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目覚めはHR十分前

 


 僕こと鈴木太郎はいま夢を見ているらしい。


 いやー、これがまた中々凝った夢で、気が付くのに随分と時間がかかってしまった。


 何しろ携帯のアラーム機能で目覚める所から始まって、四月の寒気に負けて毛布に再度包まり、少し離  れた机に置いてある、ちょっと考えられないような音を出す巨大目覚まし時計が鳴るまで再び惰眠を貪る……


 こんな日常らしい日常の夢を見れば、誰だってこれが現実だとは思うまい。


 少なくとも僕は、携帯のアラームが鳴ってから目覚まし時計が鳴るまでの十五分間が三回は過ぎるまでは何も疑わなかった。


 二度寝してるんだから、時間の感覚が曖昧なのは当然と割り切って三十分(体感で)、ちょっと遅いなと四十五分(体感で)、一時間(体感で)たってからやっと故障かと起きる決心をして、初めて現実との齟齬を認識した。


 まず、思ったほど部屋が寒くなかった、確か昨日は息が白くなるくらいには冷え込んでいたはずなのに、今は大体十五度と言った所か、ここはまぁ、暖房の消し忘れかもしれない。


 次に、包まっている毛布が薄い、気付いていみれば、最早防寒具として機能しているのかどうか疑わしいほどに薄く穴すら開いていた、これもまぁ、シーツでもひっぺがしてその過程に穴でも開いたのだろうと思えばまだ良い(良くはないし、ちょっと有りえないが、寝起き頭などそんなものだ)だろう。


 最後に、何処からか聞こえる小さな音、パチパチと弾けるような音は、以前叔父の家で使っていた、薪ストーブの薪が燃えているときに鳴っていたのに似ていた。


 ……いや、それはダメだろう。


 暖房の消し忘れか、はたまた携帯あたりの充電器のショートによるものか……どれにせよ寝ぼけている間に焼死とかは勘弁なので、急いで顔を上げたのだが……


 


 素朴な部屋だ。


  パラ……パラ…


 壁は全面灰色で床には色あせた絨毯、目に見える範囲で見られる家具は七つほど。


  …パラ……パラ


 壁際に供えられた机と椅子のセット、スカスカの本棚、木製のドアが一つ、やけに凝った作りの燭台が壁から生えていて、赤々と薪の燃えている暖炉がある。


  ……パラ……パラ…


 そして、暖炉の前には丸テーブルと椅子二つのセットがあり、


  …パラ……パラ…


 ………


  …パラ……パラ


 ……


  ……パラ……パラ…


 …


  パr


 片方の椅子に変なのがいた。




 ……ウン、部屋は無事だ。


 安心して再び毛布モドキに包まる。


 暖炉が灯っているなら暖かいはずだし、別に火事ってわけでもない。


 部屋に暖炉は付いていなかったと思うが気にしない、なんたって僕の部屋はコンクリ打ちの壁じゃあないし絨毯も敷いてはいない。勉強机以外にテーブルも無いし、椅子もまたしかりだ、燭台なんて言うまでもない。


 つまりここは僕の部屋ではないわけで、昨日はきちんと自分の部屋で眠りについたはずだ。


 結論、これは夢だ。


 故に、再び僕は僕の部屋に戻るべく、睡眠を再開することにした。




  …パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ…… パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ  ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パ   ラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ……パラ…………ぱたむ……ストン。

 

  ポスポスポスポス……


 「おはようございます、ご主人様(マイマスター)




 ……どうやらこの夢は、まだ僕を解放してはくれないらしい。








 さて、取りあえず落ち着いてみよう。


 さっきまでは、まあ、寝起きだったし? 取り乱しても仕方のない場面だったとおもう。


 しかし今は割かし落ち着いてきたし、眠気も何処かに飛んで行ってくれたので、取りあえず現状把握。




 暖かい暖炉の前で、これまた暖かい紅茶を飲みながら美女とお茶してる




 ОK落ち着こう、大丈夫だ僕、こんな展開に付いて行けるやつなんてまず居ないさ。

 

 そう、一つずつ解決して行けば良い。


 取りあえずあの後、そのまま寝たふりを出来るような空気ではなくなったので起きたのは良い。


 その後、目の前の美女が引いてくれた椅子に腰を掛けたのもまあ、流れとしては良しとしよう。


 そもそも十畳やそこらくらいの部屋の中で、何処に逃げられる(扉が目に入ったが、何だか嫌な予感がしたのでパス)訳でもなく、いつの間にか出されていた紅茶に手が伸びるのも自然な流れだったと言えよう。


 「んー」


 「いかがいたしましたか?」


 「いや、ちょっと現実逃避を図ってみた」


 「はあ?」


 流石に美人なだけあって、小首を傾げる仕草も様になっている。


 「いや、こっちの話し、気にしないで? 所で」


 一旦話を切り、紅茶で口を湿らせる。


 「君の事を教えてくれないかな? はっきり言って現状が一ミクロンたりとも理解できない。まさかゴシュジンサマとか言っといて知らないとかは勘弁してね?」


 そう言って改めて目の前の美女を観察してみる。


 背の丈は百六十と少し、顔立ちははっきり言ってすごく整ってる。目元は少し吊り上っていて冷たい印象を受けるが、藍色っぽい目の色と相まって、物凄く絵に成なっている。髪も綺麗な白に近い銀色で腰の辺りまで伸びていて、氷雪の精霊なんてのが居るならこんな感じかな? てな感じの美女だ。


 うん、美人だ、美女だ(大事な事は二回言っておく)、それは良い。特に異論はない。


 しかし……


 「私は…」


 「何故にメイド服?」


 「……」


 「あ」


 しまった


 「ごめん、話の腰を折ったね。続けて」


 いや……うん、いいや、もう何でもきてよ。




 「それでは改めまして。私、本日より鈴木様に仕えさせていたただきます、アルシリア・S・28と申します。鈴木様の鍛錬や実践を陰ながらお手伝いさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 鍛錬? 実践? 何を言っているのかよく解らないが、もう一々話を止めても頭が追いつく気がしないので、取りあえず一通り聞き流す事にした。











 ……どうせ夢だしね。


 ※作者の心はガラスです。あまり心無いことは、思っていてもそっと心の中にしまっておいて頂けると助かります。


 

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