話してて楽しくないの?」


 「それは……しかし……ハイ」


 アルは少し身じろぎをするが、そのたびに僕がきつめに抱えなおすと、抵抗をやめる。何だか弱った女の子に漬け込む下種男みたいで嫌だが、これもアルのためと我慢がまん。


 「だよね。アリアハムもさっき謝ってくれたし、僕も謝り返してさっきの事は流せたよ? アルとも、早く仲直りしたいな? そんでもって、また三人でお茶会をするんだ。僕、あの時間がすごく好きなんだ。アルは、あの時間嫌いかい?」


 「嫌いじゃ、無いです」


 よし、取りあえずは完全に戻って来たな。経験的に、こっちを見上げて来たと言う事は、現実に興味が移ってきた証だ。


 「じゃあ、またお茶を淹れてくれるよね? もう六日もぶっ続けで修行してたから、早く癒しが欲しいんだ。アルの淹れてくれたお茶を飲みながらまったりするのが、今の僕の最大の癒し……判るよね? だってアルは僕のたった一人の付人なんだから」


 「は、はい」


 やや誘導尋問染みているような気もするが、特に嘘は言ってない、全部本当だ。アルも……感じている所は同じだと信じたい。


 「じゃあ、アル? さっさと仲直りして、僕の相談にも乗ってくれるよね? ハッキリ言って、アルやアリアハムの驚いてるポイントがイマイチ理解できないんだ。だから、僕が地上に上がるまでに、僕にもう一度この世界の常識を教えて欲しい。お願い出来る?」


 「は、はい! その……マスター?」


 「ん?」


 もう少し。後はアルの口から出れば成功だ。


 「私は主の御心も理解できず、あまつさえ主の怠けさえ疑った最低の付人です」


 そんな事無いけどね。どっちかってい言うと、何だかんだ理由を付けて自分の保身に走った僕が一番悪い。


 「……」


 だが今は黙っておくのが吉。


 「それでも……それでもこんな浅はかな私を、御傍に置いていただけますか?」


 十分……かな?


 「もちろん。至らない主だけど、どうか愛想を尽かさないで支えて欲しい。本当にすまなかったね、アルシリア」


 「はい。こちらこそ、申し訳ありませんでした。末永くお仕えさせていただきます、太郎様」


 今はこれで十分、後は少しずつ理解を深め合えば良い。そうすれば、きっとこの子も向日葵の様な笑顔が似合うようになるはずだ。


 少し控え目な笑顔も、十分にあってるけどね?





「あノ~? オ二人さん? おネーさんの前デアまりイチャつかないデ欲しイな~、とカ?」













……アルの腕力は、僕が足元にも及ばないくらいあった。少なくとも大の男が、裏拳で部屋を横断飛行出来る位には



 アル クール系お姉さん→実は弱気な泣き虫さん


 アリアハム 半片言破天荒商人→妹大事な優しいお姉さん


 てなジョブチェンジになりましたー


 アルの前の主人のことは特に書こうとは思ってませんが……ヒルドラやサスペンスで奥さんに刺されるタイプの人種と思っていただければ間違いはないかと?


 次回も少し説明回です。魔改造編下は少々大変なことになってしまったので、少々書き直しています(汗)


 何とか明後日には間に合わせるので、駄文(神)にならないように祈っていてください。

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