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48話 力の源

 十一月一日、昼。

 東京・中野、白田の部屋。


 机のパソコン画面の光が青白く室内にぼんやりと広がっている。

 白田は椅子に腰かけ、眼鏡を掛けたまま、指先でキーボードを叩いていた。資料の整理や公式サイトへの問い合わせ・各種申請の処理に没頭しているようで、蓮が後ろで動いていることにさほど注意を払っていない。


 その背後で、蓮は小さなテーブルにポケットティッシュと包みの付いたままの飴玉を二つ並べた。渋谷の喧噪の中、銀の仮面コスプレの青年たちから受け取ったものだ。


 机の上の飴を注視しながら左手に魔力を流し込むと、掌から淡い光がにじみ出る。すると飴もその波長に同調するようにほんのわずかに青白い光を放つ。

 包みのままの飴を一つつまみ、目を細めた。


「……やっぱりか」


 微かだが、確かに魔力の気配がある。

 地球では通常、外部から魔力を注ぎ込むことはできないはず。異世界でしか存在・成立しないはずの理屈が、なぜかこの飴に宿っている。


 次にポケットティッシュへ目線を動かす。

 同様に左手に魔力を込めると、淡い光が紙の繊維を透過するように広がり、微弱ながらも反応が返ってきた。


「……同じだ。どちらにも、魔力が籠ってる」


 低く呟きながら、飴とティッシュを見比べる。

 どちらも普通の人間から渡されたものであり、蓮が魔法的な加工をしたわけではない。販売ページにはポケットティッシュはなかったはずだし、この飴も記憶にはない。ただ一般人の手から渡されたはずの市販品のものに、微量とはいえ魔力が確かに宿っている。


 蓮は思案げに唇を結び、机に肘をついた。


 白田のキーボードを打つ音が小気味よく続く。

 その音に混ざりながら、蓮の視線は光を収めて普通の見た目に戻った飴玉に釘付けになっていた。


(……なぜだ。魔力は外から供給できない。少なくとも、この世界では……。それなら、これはどこから来た?)


 飴をつまみ、逆の手でティッシュを撫でる。

 微弱な波動は、確かに魔力として蓮の感覚に触れていた。






 鑑定と推測を続ける蓮の背後で、カタカタと小気味よいキーを叩く音が止まった。

 白田がディスプレイを見つめたまま伸びをして、時計に視線を落とす。


「……あ、もうこんな時間」


 彼女は振り返り、椅子から立ち上がった。


「蓮くん、お昼どうしますか?」

「特に決めてないですけど」

「じゃあ、食べていきません?せっかくですから、蓮くんの好きそうなもの作りますよ」


 そう言うと白田はエプロンを取り出し、髪を後ろでひとまとめにして台所へ向かった。

 蓮は鑑定を中断し、無言のままその背中を見送った。


 鍋の中で油が弾け、スパイスの香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。

 クミンやコリアンダーが炒められる香りは、定食屋のカレーとは明らかに違う、深みのある香りだった。

 蓮が深呼吸すると食欲を掻き立てる香りに思わず腹が「くぅ」と鳴る。

 空腹を自覚してしまった蓮は、一旦飴とポケットティッシュの事は脇に置き、カレーの完成を今か今かと待ちわびた。



 やがてテーブルに二つの皿が置かれた。

 こんもりと盛られたライス、その上を鮮やかなルーが覆っている。

 素揚げの野菜が彩りを添え、見た目にも食欲を誘う一皿だった。


「どうぞ。スパイスから作ったカレーです。ちょっと手間かけてみました」

「……手間、かけすぎじゃないですか?」

「ふふ。蓮くんに食べてもらうんですから。お休みですし」


 白田は冗談めかして笑い、蓮は両手を合わせてからスプーンを取った。

 口に運ぶと、複雑な香辛料の香りと野菜の甘み、じっくり煮込まれた旨味が一度に広がる。


 その瞬間――。

 体の奥底で、魔力がわずかに満たされる感覚があった。


「……こ、これは?」

「え?辛かったですか?」

「いや……違う。とても美味しいんですけどこれは一体」


 思わずスプーンを止めた蓮に、白田は一瞬きょとんとした顔をした。

 しかしすぐに、少し照れたように肩をすくめる。


「何入れたんですか?」

「普通のスパイスと野菜と……日頃の感謝、かな。えへへ」


 茶化すように笑いながらそう言った。

 けれど蓮は、その言葉を軽く聞き流すことができなかった。


 日頃の感謝――。

 昨日渋谷で受け取った飴やティッシュから感じた微量の魔力と、今こうして自分のために作られた料理。

 宿った魔力はいずれも同じ波動を放つが、このカレーは一際強い。ここに何か共通点がある。


 蓮は無言でスプーンを動かしながら、口の中に広がるスパイスの余韻と、ほんのわずかに満ちていく魔力を静かに噛みしめていた。





 食後、蓮は街へ出た。

 白田の料理で得た小さな手掛かりを裏付けるためには、より多くの例を探す必要がある。


 休日の駅前は人通りが多く、広場には催し物の告知や学校の掲示物が並んでいた。

 その一角に、近隣小学校の児童が描いた絵が十数枚貼られている。

 秋の遠足、運動会、家族の似顔絵――素朴で力強い色彩が並ぶ中、一枚だけ異質なものがあった。


 銀の仮面を描いた絵。

 黒いマントと銀色の顔を、子どもらしい丸い筆致で大きく描き、隣には「ありがとう」の文字が添えられている。

 その絵から、ごく微量ながら魔力の波が漂っていた。


 蓮は人目を避けるように絵へと近づき、指先でその絵を撫でる。

 確かに感じる。飴やティッシュに宿っていたのと同質の、淡い魔力の気配。


「……なんで、この絵だけ」


 目を細めながら、蓮はさらに周囲へ視線を走らせた。

 すると少し離れた町内会掲示板に、もう一枚、異様に光を帯びて見える紙を見つけた。


 そこに貼られていたのは、「地域を守ってくれてありがとう」という手描きのポスターだった。

 自治会の誰かが作ったらしい文言はありふれたものだが、紙の中心には大きな三日月と仮面のイラストが描かれ、その全周には寄せ書きのように子どもや大人のメッセージが肉筆で書き足されている。


 〈夜道を守ってくれてありがとう〉

 〈安心して暮らせる希望が見えました〉

 〈きれいなまちをありがとう〉


 一つひとつの文字に、微かではあるが確かに魔力が宿っていた。

 蓮は無言でそのポスターを見つめ、胸の奥に小さな確信の芽を抱いた。


 ――銀の仮面への感謝や祈りの念のようなものが、何かしらによって魔力に変換されている。


 ただし、その仕組みも発生条件もまだ不明瞭。

 飴や水、ティッシュのように物に宿ることもあれば、絵や言葉のように形跡に宿ることもある。


 蓮はわずかに目を光らせ、通りを行き交う人々の姿を黙って見つめていた。





 夕刻。

 白田の自室。パソコンのモニターに映るのは、ニュースサイトのトップページ。ハロウィン後の渋谷の雑踏を映した記事を横目に、白田は指先でキーボードを叩いていた。


 そこへ蓮が帰って来る。彼はソファに座り、机の上に飴とポケットティッシュを置いた。


「白田さん、少し話があります」


 真剣な声色に、白田はすぐに手を止め、椅子を回した。


「……なんでしょう?」

「昨日、渋谷で受け取った飴と……絡まれた時に渡されたポケットティッシュ。あれを調べたんです」

「え?」


 白田の眉が僅かに動く。蓮が机に置いた飴玉二つとティッシュは記憶に新しい。


「……微量ですが、これには魔力が込められていました」


 一瞬、空気が止まる。白田は目を見開き、信じられないといった表情で品々を凝視した。


「……これに、魔力が?」

「はい。最初は気のせいかと思ったんですが……今日も確認しました」


 蓮が左手に力を込めると、飴とポケットティッシュが全く同じ青白い光を淡く放ち始めた。

 白田は目を丸くして食い入るように見つめる。


「これだけじゃなくて、駅前に貼られた小学生の絵、町内会のポスター。一見して普通の絵やポスターでしたが、どちらにも共通していたのは銀の仮面への思いが強く込められていたという事です。ほんの僅かですが魔力の痕跡を感じました」


 ホログラムで、駅前の壁に掲示された絵と町内会掲示板ポスターを映した画像が空中に浮かび上がる。

 白田は息を呑み、口元に手を当てた。

 そしてすぐに椅子の背に体を預け、深く考え込む。


「……つまり、地球上にも魔力供給の手段があるかもしれないってことなんですね」

「まだ仮説の段階ですけど、可能性はあります。何故そうなっているかは全く見当がつきませんが、銀の仮面への強い感情や想いが形になった時、それが魔力に変換されているのかもしれない…と」


 蓮は淡々と告げながらも、心の奥に微かな期待を抱いていた。

 魔力が尽きれば、彼はただの人になる。だが――もしこの現象を解き明かせば、活動を続ける糧にできるかもしれない。


「確証を得たいんです。手伝ってくれませんか?」

「……はい。分かりました」


 白田の黒目がきらりと光る。

 彼女はパソコンの画面を切り替え、研究用に組んだ解析ツールを呼び出した。


「地球では魔力は発生しない。ずっとそう信じていたけど……違うんですね」

「はい。少なくとも“ゼロではない”。昨日までは考えられませんでしたが」


 白田は唇を引き結び、飴玉をそっと手に取る。

 机の引き出しから、携帯型の簡易センサーを取り出した。

 それは公式サイト制作時に蓮と協力してパソコンなどと同時に作った魔術機械。白田が組んだプログラムと蓮の魔術式の融合体に接続し、飴を載せる。


「……反応あり。やっぱり微量ですけど、確かに魔力が通ってる」


 液晶には小さな波形が現れ、心臓の鼓動のようにゆるやかに上下を繰り返していた。


「ティッシュのほうは……こっちも同じ。数値は低いけど、完全にゼロじゃないですね」


 白田は食い入るように数値を見つめ、すぐにペンを走らせて紙にメモを取った。


「これをくれた人はどうでした?」

「一般人でしたね。コスプレをしただけの普通の人。もちろん魔法の痕跡も魔力もありませんでした」

「うーん…つまり……これは魔力そのものを込めたというより、宿っているのは誰かの意思の可能性がありますね」

「意思?」

「はい。例えば“善意”とか“感謝”とか。人の想いが物を媒介に魔力に変換されているのかもしれません」


 白田は顔を上げ、蓮を真っ直ぐ見た。


「渋谷で渡されたのは、善行の最中にくれた飴やティッシュ。駅前の絵やポスターも、誰かに喜んでもらいたくて描かれたものでしょう。……全部に共通しているのは“人に向けた善意”です」


 蓮は短く息を吐き、腕を組んだ。


「……祈りや感謝が、魔力になる?」

「そう。もしそうだとしたら、蓮くんの力を維持する方法が、地球でも成立するかもしれない」


 その言葉に、沈んでいた空気が一気に明るさを帯びた。


「ちょっと待ってください。他の絵やポスターには何も感じなかったんですよ。両親に向けた似顔絵や清掃ボランティアをねぎらうポスターには、同様に感謝があったはずなのに」

「そうなると、指向性の問題でしょうね」

「指向性?」

「家族や一般ボランティアへの感謝と、銀の仮面への感謝とでは何かが違うようです。何故そうなっているのかは一旦置いておいて、銀の仮面への感謝を込めて絵や手紙を書くとそこに魔力が帯びる、との仮説はだいぶ有力そうです」


 白田は椅子を回し、パソコンに向かい直る。

 公式サイトの管理画面を開きながら、指先でテンキーを叩いた。


「……サイトを使いましょう。特設ページを新設して、“銀の仮面への感謝や応援の声”を募集できるようにするんです。これなら信憑性の高いデータを集められそうですよ」

「なるほど。……前から問い合わせフォームで感謝のメッセージとかは来てましたけど、それには俺は何も感じなかったんですよね」

「あっ、魔力は感じませんでしたか?では…オンライン上では魔力伝達も感知も出来ないと言う事でしょうね…。それなら手法を変えましょうか」


 白田は机の上で両手を組み、考える。


「…もしかして、実物の必要がありますか?」

「実物?」

「文字の電子通信じゃなく、絵や手紙のように実物で手元に届くようにした方が良いかもしれないと、ふと思ったんですが」

「――ああ、そうしましょう!」


 強く頷いた蓮に白田は笑顔を返す。


「では実物でこちらに届く方法を考えましょう。その方が良い検証になりそうですね」

「やり方次第では全国から集まる可能性がありますね」

「ええ。誰にでもできる形で協力してもらえれば、今後の活動がだいぶやりやすくなるでしょう」


 白田の声は、熱を帯びながらも慎重さを失わない。

 彼女の瞳には、これまで閉ざされていた暗い道に光が差し込んでいく未来が映っていた。


「まずは試験的にプレゼント受付を始めましょうか。どうすればお互いの安全と個人情報を脅かさずに授受できるか、いろいろ試してみましょう」


 白田の声に、部屋の空気がわずかに引き締まった。

ほんのわずかだが彼女の胸に小さな灯りがともった。


「……蓮くん。この結果次第で……光明が射すかもしれませんね」


 その声には、普段は冷静な彼女にしては珍しく、確かな熱がこもる。

 モニターに映る新しい入力画面が、未来への扉を開くかのように静かに光っていた。







 ---



【スレタイ】

【三日月党】銀の仮面支援スレ★11【ハロウィンオフ会】


【491:無名の日本人】

 公式サイトに新ページ出来てたのでお知らせ

 以下、コピペ


 ===========

『銀の仮面公式サイト運営より』

 ――このたび、銀の仮面への感謝の気持ちを直接届けていただける「プレゼント受付」を開始しました。

 手紙・絵・小さな贈り物など、あなたの想いをお寄せください。

 受け付け場所は、各ゲート近くに設置された「鳩ポスト」です。

 鳩の像を目印に、どうぞお気軽にご利用ください。

 ===========



【492:無名の日本人】

 >>491

 !?!?!?


【494:無名の日本人】

 >>491

 鳩ポストwwwwwネーミングかわヨ


【496:無名の日本人】

 マジで出現してるぞ。

 新宿中央公園の転移陣ゲート横に設置されてるの確認した。

 白い鳩がちょこんと乗ってる。

 かわヨ


【497:無名の日本人】

 オカルトの域だけど、銀の仮面だから納得できる不思議。


【499:無名の日本人】

「お気軽に」って書いてあるけど、何入れたらいいんだこれ。


【501:無名の日本人】

 俺は銀の仮面のイラスト入れてきた

 手慰みで書いてたんだけどまさかこうやって活きるとはな

 ちゃんと受け取ってくれるといいなあ


【503:無名の日本人】

 うちの子が手紙書いてたからパパ投函しに行っちゃうよ

 新宿だったら片道一時間だし、週明け外回りのついでに行っちゃうよ


【505:無名の日本人】

 五合目でも設置確認。登山者だけじゃなくて売店の人たちもめっちゃ写真撮ってたわ。


【506:無名の日本人】

 鳩が妙にリアルで草。目がこっち見てくるんだよな……。

 気のせい?


【508:無名の日本人】

 でもなんか神聖みあるな。下手にふざけたもん入れられん雰囲気。

 すげえ鳩に見られてる感じする


【510:無名の日本人】

 ゴミ突っ込もうとした外国人ニキ、鳩に突っつかれまくって涙目逃走wwww

 xxxxx://x.com/xxxxxxxxxx/status/xxxxxxxxxxx


【513:無名の日本人】

 >>510

 wwwwwwwwwwwwwwwwww


【515:無名の日本人】

 >>510

 草


【516:無名の日本人】

 >>510

 大草原不可避wwwwwwww


【517:無名の日本人】

 懲悪システム搭載wwwwww


【519:無名の日本人】

 >>510

 ゴミを!入れる!お前が!ゴミなんですゥゥゥwwwwww!!!


【520:無名の日本人】

 ちゃんと見張ってるのな。鳩ガーディアン。


【523:無名の日本人】

 この土日で折り鶴百羽折るぜ。月曜仕事帰りに入れてくるわ。


【525:無名の日本人】

 俺は千羽鶴挑戦中。どんだけ時間かかるんだろ。

 でもまあやれるだけやるぜ


【527:無名の日本人】

 銀の仮面像を木で彫るって人もいるらしいね


【530:無名の日本人】

 え、それどこ情報?


【532:無名の日本人】

 Xで見た。丸太から既にあらかたの形まで出来てて草


【534:無名の日本人】

 クオリティ高いの投げ入れる猛者出てきたな

 流石モノづくり大国ニッポン


【536:無名の日本人】

 俺の子どもが最近光る泥団子作りにはまってるんだが

 銀の仮面に渡すって言いだして聞かないんだよな

 こんなんも受け取ってくれるんだろうか?


【540:無名の日本人】

 >>536

 感謝がこもってればいいんじゃね?

 俺は一叩き一叩き感謝を込めてアルミホイル叩き続けて丸くしたやつ渡す予定。


【544:無名の日本人】

 >>540

 アルミ玉なつかしww小学生かwwwwww


【545:無名の日本人】

 某漫画の再開を祈って毎日正拳突きしたやつもいるし、良いんじゃね?


【546:無名の日本人】

 手間かかるほどありがたみあるしな。


【547:無名の日本人】

 そういや「賽銭入れてきた」って報告あったけどいいの?


【549:無名の日本人】

 え、お金もありなの?


【551:無名の日本人】

 公式には書いてないけど、現金入れてもセーフらしい。

 鳩に何もされてないってことは良いって事じゃね?


【553:無名の日本人】

 神社かよwwwwwwwwwww


【554:無名の日本人】

 でも銀の仮面は神様扱いで合ってる気もする。


【556:無名の日本人】

 オレ、五百円玉入れてきた。


【557:無名の日本人】

 なんか賽銭文化復活してて草


【559:無名の日本人】

 こちら熱海

 転移陣ゲート利用者の列かと思ったら参拝列できてるんだがwww


【561:無名の日本人】

 俺もさっき投函した。日頃の感謝を一字一字丁寧に書いたぜ

 字は下手だけど、勘弁な


【563:無名の日本人】

 ワイ書道三段、渾身の感謝を込めて感謝を綴るの巻

 xxxxx://x.com/xxxxxxx/status/xxxxxxxxxxxx/photo/1


【565:無名の日本人】

 >>563

 うんまっっっ


【568:無名の日本人】

 >>563

 うますぎやろ


【570:無名の日本人】

 >>563

 俺はこういうのが書きたかった!!!!!!


【573:無名の日本人】

 >>563

 普通に個展開けるレベルの書やん

 こんな字書けたら毎日楽しそうやなあ


【577:無名の日本人】

 いいなあ。自分も何か作ろうかな。


【578:無名の日本人】

 鳩ポストの前に並んでる子どもらが可愛い。

 大月は今日も平和です。


【579:無名の日本人】

「仮面のお兄さんありがとう」って声出して手紙入れてた女の子いて泣いた。


【581:無名の日本人】

 正直、俺泣いた。


【583:無名の日本人】

 こういうの見たらますます支持するわ。

 みんなに愛されてんじゃん。


【585:無名の日本人】

 いやでも信仰って本来こういう感謝から始まるもんだろ。


【587:無名の日本人】

 まーた突っつかれるクソインバウンド発生

 てかあの鳩、マジで生きてるんじゃねーの?


【589:無名の日本人】

 目が光ってるよなアレ

 心の奥底まで見透かされそうなあの感じ、日本人なら全員襟正しちゃうね


【591:無名の日本人】

 試しに触ろうとしたら鳩の首動いたって人いたwww


【592:無名の日本人】

 こわいwwwwwwwwwwwwwwww


【594:無名の日本人】

 いやいや動物にむやみに触るなよまず

 犬も猫も一緒、相手が同意してないうちに人間がワーッて触りに行くのは結構ストレスだからな?


【540:無名の日本人】

 守護者っぽくてええやん

 狛犬だったら迫力出過ぎたかも


【541:無名の日本人】

 これからもっと色んなもの投げ入れられるんだろうな

 外国人が突っつかれるところ見て、面白がってその辺の土入れてまた鳩に追い回されてる外国人連中を見てワイため息




【711:無名の日本人】

 うちの子の傑作・光る泥団子が出来たぜwwwww

 xxxxs://imgur.com/xxxxx


【713:無名の日本人】

 >>711

 つやっつやで草


【716:無名の日本人】

 >>711

 すげぇwwww


【717:無名の日本人】

 >>711

 嘘ついてんじゃねーぞ!チョコボールだろこれ!


【725:無名の日本人】

 俺のアルミ球も出来たぜwwwwwwwwww

 xxxxs://imgur.com/xxxxx


【728:無名の日本人】

 お前らwwwwwwwwwwwwwwww


【731:無名の日本人】

 なんか小学校の図工展覧会みたいになってきてるww


【733:無名の日本人】

 俺も何か作ればよかったぁぁーー


【737:無名の日本人】

 すげえなこれ。

 めっちゃ気持ちこもってんだろ。さすがにこれは受け取らざるを得ない


【740:無名の日本人】

 確かに。俺これ欲しい

 売ってくれ


【743:無名の日本人】

 >>740

 だめどぇーす、銀の仮面にあげるからあげまっすぇーん!

 by息子


【746:無名の日本人】

 >>743

 こいつwwwww


【750:無名の日本人】

 あのポストの中身、銀の仮面どうしてるんだろな

 どんだけ入れても満杯になる気配がない


【753:無名の日本人】

 自宅直通説


【755:無名の日本人】

 それ本当なら胸熱


【757:無名の日本人】

 自宅直通ならゴミ入れられたらそりゃシバキ倒すよな


【759:無名の日本人】

 自転車のカゴに勝手にゴミ入れてく奴らいるけどあいつらも突っつかれろ

 勝手にゴミ箱にすんな

 俺のチャリはばあちゃんの最後のプレゼントなんだよ


【761:無名の日本人】

 >>759

 ちょっと泣いた


【763:無名の日本人】

 >>759

(´;ω;`)ウッ…





 ---



 数日後。白田の自宅。

 蓮はアイテムボックスから取り出したばかりの品々をテーブルの上にそっと並べていった。


 折り鶴の束。

 丁寧な文字で「がんばってください」と書かれた便箋。

 子どもの描いた銀の仮面のイラスト。

 木彫りの仮面像。

 掌ほどの大きさの、磨かれた光る泥団子。

 銀色に輝くアルミ球。


「壮観ですねぇ」

「……これが全部、ポストから届いたものか」


 手紙。絵。手作りの品々淡い魔力光がひとつひとつからにじみ出ている。

 ほんの微量ではあるが、どれも確かに魔力を帯びていた。


 蓮は手をかざし、鑑定魔法を展開する。


「――鑑定アナライズ


 便箋からは淡い水色の光。

 特に、「助けてくれた」「心から感謝」「ありがとう」という単語にはっきりとした魔力反応があった。


 折り鶴の束からは、弱々しいながらも温かな光。

 子どもの絵と添え書きは、まるで持ち主の声がそのまま胸に響くような心地よい響きがあり、クレヨンで描かれた純粋な思いは小粒でありながらも高純度の魔力となっていた。


 木彫りの仮面像からは、職人のような集中の波長。

 泥団子とアルミ球に至っては、それまでの品々よりも強い魔力が検出された。時間を掛けて丁寧に感謝を込めた一磨き一叩きを、数千数万と繰り返した弛まぬ努力の連続の痕跡は、相当量の魔力に変換されていた。

 手紙や絵や彫像を凌ぐほど、ただの土と金属が、銀の仮面への想いをふんだんにため込み、光を放っている。


「……やっぱり、仮説は正しかった。銀の仮面への感謝・労力・祈りが魔力になってる」


 蓮は静かに息を吐いた。

 地球上では魔力供給が絶たれているとばかり思っていた。

 だが、この品々は明らかに異世界と同じ「魔力の残滓」を宿していた。


 白田は簡易センサーの波形をじっと見守っていた。

 飴やポケットティッシュよりも確実に強い魔力波形が詠唱に揺らいでいる。

 画面に映るデータを紙にまとめながら、小さく呟く。


「これが安定供給出来れば……魔力回復の有効な手段になるかもしれませんね」


 蓮は無言で頷いた。


 机の上に並ぶ「ありがとう」の証。

 拙い字で絵に描かれた「ありがとう」。

 便箋四枚に渡って記された「ありがとう」。

 銀の仮面に贈りたいという一念で丹念に作り上げられた「ありがとう」。


 今も現在進行形で、たくさんの人々から「ありがとう」が届く。


「………こちらこそ、"ありがとう"だよ」


 テーブルに広げられた掛け値なしの感謝。

 淡く暖かな光が、二人の室内を照らしていた。

毎週月曜・水曜・金曜20時投稿予定です(祝日は15時投稿予定)。

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