58話 竜の爪
二十分ほどの逃走・追走劇が繰り広げられ。
滝山会のリーダーは第十三倉庫の前で落ち延びた構成員・中国マフィアたちを糾合し、倉庫入口の扉を背にして立ちはだかった。
これまで逃げる一方だった刈り上げ青スーツの男は、一転して抵抗の色を帯びて銀の仮面を睨みつける。
数の差だけで言えば四十対五で滝山会の優勢。
銀の仮面と鷲崎たちは、銃を手にした残党から隠れるようにコンテナから片目を覗かせる。
物陰から、鷲崎が問う。
「マフィアのボスはどうした!」
その問いに、打ち付ける雨に減衰した野太い声が遠くから返って来る。
「さあな!途中ではぐれちまったわ!」
滝山会のリーダーをワントップとした指揮系統で、倉庫の扉をぴったりと閉めて中には通すまいとするその隊形。
余裕を大きく見せつけるようなその言葉が、実は余裕などない虚勢であることは直ぐに透けた。
取引は失敗に終わり、中国マフィアの連中はこの後どのようにここから脱出するかが唯一の鍵。
逃げても逃げても銀の仮面とその味方からは逃げきれず、途中で合流した手下たちは皆やられた。
ここで滝山会の連中を中心とした一団が、急に矢印を百八十度変えて向かってこようとしている。
何か覚悟を決めた様子の滝山会のリーダーは、大声と大振りの動きで銀の仮面に噛みついた。
「おら、どうした!さっきまでの威勢はどこに行った。そんなところに隠れてないで出て来い!正義の味方が聞いて呆れるぜ」
雨に濡れた四十丁程の銃が構えられる中、リーダーは声高に挑発を続ける。
鷲崎と若衆はこの状況に対して冷静に観察しているが、ここまであまり戦果を挙げられておらず、まだ経験が浅い運転手は、悔しそうに歯噛みした。
「何だアイツら…さっきまで散々逃げ回ってたくせに、調子乗りやがって」
銀の仮面は、コンテナの影からその様子をじっと見つめていた。雨粒がマントに弾かれ滑り落ちる音だけが、静かに耳に届く。
「……芝居がかった挑発だな」
仮面の奥で呟いたその声に、鷲崎が頷く。
「…妙に大振りですね。少々やり過ぎとは思いますが、どうしますか?」
「逃す手はありません。やり過ぎでもなんでも、潰すのみ」
銀の仮面は一歩、前へ出る。
あの程度、物の数ではない。一思いに薙ぎ払ってやればそれで片付く。
その瞬間、若衆の一人――鉄砲玉が、はっと何かに気づいた。
「仮面どの、危ない!」
叫ぶと同時に、鉄砲玉は銀の仮面の背に覆い被さるように飛び出した。
――パンッ!
乾いた銃声が、雨音を裂いた。
銀の仮面の背後、別の倉庫の四階の窓から、滝山会の狙撃手が銃口を覗かせていた。
銀の仮面を正面に釘付けにし、背後から狙撃するための罠を。
鉄砲玉が身代わりとなって受け止めた。
「がは……っ」
銀の仮面の頭を狙った正確な一撃は、飛び付いた鉄砲玉のうなじを撃ち抜き、鉄砲玉は銀の仮面と共に崩れ落ちる。雨が血を洗い流し、地面に赤い筋を描く。
運転手と若衆がコンテナの陰に引きずり込みながら叫ぶ。
「玉井ィィ!!」
「おい、しっかりしろ!」
「……っぐ……!か、仮面どのは……?」
「…っ…大丈夫だ。何ともない」
震える声でそう言うと、鉄砲玉は苦しげに笑った。
「良かった…。やったよ。俺――ゲホッゴホッ!」
「喋るな!傷が開く!」
ゴポ、と血が肺に混じる音がし、鉄砲玉は苦しそうに咳き込む。うなじから胸までを斜めに貫いた銃弾は、防弾チョッキの前面内側で止まった。
運転手は彼のライフルとスリングベルトを外しながら抱き上げる。衣擦れと共に、血まみれの銃弾が一発、防弾チョッキの隙間から地面に転げ落ちた。
鷲崎は、ライフルを倉庫の四階の窓に目掛けて数発撃ちこみ、間もなく狙撃手を沈黙させた。
これまで二人三脚でバディを組んできた運転手は、雨か涙か分からぬ濡れた顔で鉄砲玉を胸に抱きしめ、必死に呼びかける。
「死ぬな…死ぬな玉井ッッ――!!」
「ゴボッ、ゲッホッ、ガハァ……!」
窒息しそうな苦しみに襲われる鉄砲玉。
運転手の手を強く握りながら、口から小さく赤白い歯が覗く。その口元は苦しみの中に達成感が滲んで、笑っていた。
銀の仮面は、静かにその傍に膝をついた。
「……まさか、お前に命懸けで助けられるとはな」
雨音が強まる中、銀の仮面の声は震えているかのようだった。膝の上で、拳が握り込まれる。
そして、その両手は血に汚れることも厭わず、鉄砲玉の胸とうなじに当てられた。
左手はうなじに、右手は胸元に添えられ、淡く光り始める。
「――治癒」
蒼い光が、左手とエメラルドペンダントから上がる。
その柔らかな光は胸元に集まり、傷口を包み込むように輝いた。
体内深くを貫通した銃創は、再生して盛り上がった肉によって塞がる。
流れていた血はみるみるうちに止まり、服の丸い痕を残して肉体は完全に再生した。
運転手の胸に抱かれた鉄砲玉の呼吸が段々と安定していく。
鉄砲玉は肺に絡んでいた血の一切が消え、気道に残っていた血を吐き出してからやっと、普段の呼吸を取り戻す。
痛みも苦しみも全て綺麗さっぱり消えたことに、驚きを隠せない。
目を細めたまま、銀の仮面を見上げる。震える手で自分の胸に触れ、呟いた。
「……生き、てる……?」
銀の仮面の丸いマスクは、夜に浮かぶ満月のように朧げに輝き、鉄砲玉の顔が映るほどすぐ近くで彼を見つめた。
「お前は…玉井と、言うんだな」
そう名を聞かれ、鉄砲玉は小さく頷いた。
大粒の雨の中、そこだけが静寂に包まれたかのように、二人は見つめ合った。
「――私は、銃では死なないと言っただろう。何故飛び出したんだ」
僅かに怒っているかのような口ぶりに対して、玉井は小さく笑った。
「……命がけで仮面どのの楯になるって、決めたっすから。楯になるなって言われても…俺が生かされた理由は、このためだって……!」
雨粒を払う振りをして、玉井は袖で目元を拭った。
運転手は玉井を胸に抱きながら俯き、鷲崎と若衆は、今も尚、銃口を向けてくる滝山会のリーダーたちを睨んだ。
「――馬鹿なことを…」
銀の仮面は立ち上がり、マントを揺らして振り返る。
しばしの沈黙の末、銀の仮面は低い声で言った。
「二度と私の楯になどなるな。お前たちの命は使い捨てじゃない。ちゃんと組長の下へ無事に帰すと決めている」
銀の仮面の声は、雨音に負けないほど強く、そして静かに響いた。
「命がいくつあっても足りないような危ない橋を、お前たちに渡らせるわけにはいかない。人柱は、一人で充分だ――」
コンテナの陰から一歩ずつ、銀の仮面が滝山会の前に姿を現す。
雨粒を弾く濡れないマントが豪雨の中で広がり、左手に魔力が集中していく。
その様子を見た滝山会のリーダーは、顔を引きつらせた。
「……畜生ッ――!!」
後ろから狙撃すれば勝機があると踏んだがその狙いも潰れた。
もう、逃げ場はない。
四十丁の銃口が銀の仮面に向けられる。
銀の仮面は左手の五本指を鉤状に立てる。
鋭く白い光が長い爪の形を取り、眩い閃光を放ち始めた。
その五本の爪は、神話の獣が目覚めたかのように空気を震わせ、雨粒すら弾き返しながら周囲の空気を切り裂いていく。
滝山会の連中は銃を構えたまま、立ち尽くす。
先程までとは空気が一変し、確実に"殺しに来た"気配に最大級の恐怖を覚えながらも、虚勢を張って叫んだ。
「撃て、撃てぇぇぇッッ!!」
四十丁の銃が一拍遅れて火を噴いた。
だが、銀の仮面は微動だにしない。
全ての弾丸は爪の前で停止し、力なく地面に転がる。
そして銀の仮面は、静かに右足を一歩踏み出した。
そして――。
「――龍爪轟断」
左手の五本の爪が、空を裂いた。
その巨大な一撃は、倉庫の前に陣取る四十人を一撃で屠り、分厚い鉄の扉ごと切り裂いた。
五本の爪の軌跡は、足元の地面から倉庫の壁、軒先までを一直線に抉り取った。
悲鳴すら上げる間もなく、瞬く間に肉体を切り裂かれた四十人。
リーダーを始めとする彼らの体はその場で細切れになり、遅れて、ドシンと重たい音と共に倉庫の扉が倒れた。
その奥で、倉庫の中に隠れていた影が現れる。
爪と爪の僅かな隙間で命を取り留めた男がたった一人。
金に物を言わせたような服装の男が、地面にへたり込んでいた。
襟には滝山菱バッジが光る、滝山会の組長その人。
金糸の刺繍が施された白のスーツとハット。首元には巨大な金のチェーン。指には宝石の指輪がいくつも嵌められ、サングラスの奥から銀の仮面を呆然とした目で見つめている。
一言も発せぬまま、滝山会組長は雨の降らない倉庫の地面に水溜まりを作った。
銀の仮面が近寄るのにも反応できない組長は、すぐ二歩の距離まで近づかれても逃げ出す事叶わず、あっさりと両手足を光る帯で拘束された。
遅れて倉庫に宗我部組若衆たちが飛び込み、無事に滝山会の組長を捕縛したのを目撃すると四人は一斉に息を吐いた。
死者を一人も出すことなく任務を果たした安心感に包まれ、若衆・運転手・玉井は互いに目を見合わせる。
鷲崎は別動隊から受信したトランシーバーを受け取った。
『こちら一班、広州赤竜會のリーダーを拘束。当該一名を残し他は全てクリア。どうぞ』
「…こちらセンター、滝山会の組長を拘束。他はクリア、班員は全員無事だ。一班と二班はベースに戻って報告。オーバー」
『一班了解。オーバー』
『二班了解。ベースに合流します。オーバー』
別動隊も首尾よく、取引相手となる中国マフィアのリーダーを捕縛したとの知らせに、ようやく四人の顔に笑顔が差した。
往路、高速道路を駆けていた緊張の面持ちとは打って変わって、無事に任務を完遂したことでやっと彼らは肩の荷を下ろしたようだった。
銀の仮面と若衆四人、縛り上げた滝山会の組長の足元に転移陣が浮かび上がり――。
六人の景色は空中テントが真上に浮かぶ倉庫の中に移った。
数分ほど遅れて別動隊の二チームも合流。その中には、縄で縛られた中国マフィアのリーダーの姿。
雨と泥を吸いきったぐちゃぐちゃのスーツで、床に引き出される。
襟元で珠を握る赤竜のバッジが、物悲し気に光っていた。
周囲は最初の戦闘――、一方的な殲滅の痕跡がそのままに残っている。
破壊されたワゴン。蜂の巣になった箱やケース、そして、物言わぬ屍となった滝山・赤竜両者の兵隊二百余名。
一矢報いることも出来ず、完膚なきまでに野心と望みを叩き潰された首魁二人は、コンクリートの床に広がる血の海に戦慄する。
倉庫に連れて来られて以降、ずっと全身をガタガタと震わせていた。
雨と返り血と泥にまみれた高級スーツは見る影もなく、誰がどう見ても敗者の姿を物語っていた。
光る帯に縛られた滝山会組長と、縄に縛られた広州赤竜會のリーダーを、銀の仮面ら十一人が見下ろす。
執行を待つ二人に、低く重たい言葉が告げられる。
「――お前たちは、この日本を二度と立ち上がれなくする悪魔の薬を広めようとした」
二人の肩がびくりと震えた。
おずおずと仮面を見上げる二人の目は完全に怯え切っている。
「その罪は、どう償うべきだと思う?」
投げかけられた問いに対して、二人は押し黙る。
罪を認めても、言い逃れしようとしても、銀の仮面の前では等しく死が待っている。
映像で見た惨劇。目の前で繰り広げられた凄絶。
二人は詰んでいることを悟った。
…幾許かの逡巡。
二人は唇を震わせながらも、真一文字に結んで口を割らない選択をした。
「――そうか」
沈黙を"否"と受け取った銀の仮面は、左手を掲げ、再び転移陣を作動させる。
「ならば、国民に問おうではないか。お前たちの罪はどう裁かれるべきかを――」
銀の仮面と首魁二人は倉庫から掻き消え、その姿は東京に移った。
東京・新宿警察署。
晴夜の歌舞伎町の喧騒が遠くから響いてくるゴールデンタイムの新宿。
客引き、ナンパ、酔客の声が入り混じり、今日も細やかなトラブルの予感が漂っていた。
新宿署の入口では、守衛が警杖を手に立っていた。その足元に突如、幾何学模様を描いた魔法陣が現れ、淡く光り始める。
「な、何だ…!?」
光が一瞬強く瞬いたかと思うと、そこには膝を突いて縛られた二人の男と、マントを揺らして優雅に立つ仮面の男が姿を現した。
守衛も通行人も目を見開き、言葉を失う。
その登場の瞬間、空気が一変し、誰もが息を呑んだ。
銀の仮面は、体重を無視したかのように両手で首魁二人を軽々と持ち上げ、入口の扉の前に乱暴に投げ捨てる。そして、ゆっくりと守衛の方へ向き直った。
「この男たちは、名古屋港で違法薬物・フェンタニルの取引を行っていた。指定暴力団・滝山会の組長と、中国マフィア・広州赤竜會の日本リーダーだ。指名手配中とのことなので、こちらに連行した。後は任せる」
銀の仮面がそう告げると、守衛は目を見開いたまま呆然と立ち尽くす。現実感のない光景に、思考が追いつかない。
その間にも、通行人たちがざわめき始める。
「おい、あれ銀の仮面だろ……!」
「はあ!?マジかよ!」
慌ただしくスマートフォンが次々と掲げられ、多くのカメラレンズが銀の仮面と首魁二人を包む。
だが、彼は一切気にする様子もなく、静かに足元に魔法陣を広げる。
マントがゆったりと広がり、足元の幾何学模様が再び淡く輝き始める。
そして――。
光が一瞬強く瞬き、銀の仮面の姿はその場から掻き消えた。
残されたのは、乾いた地面に膝を突いたままの首魁二名と、通行人たちのざわめき。
「消えた……」
「まさかこんな所で本物に会えるなんて……」
「ヤバすぎ…」
「…てか、あいつら誰?」
「全身ぐしゃぐしゃだけど。ひょっとしてヤクザとか?」
「あー。そうかも」
「何したんだろアイツら…?」
その声に我に返った守衛は、慌てて無線を取り出し、応援を要請する。
「こちら正面入口、至急応援を!指名手配犯二名を確保、状況は……特殊だ!」
署内から飛び出した署員たちが、地面に膝を突いたままの二人を見つける。
こいつらが指名手配犯かと思い至った署員たちだが、その視界に、今まさに消えゆこうとする魔法陣の光の跡がわずかに入った。
それは、新宿中央公園の鳩ポストの横で光る、あの転移陣と遜色ないものだった。
「――まさか」
「オイオイ…」
「……またかよ?」
騒然とした街の喧騒の中、新宿署の署員たちは全員が頭を抱えたのだった。
名古屋港の倉庫に一人で戻って来た銀の仮面は、若衆十人の前で、倉庫群一帯に散らばる死体と夥しい血痕を焼き払う。
「――浄火結界」
死体のみを焼き払う白い炎は、倉庫内の二百余体と外に点在する数十、数百体を瞬く間に包んだ。
「うわっ!?」
「燃えるッ!?」
宗我部組若衆たちがいるのにも関わらず、倉庫内に上がった火の手に、服を反射的に叩いて慌てふためくが、暑さも痛みも息苦しさも感じないことに、数秒程して気付く。
「――これは死者のみを焼く魔法なので大丈夫ですよ。私たちは燃えません」
口調がやや坂本に戻った銀の仮面の説明。
宗我部組若衆たちは「何だ…」「びっくりした…」と口々に言いながら安堵する。
幻想的にも思える白い炎の中の光景は、圧巻の一言に尽きる。
その炎が晴れた頃には倉庫中に広がっていた死体と血痕は全て消え去っており、破壊されたワゴンや木箱などが広がるのみだった。
ただ、戦闘のいざこざで散らばった紙幣・札束が、否が応でも若衆たちの目線を釘付けにする。
若衆の一人はその金の山を見て涎を垂らしそうになった。
鷲崎がそんな彼に声をかける。
「……おい」
「ぅ、すんません」
若衆は、鷲崎から己の我欲を咎められたと察してすぐさま直立姿勢。
だが鷲崎は怒声を上げるどころか、小さく顎をしゃくり上げた。
「…?何を謝ることがある。行くぞ」
「――へ?」
鷲崎たちは、滝山会が残していった大量の札束へと向かっていく。
鷲崎が率先して拾う事でOKサインを受け取った若衆たちは、我先にボストンバッグに入るだけの金を詰め込み続ける。
壊れていないアタッシェケースはそのまま安置し、次へ取り掛かろうとするが、たった十人の両手とバッグでは到底拾いきれない量の大金が散らばっている。
「おい、車持って来い。積めるだけ積むぞ!」
「はい!」
倉庫群の外に停めておいた車を取りに若衆が三人走っていく。
念のため肩にライフルベルトを担いで駆け出した彼らは、雨に濡れる雑用をむしろ喜んでいるかのようにも見えた。
残る若衆は大量の紙幣を纏めているが、その傍らで銀の仮面が小さく首を傾げた。
「――ん?」
近くでその唸り声を聞いた玉井が小さく振り向いた。
仮面の目線は倉庫の外を向いている。
車を取りに行った三人とは別の方を向いているのに気付いた鷲崎も、銀の仮面の様子を注視した。
「どうしました?」
「……いや、何でも」
彼はそう言うが、目線と意識は倉庫の外へ向かっている。
金を拾う手を止めた玉井は、鷲崎と銀の仮面のやりとりを聞いていた。
若衆たちが金を拾う中、銀の仮面がゆっくりと歩き出す。
倉庫の外へ向かうようで、若衆たちもそれに合わせて立ち上がろうとするが。
「――気にしないでください。ちょっと外の様子を見に行くだけなので」
黒革の右手を小さく振りながら、銀の仮面は雨の降りしきる屋外へ歩いていく。
彼が去り、しんと静まりかえった倉庫の中で大半の若衆が金拾いを再開する中。
鷲崎と玉井は目線で通じ合い、どちらともなくライフルベルトを肩に掛け、銀の仮面の後を追った。
倉庫群の路上には多くの全壊車輛があちこちに残されている。
銀の仮面の重圧呪縛によって真上から圧し潰された滝山会と広州赤竜會の車は、どれも恐竜が通り過ぎた後のような壊れ方をしていた。
先程放った白い炎によって、外には一つの遺体も血痕もない。
潰された車の中に残っていた遺体も、今はもうない。
銀の仮面は大雨のカーテンの向こうで歩き続ける。
鷲崎と玉井はその背を尾行、銀の仮面は後ろを振り返ることなく進んでいく。
やがて銀の仮面はある倉庫の方へと進んでいく。
その倉庫は戦場にならず無傷の外観を残しており、その周辺には全壊車輛などもない。
扉を片手で開けた銀の仮面が中に入るのに合わせて、遅れて鷲崎と玉井も雨から逃れるように駆け込んだ。
その倉庫の中には、黒いシャツと黒いスーツに身を包む三十代後半の男性がたった一人。木箱に腰掛けていた。
銀の仮面は入ってすぐの場所で立ち尽くしてその男性を見つめている。
銀の仮面の背中越しに見える男性は、こちらを見て小さく笑った。
「――来たか」
鷲崎と玉井はまだ生き残りがいたかとライフルベルトを握るが、銀の仮面の肩が小さく震えていることには気づかない。
木箱から腰を上げ、両手をポケットに入れながら男性は真っ直ぐこちらを向く。
銀の仮面は、そのスーツの男に向けて、たった一言声を上げた。
「……拓弥」
毎週月曜・水曜・金曜20時投稿予定です(祝日は15時投稿予定)。
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