九時限目 え?嫌?
毎日投稿できる日々もあと僅か……かも
取りあえず真っ白な目で見つめていると、男は咳払いと共に佇まいを直す。
「まあ、何はともあれ隠しクエストクリヤーおめでとう。君には特典としてレアアイテムと、僕に小さな願いを叶えてもらうと言う権利を得た。小さいって言っても、結構な無茶は聞くよ? だってこのクエストを達成した奴らは結構大成するからね。まあ、先行投資と言うやつかな」
「はあ?」
ハッキリ言って唐突過ぎて何一つ理解が進まない。
男の見た目は、残念を除けばかなりのイケメンだ。後ろに流している髪は長く、水色に輝いている(比喩では無く、本当に薄く光っている)し、背は百八十センチと言った所か。全体に細すぎる所はあるが、真っ白な肌の顔は絶世と言える造形だろう。それに加えて、先ほどの登場とは打って変わって紳士っぽい立ち振る舞いを見せ始めたし、それでいて紅い目は悪戯小僧の様な純粋な輝きを放っている。
きっと女はこんな見た目とかギャップに落ちるんだろうな、とか思わせる男だった。イケメン爆発しろ。
とにかく、何だか無条件で信頼したくなると言うか、信頼したら最後と言うか……何だか不思議な気配を持った男なのだが、何だろうかこいつ? アルの話だと、ここを抜けるまでは誰にも会えなって言ってたし……はてどうした物か?
「えーと、取りあえず誰ですか?」
言った後、イケメン男は嬉しそうに目を細めて頷く。
「うん、君は素直だね。君の前に来た子達は面白い反応で僕を驚かせてくれたけど、やっぱりこういう反応の方が好ましく感じるな。では答えるが、君の名前を先に教えてくれないかい?」
「人に名前を尋ねる時は、てやつだよ」と言って、イケメン男は笑顔を浮かべる。確かに言ってる事は間違っていないので、名乗っておく。
「太郎。鈴木太郎だよ、イケメンさん」
「太郎君、ね。良い名だ。では僕も名乗ろう、僕はここで迷宮製作犯をまとめている者でロキと言う。一応はカミサマの端くれだよ」
カミサマとのたまった男は、僕のイケメン発言を軽く流した後に物凄くいい笑顔をしていた。
ロキに(一応神様らしいから敬語でも使おうとしたら、結構な勢いでタメ口を強要された)聞いた所、色々と新しい事を教えてくれた。
彼は僕たちの様な訓練兵の修行の場である迷宮を作ることを生業にしているらしい。
クエストは、僕たちヴァルハラの戦士が担う戦いなどの使命の様な物で、基本的には個人の意思で受けて完遂するものらしい。中には大きな戦いなどで強制的に参加する物もあるし、こういった完遂した後に初めてわかる隠し系もるらしいのだが、基本的には任意受注をした物を完遂するのが僕たちの仕事になるのだとか。
本当はクエストの説明はここを出てからする物で、この小迷宮にクエストの類は一切ない、らしいのだが……
「いやー、面白そうだからちょっと前につい、ね?」
男が舌をだして苦笑いしてもキモイだけ、と言いたいがかなり様になっている。やり慣れたと言う印象も受けるが、なんかこう……イケメンバクハツシロ?
つまり神様の道楽で秘密裏に作られた暇つぶしらしく、ここで手に入れたレアアイテムは、極々たまに出る金の宝箱(迷宮と言う物はよく宝箱が地面から生えるらしい)が出たと言う事にすると言う条件で、ある程度欲しい物を決められるらしい。
小さな願いとは、他人にばれるほどの事でなけば大抵は良いらしい。身の程の範囲内であれ
「んー、何だかイマイチ出来すぎな話だけど……なんだか今の状況的に何とも言えないね」
「うーん、君は素直なのにどこか現実を悲観しているようだね? 器用な物だ」
面白そうに目を細めるロキ。実はスキル以前に持っている地の幸運が怖いだけなのだが、幸運な事を苦く思う人は少数派なので、気付くことは無い。
「まあ、良いけど……たとえばどんな物がもらえるの?」
この状況で良い物をくれると言うなら貰わない手は無い。罠だと言う可能性も無い訳では無いが、幸運と共に地で持っている直感が、この申し出を受けるべきだと言っていた。
力が手に入るに越したことは無い。
「フム、特にこれと言った指定は無いが……そうだな、君が持っている槍と同等以上の物と言った所かな? 一応僕が所蔵している財宝・武具から選んでもらう事にしているが、気に言った物が無ければ作らせることも出来る。取りあえず望むジャンルを言ってくれれば見繕うよ?」
ちなみに僕の同期の訓練兵では、僕は四番目らしく。それぞれ刀、亜空間倉庫、手甲を貰ったらしい。因みに、このクエストにクリヤーするのは、五回の召喚に一人二人の確率らしく、今回の召喚は豊作なのだそうだ。僕たちって野菜感覚なのか?
「武器はあるからいらない。亜空間倉庫もコネから買ったからいいし、防具も困って無い。投擲用の装備も沢山あるし……なんかこう、便利な物と言うか補助装備的な物はないで…ない?」
敬語が出そうになってロキの目が一瞬笑わなくなった。言い直すと元に戻ったが、アレは多分すごく良く無い物だ。
……
そ、それはともかく、ニコニコとしながらアイテムボックスを弄っている自称神様は取りあえず放置だ。多分危険は無い…と思う。
貰う物は何かしらの道具で良いだろう、装飾品的なやつ。身体アップとか拒絶アップとか……指輪あたりが良いかもしれない。
問題は小さなお願いだ。これは説明から察するに、お金を望めばかなりの量を、レアアイテムがもう一個欲しいと言えばもう一個くれるのだろう。
この自称神様、多分ここの主神に要請を受けないと迷宮を弄ってはいけないのではないだろうか? 何かと秘密にすることを強要されるし、この手の人間はちょっとしたスリルを楽しむのに命を懸けることもある。
だとしたならこのお願いは、その主神にばれない事なら何でもいいと言う物なのだろう。本人もばれなきゃいいって言ってるし。
だとしたなら、この権利は金では買えない類の良品なのだろう……選択を間違えなければ。
「うーん、補助系と言うとこの辺かな? 戦闘に直接関係ない物ばかりだけど……まあ、その分補助に秀でた一品物の数々だ。さあ、見て行ってくれ」
そう言うと、ロキは手を一振りして黒い霧を出した。拠点で使っている門と同じ物の様だ、流石自称神。
その中から、アリアハムの商品カタログを見る時のように操作をしながら品を見ていく。
すると、出るわ出るわ宝の山。これがゲームならバランスがかなり崩れる物がどっさりと入っていた。
ポデルリング 種別 指輪
耐久 2000
R5
効果 身体ステータス500パーセントアップ
マキシマム・セロ 種別 勲章
耐久 2000
R5
効果 MP消費二倍 スキル威力二十倍
ミニマム・セロ 種別 勲章
耐久 2000
R5
効果 MP消費二十分の一 スキル威力半減
ナドナド。つーかこれバリバリ戦闘系じゃね?
「どうだ? いずれ劣らぬレア度五の一品ぞろいだろう! ポデルリングなどの能力上昇系の装飾品は、今の迷宮の最深部でも超低確率でしか出ないものばかりで、マキシマム・セロやミニマム・セロに至っては僕しか発行できない最上位勲章さ!!」
「ふははは、すごいだろー」とか喚いてるこの物体は、きっとどこかぶっ飛んでるんだろう。じゃなかったなら、どうして鍛え上げなければならない兵士に核級の武装を渡すのだろうか?
大きな子供は置いといて、なるべく悪目立ちしなさそうな物を探していく。確かにあれらの装備に魅力を感じなくもないが、はっきり言って禍の種に豹変する事がほぼ確定の品だ。これがヒヨコ辺りなら何ら問題は無いのだが、僕と言う人畜無害がいきなり桁外れの戦力を見せるとなると、めんどくさそうな匂いしかしない。
……ヒヨコもアレで超人の類だからな。近くに超超人が×2で居るからアレだが。
「ん?」
そんな事を考えながら進めていくと、あるモノの欄で目が留まる。
怪盗の神眼 種別 モノクル
耐久 3000
R5
効果 罠掌握 鍵掌握 罠自動生成 アイテムドロップ率三倍 多重ドロップ率アップ ヴァールハイトグランツ解放
「……これがいい」
「お、なんだい? やはりオススメはバーンオーブだよ、無差別炎上魔法を秒間七発連射できるからね、並みの炎耐性程度だったら紙も同然にもや、し? ……これかい?」
ロキが少し不思議そうにこちらを見る。まるっきり予想外だと言う表情だ。
「……キミはもっと戦力に直結する物を選ぶと思っていたよ。と言うより、このクエストをクリヤーするやつは皆力を求めて暴れるやつばかりだしね。僕の見立てでは、残念ながら君に戦いの才能は無いように見える、だから戦闘を有利に進められる物をオススメするんだが……」
「そう、だね。僕もそう思うよ、槍の先生にも少し呆れられた位だしね。でも僕は補助系に甘んじる気満々だから、こういった戦闘以外の補助に使えそうな物の方が良い」
それに、何だか運命的な物も感じるんだよね。まだ罠士にも興味あるし、これ持ってたら楽に取得出来そうだ。
ロキは少し考える素振りを見せてから一つ頷き、アイテムボックスを操作しだす。
「まあ、方針は人それぞれだし、別に口を出す気はないよ。それにこれも使い方によっては結構な戦力になるからね」
そう言いながら、手の上にプレゼント用の包装を施した小箱を出現させる。少し不満気だが、特に異論は無いようだ。
「じゃあ、これが怪盗の神眼だ。一応これもレア度5の最上級品でね、装備すれば罠士スキルと盗賊スキル、後は隠密スキルを習得できる。後はまあ、自分で効果を見てくれ、拠点に戻れば確認できるだろう」
手渡された小箱は、見た目にそぐわない重さだった。感覚で三キロほどだろうか? リボンを解くと包装ごと箱が消え、中からシンプルなレンズが出て来た。大き目なメガネのレンズくらいの大きさで、フレームなどは全く付いていない。唯一ただのレンズと違う所は、端に一本細い鎖が付いている所だが、途中で千切れたのか中途半端な長さでぶら下がっている。
「? ロキ、これどうやって付けるの?」
そう言えばモノクルの付け方とか知らない。ニヤッと笑ったロキは少しイラつく。
「ああ、心配しなくても良いよ。君たちは掘りの浅い人種みたいだし鼻も高くないから、眼窩にはめ込めとか鼻に掛けろとは言わない。ちょっと目の前に持って行ってごらん?」
なんだろう、なんだか軽く貶されたようなからかわれたような変な気分だが、取りあえず言われた通りにしてみる。すると、モノクルは僕の目に吸い付く様に近づいてきた。
「のうっは!?」
思わずそれを払いのけて尻餅をついたとしても仕方のない事だと思うんだ、うん。そこ、腹を抱えて笑わない。
「の、のうっは、のうっはって……ククク」
別に気分を害すとかではないが、ちょっと不服だ。説明くらいしても良いだろうに。
僕は再びモノクルを拾い、目に近づけた。するとそれは、再び引き寄せられるようにして僕の左目から一センチくらいの位置に来て固定される。顔を振ったりしてもしっかりと付いて来る様だ。
「クク、ふはー……おや、どうやら今度はちゃんと付けれたみたいだね。うん、中々似合ってるよ? 世を忍ぶ影の薄い名怪盗って感じだ。まあ、狼の皮鎧がうだつの上がらない下っ端盗賊の様だが……そこは次第点としておこう」
笑いから復活したロキは、すぐさま憎まれ口を速射する。きっとこの男の星なのだろう、つっこむのは止すとしよう。
「そう? アリガトウ。大切にさせてもらうよ」
「お願いするよ、それは手癖の悪い友人の形見でね。前に主神の妻を寝取ろうとした時に落としたものだから、そのうち取りに来るかも知れないけど。因みに半分消滅させられたけどね」
色々と不吉な事を言い放ってから、ロキは少しだけ姿勢を直す。
「じゃ、もう一つの願いだ。こっちは結構シビアに行かせてもらうよ? ばれると僕も結構なお叱りを受けるからね。一億ヤクル寄越せとかあと三つアイテム寄越せとかならいいんだけど、流石に百レベル分の生体魔力とかはちょっとダメだ。レベルは五十毎に本部へ報告が行くから、誤魔化すのが面倒くさい」
出来ないじゃなく面倒くさいと来たか。何だかこの男の性格が解ってきたような気がする。
とにかくここでの選択が重要になってくる気がする。何が良いだろうか……
「ちなみに、前の三人は何を要求してきたの?」
「ん? んーと、確か最初のやつが幾つか質問をしてきた後に金を三億くらいむしっていったね。次のが、これまた質問をした後、その質問を僕が気に入ったからあと二つくらいアイテム握らせて先に押し出した。最後のは……一人の安否を確認した後に、小手をもう一つと脛当てをセットとか言って持って行ったな、中々肝の据わった女性だった」
少し遠い目をするロキ、何だか親近感の湧く姿に、ちょっとピンと来る物があった。
「その心配していた人はどうだったの?」
「ん? ああ、すでにここから出た子だったからそう伝えたら、かなり気を落としていたみたいだったかな? 確か「お姉ちゃんの役目が」とか呟いていたと思うけど」
確定、アイツ(香住)だ。と言う事は、ヒヨコももう出ているのか……流石だね、ピンチん時のあの子は油断ならない。
と言う事は、僕が暫定最下位か。香住も、ヒヨコがすでに外だと分かったならその日にでも出ているだろうから、確実に僕が最後なんだけど……そうだな…?
「そう、か。じゃあ、願いを聞いてもらってもいい?」
「お? そうかい、何にする? やっぱり秒間なな…」
「ここのモンスターの出現傾向を弄って欲しい」
自分でも驚く位にすんなりと出て来た願いに、ロキだけでは無く僕も固まってしまった。
数秒後、ロキの目が愉快気に細くなった
ロキ君は馬鹿な子……ではないと信じます。きっと夢に生きる素晴らしい人……のはずです!!
次回からは太郎君の魔改造の環境を整えます。太郎君が彼らに追いつく日は来るのか……がんばれ!太郎君!!




