腹筋の妖精ドジュラマジュラ
腹の贅肉をプルプル震わせて踊る、踊る、踊る! 汗が飛び散る! 滝のような汗が滝汗となって(何だそれ)流れ落ち彼女の部屋のフローリングに溜まる! たった今この地上に出来上がったばかりの高濃度の塩湖にナロ子(仮名)の孤影が映る……ほぼ裸の状態で下からのショットがセクシーだっ! そう思う人間は少ないかもしれないが。大半の人間が「暑苦しいデブめ、汚い汗を撒き散らしてンじゃねえよッ」と心無い罵声を浴びせ舌打ちをするだけかもしれないがっ!
それはともかくナロ子のダンスタイムは終わった。額の汗をリストバンドで拭う。呟く。
「ふうふう、これで二キロくらいは痩せたかな……」
そしてナロ子は体重計に乗った。体重は少しも減っていなかった。叫ぶ。
「どうしてッ! どうしてなの~ッ! どうして体重が減らないのよーッ!」
それは食べる量に比べて運動量が少ないからだよ……と正論を言ったところで、食べるのが大好きで運動が大嫌いなナロ子にとって不快な情報でしかない。彼女が欲しいのは耳障りな説教ではなく、楽して痩せる方法なのだ。
どこからともなく虚空に現れた変な生き物が言った。
「僕が君を痩せさせてあげる!」
「うわ~ありがとう! 特に腹回りの肉を落としたいのよ私! ところで、あんた何者?」
「僕はドジュラマジュラ。腹筋の妖精だよ!」
「うわ~ご利益ありそうな妖精だわ~! 早速お腹の肉を取って! お願いッ!」
「解ったよ……でも、言っておかないといけないことがあるんだ」
「なに?」
「吃驚することかもしれないけど」
「だから、なに?」
「ちょっと危険なんだよ」
「ダイエットに危険は付き物。無理のないダイエットなんて、ダイエットじゃないンだから!」
ナロ子の間違った思い込みを微塵も否定せず、ドジュラマジュラは言った。
「実は悪い奴らに追われているんだ。奴らを君の素敵な脂肪パワーで追い払って欲しいんだよ」
太鼓腹をナロ子はバチバチ叩いた。
「この脂肪が消えて無くなるなら、何だってするよッ!」
「うわっ、奴らが来た!」
ドジュラマジュラが慌てふためくと同時に、虚空に別の変な生き物が現れた。そいつは言った。
「消費者保護ネットワーク公安委員会の者だ。ドジュラマジュラだな。医薬品医療機器等法に違反して、効果のない痩せ薬を売った容疑で逮捕する!」
「何人たりとも、私のダイエットの邪魔は許さないッ!」
ナロ子が叫ぶと同時に、彼女の腹から黄色いビームが発射された。それは脂肪をエネルギーとするビーム光線だった。歪んだ魔力によって濃厚な脂肪が強力な光線へと変換されたのである。その魔法のビームが消費者保護ネットワーク公安委員会を自称する変な生命体を追い払った。
「おのれ、次こそ逮捕してやるからな!」
追っ手が消えるとドジュラマジュラは安堵の表情を浮かべ、どこからともなく体重計を出した。
「魔法の体重計だよ! さあ、乗ってみて!」
ナロ子はドジュラマジュラの体重計に乗った。その美しい瞳が輝く。
「100ミリグラム痩せた!」
「脂肪が消費されたからだよ。おめでとう!」
ドジュラマジュラに祝福されたナロ子は、これからも脂肪を消費する黄色いビームを出し続けることを違うのであった……間違えた、誓うのであった。おしまい。