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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
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七時限目 む?起きましたか


 きょうもはりきってとーこー



 さらに一週間が経った。


 打ち分けとしては、最初の一日は前日などと同じメニューだったが、二日目にアリアハムが届けてくれた投擲用投石(ただの石呉)十トンセットが来てからはがらりと変わった。


 まず、殆ど僕だけの自主練になった。まあ、アルがたまに見に来るし、早く強くなりたいから、むしろ訓練時間は長引いてお小言を頂いてるくらいだが……


 内容は、殆どがアリアハムから買った罠を利用して行っている。


 罠と言っても、指定して補充した物体を、指定した間隔で天上から落とすという簡単な罠で、落ちて来るものは勿論石だ。


 訓練その1、石打


 何て事は無い、ただ槍(今は鉄杭)で落ちてくる石を弾くだけの物だが、最初は中々上手く行かなかった。


 何しろ同様の罠が十三個、ギリギリ槍の届く範囲で設置されていて、落ちてくる間隔も十分置きほどで変わる。殆ど間が開かない間隔で、時には2~3個の石が同時に落ちてくる物を弾くのは、思ったよりもかなり大変で。アルに基本を習っていても、最初は半分も当てる事が出来なかった。


 それでも一日に何時間もやっていれば日増しに当たる数も多くなってきて、昨日あたりからは殆ど打ち洩らしも無くなっていた。


 ……五つ外す度に、何処からか横向きに(・・・・)高速の石が飛んで来るのが怖かった、と言うのも無いではないが…


 訓練その2、石落とし


 こちらも何てことは無い、先ほどの罠の石を投擲した石で撃ち落とす、と言う物だが……どちらかと言えばこちらの方が難しかった。


 槍はアルに手解きを受けたが、野球すらまともにやった事のない奴に、拳より小さい動く標的を、同じ大きさの投擲物で撃ち落とせと言うのは酷ではないだろうか?


 まあ、投げ方は不思議と分かったし、スキル補正が働いたのか、物体の落ちる速度と投げる物の通過する予想は頭が勝手に計算してくれていた様で、言うほど悲惨では無かったが……最初終わった後は頭が割れそうに痛かった。


 今はこれを五時間ずつ計十時間の修練が日課になりつつある。ただ、それぞれの片づけに二時間ずつ取られるので、一日の半分以上をこの二つの行動に使っていると言う事になっている。


 


 話が変わるが、僕は最初の買い物(少々強引な貸付に近かったが……)以来、結構な額の買い物をしている。


 鉄杭六ダースに定期落下魔法陣十三セットほどだが、それだけで一万六千ヤルク(鉄杭四千に罠一万二千)もかかったのだが。実は僕、まだ迷宮デビューすらしていない。


 基本的に迷宮に潜ってモンスターを倒さなければお金を得られない訓練生が、何故初期準備金(訓練生に最初に支給される資金)の1.5倍ほどの買い物ができたかと言うと、良いアルバイトを紹介してくれた人がいたからだった。




 「よースズキー、選別終わってルー?」


 今日も今日とて訓練とアルバイトを終えてへとへとな所に、能天気な声を上げて突入して来る似非ベリーダンサー。イラッとは来るが、今の訓練が出来ているのもこの人のおかげなので、何とも言えない。


 「今日の分は今終わった。訓練場に積んであるから、今日もヨロシク」


 「ヨロシクされたヨ♪」


 ウインク一つした後、アリアハムは訓練場に向かっていった。


 


 「いヤー、ひにヒニ成果が上がってくネー。あの量だったら、今日は七千……イヤ八千ってトコかな?」


 「ありがとう、じゃあそれでお願い」


 「ハイハイ♪」


 嬉しそうにアイテムボックスから銀貨を八枚取り出すアリアハムに苦笑いしながら、アルが訓練場から運んでくる鉄塊に目をやる。半ば反射的に発動した鑑定スキルで、それが八十パーセント程の純度だとわかった。


 ……これが僕のアルバイトだ。


 ただし鉄塊を作るのでは無く、鉄を含む石を探すまでが、と言う注釈が入るが。


 僕が修業で使っている石は、このヴァルハラにある鉱脈から出る捨石(鉱物の含まれない石)で、時たまそう言った物の中には、鉱物を多く含むが見た目では石呉にしか見えない物が含まれていたりする。


 アリアハムはそこに目を付けたらしい。


 曰く、鑑定スキルの練習がてらアルバイトしてみる気はないか、と。


 アリアハムは土の魔法スキルを持っているらしく、ある程度は鉱物の精製が出来る。しかし中に鉱物が入っているかどうかは、割ってみないと分からなく、手当たり次第にやっていては効率が悪くて余り良い稼ぎにならないらしい。


 しかし、確実に中に鉱物が入ってるとわかっていればその限りでは無く、今の様に三十分ほどで二百キロくらいの鉄塊の生成が出来る様だ。


 しかも自分が精製できるギリギリの鉱物を持って来ているようで、この鉄塊、キロ五千ヤルクで売れる物らしい。


 これだけ聞くと酷いボッタクリに聞こえるが、僕のポーチが予想以上に高価な物らしく、何も言えなくなってしまった。



 偽りのポーチ 市場価格 五百万ヤルク



 ……


 うん、何も言うまい。アリアハムも、利益の半分から僕に渡している値段を引いた分を返済として受け取っているらしいし。


結果、ますますアリアハムに頭が上がらなくなってきている気がする。


 


 「で、スキルは手に入ったノ?」


 恒例になった夜のお茶会で、バケツコップを抱えたアリアハムが聞いてきた。アルの眉間に一瞬皴がよるのがコワイ。


 「……いや、さっぱりだ。既存のスキルはそこそこ上がって来たんだけど、中々槍術が出てこなくてね」


 そう言って、少し離れた燭台に手を向ける。この燭台、慣れたらそれなりの距離が有っても操作できることが分かった。


 出すのはステータス表だ。



 

   鈴木 太郎



 Lv1


 HP 179


 MP 14





身体 14(17)


気力 10(15)

 

生命 12(18)


精神 5(10)


魔力 3(7)


拒絶 10(15)


運  52(27)



称号 なし


クラス なし


加護 なし


スキル ・物理― 投擲(57) 足技(14) 


・強化― 幸運(37)


・特殊― 覚醒(1) 鑑定(67)




 足技は、アルとの訓練の時に出て来た。組手の時に、少し足払いなどを使っていたら出て来たので、もしかしたら隠れた才能として開花した物かもしれない。


 「ありゃ? 気力も十行ったんだ? オメさんです」


 「どうも」


 ステータスは、基本的に戦闘以外では上がらないが、筋トレなどの自己訓練などで成長値は上昇する。その時に、一定の確率でステータス値も上がるが、あまり高い確率では無い。ここまで一レベルで高くなったのは、偏に幸運スキルの賜物である。


 「でもネェ、ここまでのステータス持ってテ小迷宮にスラ入らないなんテ奴は珍しいよね。確か二番目に抜けた子は、二ケタに入ってたステータスが二つで、十階層のボス倒しタって言ってたぐらいだし」


 「それはまた極端な話ですが……そうですね、ステータスだけ見れば、マスターはとっくにこの迷宮を抜けていてもおかしくは無いかと思います……どうなされますか?」


 主語が抜けているが、アルの言いたいことは分かる。今ならもう出れるかもしれないが、槍術が出るまで粘るのか、と言う事だろう。


確かに待たせすぎるのも良くは無いが……そこを気にして中途半端で合流しても意味がないと思うんだ。あいつらは待った待たせたを言い合うような関係じゃあないしね。


「このままもうしばらく訓練してから行くことにするよ。僕は、ゲーム序盤にレベルを上げられるだけ上げる派だしね」


二人ともキョトンとした顔でこちらを見る。たまには向こうの知らない単語を言うのも悪くは無い、と思う。



と、まあ、こんな感じで僕は、異世界生活二週間目にして安定した修業環境を手に入れた。







それからさらに二週間の後、夜のお茶会にて、僕たちは感動を分かち合っていた。



 鈴木 太郎



 Lv1


 HP 304


 MP 39



身体 22(31)


気力 21(27)

 

生命 18(24)


精神 15(18)


魔力 9(12)


拒絶 17(21)


運  58(37)



称号 なし


クラス なし


加護 なし


スキル ・物理― 投擲(88) 足技(29) 棒術(21) 槍術(2)


・強化― 幸運(56) 血の滲む努力(槍術)


・特殊― 覚醒(1) 鑑定(117) 努力(8)




 「つ、ついに!」


 「おめでとう御座います、マスター」


 「血の滲む努力で出るとは……スズキー、あんた男だね」


 色々と増えたが、棒術と努力は先週に、槍術と血の滲む努力(槍術)は今日の修練の後に出た。


 努力は、筋トレや瞑想なんかのトレーニングで成長値が上がりやすくなるのと、成長値が増えた時、一緒にステータスが上がりやすくなると言うスキルだった。


 棒術と槍術はいいとして、問題は血の滲む努力だった。これは、適正の皆無なスキルを、自力で手に入れた時に手に入る物で、そのスキルの熟練度が劇的に上がり難くなる代わりに、スキル使用時の補正も劇的に上がると言う物だった。


 アリアハム曰く、究極のマゾスキルだそうな。


 一応当初の目標はクリアーしたのだから、明日からはついに小迷宮の攻略に乗り出す事になった。


 「まあ、ココまで来たんなラもう大丈夫でしょう。ハッキリ言って、平均的な接近系の戦士七・八レベル辺りと同じくらいなステータスダシ」


 ここのボスは、五レベルが適正って言ってたしな。


 「マスターの槍術は、スキルを抜きにしても中々様になってきましたから、後は思い切りが大切です。少なくとも、この迷宮で死亡するなんてことは起こらない程度には強くなっていますから、自信を持ってください」


 「ありがとう、アル。ここまで来られたのも、君が居てくれたからだよ。まだまだ未熟だけど、改めてこれからも宜しく」


 

 この日は、少しだけ遅くまで話をしてから、翌日に影響が出ないように寝た。




 「ぼぅい? オ、おぅ?」


 ハッキリ言って、寝起きは悪い方だ。ダラダラと何度も寝るなんてことは無いが、気分良く起きられるなんて体験した事は一度もない。


 「おはよう御座います、マイマスター」


 「オオー…っす」


 律儀にも覚醒と同時に挨拶してくれるアルはメイドの鏡だと思うが、心苦しくも前日の疲れを消化したての体は、ちゃんとした挨拶すら返してくれない。まあ、アルも慣れたもので、僕の調子が戻るまでの時間で朝食を用意してくれるのだが……実を言えば、あまり嬉しくは無い。






 ~約一月前~


 あれは、僕がこの世界を受け入れたすぐ後の事だった。


 

 「じゃあ、これからの話をしようか」


 「畏まりました」 


グルルルルゥ……


 「あ」


 心機一転、さあ新しい門出だと意気込んだ直後、思い出したかのように強烈な空腹が襲ってきた。


 「う、ゴメン」


 「いえ。そう言えば、マスターはこの世界に入ってからの三日間、まだ一度もお食事を摂っていらっしゃいませんでしたね。すぐに食事を用意いたします」


 アルが燭台に向かって何事か言ってから、中に手を入れていた。おそらくはスキルと同じように食事も取り寄せるんだろう、が。


 そんな事よりも今のはひたすらに恥ずかしかった。勢い込んで話を進めようとした矢先に腹の音って……空気読めよ。


 自分の腹の虫を一方的に責めている間に、アルが何かを抱えて戻ってきた。


 「お待たせしましたマスター、こちらがマスターのお食事になります」


 アルが持ってきた物は、大きな紙包みだった。茶色い紙で綺麗に包装されたそれは、一辺が七十センチはありそうな箱型で、置いた感じを見ても中々の重量がありそうだ。

 

 「えと、これは?」


 アルが僕の言葉を受けた後に包装紙を剥がすと、その中にも茶色の紙で包装された箱型の包みが、今度は手に乗るくらいの大きさで出て来た。


 「高栄養携帯食料グロウスレーションと言う物です。この包み一つが一食分になりますが、この迷宮に居るうちは幾らでも支給されるので、いくつ食べても構いません」


 「へー」


 整然と積み重なっている包みの一つを手に取って、紙を剥がしてみると、中にはショートブレット(カ○メに似たお菓子)に似た携帯食料が九本入っていた。


 姿形はまんまカ○リーメ○トみたいだが、一つひとつの重さがアレの二倍くらいはあった。


 後に思うが、何故この時、僕は不用意にこの物体を口に運んでしまったのだろうか? 普通、未知の場所での最初の食事は、最も気を払う物だと思うのだが……まあ、後悔は先に立たず、と言う事か。


 「ブグぶし!!?」


 味については多くを語るまいが、青魚の十倍は生臭く、舌に何らかの刺激が与えられたとだけ言っておこう。



 「マスター」


 苦い思い出をほじくり返していると、アルに呼ばれた。どうやら準備ができたらしい。


 テーブルには、濃茶色の液体の入ったコップ(ジョッキサイズ)があり、並々と注がれたソレは、見ただけで半固体だとわかる質感をしていた。


 ……ソレが三杯。隣には、アレが包まれていた小包み紙が三つ分ほど畳まれて置かれていた。


 「……」


 「……」


 僕は何も言わずにテーブルへと歩み寄る。アルも余計な事は言わずに控えていてくれた。


 これは、毎日の儀式みたいなものだ。この携帯食料、高カロリー・高たんぱく・高栄養な上に腹もちもかなり良い優れものなのだが、その一番の長所は、やはり成長速度上昇の効果だろう。中にこのヴァルハラで取れる、生物の成長力を促進させると言う果実が練りこまれているらしく、僅かだが経験値や熟練度の上昇に補正が入る仕組みになっているらしい。


 これが厄介な事に、包み三つ分食べれば大体1,2倍になると言う物で、しかもこの迷宮を出るまでは固体の食料はこれしか取れない。そして早く強くなりたい僕は、(こころ)よりも実益(からだ)を取るべく、毎朝こうして命を削るような作業を断行する運びになっている。


 「……頂きます」


 


 「…………ごぢそうさまでじた」


 「お粗末様でした」


 完食まで一分二十二秒、この中にあるドラマはどうか察してほしい。


アルは片づけをしながら、こちらを心配そうに見ている。どうやら今の僕は、傍から見ても真っ白に燃え尽きているらしい。


味はまだいい、アレはアルがかなり濃いめに淹れてくれたお茶をベースにしているから、口当たりはそこそこ改善している、香りも同じ理由でパス。かなりドロドロ……と言うよりゴロゴロした喉越しも結構慣れた。問題は、飲み終わった後の胃だ。


元々腹持ちの良い食料であるため、三食分も詰め込むと胃の中で膨張してしまい、今現在進行形で内側から膨らんでいるのを感じる。


一応、アリアハムから買った消化促進剤(らしい)を混ぜているので、三十分もすれば動けるようにはなるが……苦しい物は苦しい。


が、余り時間を無駄にしたくは無い。今日は初迷宮だし、アルが言うには各階層の上り階段の間に付けば、この拠点まで移動できる魔法陣が設置されているらしい。


アル達の言葉では、一レベルにして僕のステータスは、この迷宮のラスボスにも通用する程らしいので、目標では、今日中に三層辺りまでは攻略するつもりだ。


だから、腹はきつくても装備の確認くらいは終わらせておく。




「マスター、お忘れ物はございませんか?」


「大丈夫だよ、ポーション系はいっぱい持ったし、応急札も必要分は持った。石も沢山持ったし、鉄杭だって十ダースも持ってる。モナフェスの耐久度も一杯まで回復させたし、これで死んだらまた一月は修行かな?」


心配……と言うよりは、遠足の最終確認をしているお母さんみたいな顔で確認してきたアルに、冗談気味に返す。


どうも心配なんて欠片もしていないようだ。


「では、行ってらっしゃいませ、お早いお帰りをお待ちしております」


恭しく頭を下げるアルに軽く手を上げて返し、訓練場の扉を潜る。そこには一坪ほどの空間があり、床を見れば魔法陣が描かれていた。


……そう言えば、この世界に来てから魔法陣を見たのは初めてだった。案外シンプルな構成をしており、見慣れない文字以外なら僕にも書けそうなくらいだ。


目を前に戻せば、先が見えないくらいに長い階段が、先へと続いていた。












僕の迷宮探索、すたーと……かな?



 やっと迷宮に入ったー。


 なんだか自分が書くと、どうも全体的に長くなる感じがします。もっとサクッと進みたいのですが……


 まあ、せいぜいゆっくり進みますので、気長に読んでくださいね。

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