42話 茜差す父子
白いカーテンの隙間から、朝の光がわずかに差し込んでいた。
都心の喧騒から隔てられた中野の一室。静寂が支配する空間で、如月蓮はソファに身を横たえていた。
現実世界から隔絶された異空間に、六十万人の意識を強制的に閉じ込める夢の学園を創り上げ、加害者共を四夜連続で断罪する――それは膨大な魔力と精神力を要する大魔術だった。
かつて信じられていた地球平面説のイラストのように、宇宙に浮く島。
学園一つしかないその島は、フェンスの外側は奈落の底。いや、底すらない果てなき無の世界。
六十万人を閉じ込め屠るためだけに用意されたその箱はようやく千秋楽を迎えて取り壊しとなった。
連夜何十何万もの意識を強制的に学園世界に連行し、そこでありとあらゆる趣向と魔法を織り交ぜながら、被害者たちが納得出来得る天誅を下していくのは想像以上に骨が折れた。
壊れた校舎は翌日までに修繕しつつ、異空間を維持しなければならない四日間の負担は、富士山噴火阻止に匹敵するほどの重労働であった。
体の芯に鉛のような重さがまとわりついている。頭の奥で鈍い痛みが波のように押し寄せ、視界が微かに揺れる。
(……無茶をしたな)
それでも、完全に意識を手放すことはなかった。
前回の教訓を生かし、魔石に自らの魔力をあらかじめ充填しておいたことが功を奏した。
魔力を消耗するたびに、蓮はアイテムボックスにストックしておいた満タンの魔石を媒介に、自己血輸血のような要領で静かに魔力を逆流させる。
夜が終わるたびに魔力充電を行う事で、四日間の特別授業を無事に完走することが出来た。学園の闇を終わらせた直後も倒れ込まずに済んだ。
ソファの脇のテーブルに、黒曜のように艶やかな魔石が小さな山を成している。その輝きはほとんど失われ、淡く霞んでいた。
満充填の魔石一つで中型遊覧船が動かせるほどの力があると言うのに、ここまで使っても魔力切れを起こしかけた事実が重く擡げかかる。
「……随分使ったなぁ」
低くつぶやいた声は、部屋の中に吸い込まれていく。
カチリ、とドアノブが回る音。
入ってきたのは、浅黄色のワンピースに身を包んだ白田だった。胸ほどの長さの黒髪が、朝の光を受けて柔らかく揺れる。手には湯気の立つカップが二つ。
「おはようございます。……って、顔色ひどいですよ」
「本当に?ちょっとはマシになった方だと思うんだけど」
ベッドの脇に腰を下ろし、白田がそっとカップを差し出した。ハーブティーの香りが、重たい空気をわずかに和らげる。
「飲めます?」
「ああ……ありがとう」
蓮は一口、唇を湿らせる。温かな液体が喉を落ち、胃へと届く感覚に、わずかに生を取り戻した心地がした。
「調子はどうですか?だいぶ無理してたんじゃないですか」
「あの規模の魔術を行使したらそりゃね。これでもなんとかなった方だよ」
「……また気絶しちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしてたこの三日間、返してくださいよ」
小さく頬を膨らませた白田だが、その瞳の奥には確かな安堵が宿っていた。
「魔石を使ってよかった。またコツコツ溜めなきゃな」
視線を魔石に落としながら、蓮は深く息をついた。
明確な悪を一人だけ裁くのではなく、多くの悪しき魂を一度に裁くのはこれが初めてだった。
彼らにも家族や友人がいて、誰かに恨まれる一方で誰かに想われてもいた。
しかしそれが他人を追い詰め、死に追いやっても良い理由にはならない。罪は罪として罰しなければならない。そこに悲しむ人がいる限り。
罪を突き付け、悔い改めさせる。六十万という数の魂と向き合い、最後まで導く。それは異世界で魔王を討った時よりも、重く、背負わなければならないものが多い天誅だった。
けれど、その果てに――
救われた声なき者たちの笑顔が、確かにあった。
「……次のことを考える前に、まずは回復ですね」
「そうだな…」
短く応じ、蓮はカップを置いた。
まだ視界の端にちらつく光の残像を振り払うように、深くまぶたを閉じる。
「また、熱海旅行でも行きます?」
「そしたらまた私は富士急に置き去りですか?いやですよ、そんなの」
「ふふっ」
《―――日本全国の青少年のいじめを原因とする自殺者は二〇〇六年以降増加の一途を辿っている。
夏休みが明け、二学期の初日となる九月一日は、青少年の自殺が多い日として有名だ。
それを乗り越えたとしても、いじめ被害者は第二第三の地獄に向かう事を余儀なくされ、生き地獄はそう簡単には終わらない。
暴行・傷害・強要・脅迫・恐喝・強制わいせつ・窃盗・器物損壊・名誉棄損・建造物侵入・放火・自殺教唆・殺人未遂・殺人。
これらすべての犯罪は、学校内で起きてしまったら「いじめ」と矮小化される。
懲役相当の罪状であっても学校内で内々に処理され、加害者には相応の罰が下されることもなく、被害者への補償が必ずしもあるわけでなく、加害者生徒と被害者生徒を同じクラスに残したまま、あたかも何事もなかったかのように翌日を知らん顔で始めようとする。
私は涙をこらえて笑う笑顔を知っている。
痛みを覚えていないように平静を装ういじらしさも知っている。
折れそうな心をテープで巻きながら、それでも学校に通う真面目さも知っている。
そんな君たちの心を、彼らは知らない。分かろうともしない。
己の家庭的事情や成績などの問題、ストレスの捌け口として君たちを自己中心的に傷付けている。
私は、君たちの長い夜を終わらせたい。
私は、君たちが明るい未来に希望を持てるようにしたい。
これから見せる映像は、君にとっては希望の福音となるかもしれないが、その相手の家族や親しい人からは間違いなく恨まれることだろう。
だがそれは、君の涙の前では何の意味もない。
君の涙を止めるために、君を泣かせた者には泣いてもらう。
目には目を歯には歯を、報いは然るべきと私は思う。
このページを開くことが出来た時点で、君は私の目に適った。
君が心の底から悲しみ、救いを求め、決して秘密を軽々しく口にしない男の中の男、女の中の女であると認められ、この門は開いた。
この門の先には、かつて味わった数々の苦しみと今なお続く痛みが、また君の胸を深く傷つける光景が繰り広げられる。
しかしそれを乗り越えた向こうには、君がずっと手に入れることを願っていた、本当に欲しかった明日が見えるかもしれない。
色々な言葉と理不尽な暴力の日々を耐え抜いて今まで命を繋げて来た君にはこの言葉と、これから始まる物語の結末を届けたい。
――よく今まで頑張った。生きていてくれてありがとう。
ここからは私の出番だ。任せてくれ。
――――正義の代行者・銀の仮面》
銀の仮面公式サイト・いじめ被害者救済ページより。
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東京都調布市・調布駅。
西の空には、茜と金が溶け合い、柔らかな光が滲んでいた。
駅前ロータリーには、バスのブレーキ音とアナウンスが交互に響き、夕暮れの街に生活の気配を刻んでいる。
改札口の向こうで、人影を探す少年の姿があった。
川上中学校に通う二年生、朝倉隼。
内容物がぐっと減り、厚みと重みが大分緩和されたスクールバッグの紐を握りしめ、何度も首を伸ばして人の波を見渡す。
(……あ、来た)
迷彩柄のボストンバッグを肩に担ぎ、がっしりした体格の男が歩いてくる。
深緑のウィンドブレーカーの袖口から覗く腕は、日焼けと鍛錬の跡が刻まれ、逞しさを物語っていた。
駐屯地から月に一度の定例帰宅を迎えた、父の姿だ。
「……父さん!」
隼の声に、男が顔を上げた。
瞬間、厳めしい輪郭がほころび、目尻にしわが寄る。
「おう、隼!」
駆け寄る隼の頭に、大きな手がごつりと乗る。その掌の温もりに、隼は胸の奥でぎゅっと何かが鳴るのを感じた。
「どうした。学校帰りか」
「うん!」
「電話してくれば良かったのに」
「暇だったからさ。…電車の中だったでしょ?だから別にいい」
父は荷物を持ち替え、二人並んで歩き出す。駅前通りは帰宅ラッシュで賑わっているが、不思議とその喧騒が遠くに感じられた。
家までの道のり――いつもなら少し気まずさを覚えたこの距離が、今日はどうしようもなく嬉しい。
「最近、学校はどうだ」
「……うん、まあまあかな!」
咄嗟に出た言葉。
これまで隼は「まあまあ」「そこそこ」「普通」を繰り返していた。
両親の心配をかわすためについていた偽りの言葉だったが、この「まあまあ」を、つい解放された安堵と喜びをそのままに口にしていたことに気づいていなかった。
父はその言葉に、何か良いことがあったのだろうと察し、目を細める。
「そうか。まあ、元気そうで何よりだ」
父は短く言って笑った。その笑顔を、隼は横目で盗み見る。
無骨で、言葉数の少ない父。でも、その背中は、ずっと大きかった。
いじめられて泣きそうな夜も、心のどこかで思い描いていた――この背中を。
(……もう、大丈夫だ)
夕焼けが二人の影を長く伸ばしていく。スズムシの細やかな音が響き、遠くから規則的な電車の音が届く。
何でもない、けれど何よりも大切な時間。
隼は言葉を飲み込み、久しぶりに空を見上げた。トビが高く舞い上がり、甲高い"ピィー"という声を残して、空の彼方へと消えていく。
アスファルトのグレー一色だった帰り道。
逃げるように走る事も、冷や汗で全身びしょびしょになる事もなく、ただ美しい夕日を眺めながら父の歩幅に合わせて歩く。
空を見上げながら横を見ると、ふと父と目が合った。
「――ふふ」
「…どうした。何か良い事でもあったのか」
「別に!なーんにも!」
何年かぶりに、父の手を掴んでみた。
おっ、と小さく声を漏らしたが、すんなりと受け入れられる。
やっぱり、父の手は大きい。力強くて頼もしい、男の手だ。
つい嬉しくなって、隼は繋いだ手を前後にぶんぶんと振りながら歩く。
父はご機嫌な息子と一緒に、母が夕食を作って待っている我が家へと歩いて行った。
東京都・霞が関、警視庁地下三階
特捜一課の捜査室。
重たい沈黙が、会議室を覆っていた。壁際に並ぶ刑事たちの視線が、一枚の資料に集中している。
【全国小学校・中学校・高校の触法少年・虞犯少年大量死亡】と印字された活字が、異様な現実を物語っていた。
「……数字を、もう一度確認しろ」
低く、鋭い声が飛ぶ。管理官・早乙女敬司。
白髪交じりの短髪と、深く刻まれた眉間のしわ。その瞳は、怒りと苛立ちを必死に押し殺していた。
「はい……対象は全国で、およそ六十万人。死亡推定時刻は、ほぼ深夜二時から四時に集中しています」
橘が乾いた声で答える。手元のタブレットには、赤い点が無数に散らばっていた。日本列島全体が、まるで流行病に侵されたような地図だ。
「……原因は」
「司法解剖の結果、外傷は一切なし。毒物反応もゼロ。脳梗塞や心筋梗塞などの兆候も見られません。まるで、眠ったまま……心臓が止まったような」
刑事の一人が、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
六十万。尋常ではない。戦争でもない、災害でもない、一夜にして六十万人が死ぬなど――前代未聞だ。
「ネットでは、もう“銀の仮面”の仕業だと騒ぎになってます」
「証拠は?」
「……何も」
早乙女は、深く息を吐いた。
富士山の噴火を止めたあの日と同じだ。あの時も、説明できなかった。つい先日もマニラの犯罪組織による組織的詐欺事件や邦人監禁事件を何者かが解決したという。国際線やチャーター機で帰国したという報せはなく、突然自宅へ帰還したというのだから、どうしても銀の仮面の関与を疑わずにはいられない。
しかし、電波ジャックで大臣たちへの殺害を都度、事細かに告白してきた銀の仮面は、これらの一連の事案に対しては沈黙を貫いている。そして今も、何一つ証拠や有力な情報は掴めない。
「……しかし偶然ではないでしょう。日本はこの数ヶ月で大きな動きを見せています。そのうねりには全てと言っていいほど、彼が関与しています。通常では考えられないこのうねりは、最早銀の仮面が起こしたものと仮定してしまって良いのではないでしょうか」
橘はメガネの奥に聡明さを滲ませた冷静な眼差しで早乙女に向き直る。
「証拠もなしにか。非現実を受け入れろと?」
呟きは、誰にも届かなかった。
法律を信じる男が、法では測れない現象の前で沈黙する。
六十万人も殺せてしまう力を銀の仮面が持っている事に内心では恐れていた。既に総理大臣を始め大臣や閣僚に向けられたその力がいつ国の根幹に向けられるのか。早乙女は何とかしなければと焦るが、有力な手段や手掛かりなどは一つも見つからない。
事件現場周辺の防犯カメラで足跡を追う事が出来ない一方、報道カメラや三枝信介外務大臣の自宅防犯カメラなどには、意図的に映りに行っているような印象さえ受ける。
その映像も銀の仮面の素顔・正体、アジトなどを割り出すことは出来ず、霞を掴まされているような気がしてくるのだ。
日本人の国でありながら日本人が大手を振って歩けない国。
外国人が我が物顔で出歩き、日本の土地と景観と人々を好き勝手に踏みにじる無法地帯。
そして警察の追跡を一笑に付しながら、次々にその悪人を好き放題に天誅して回る仮面の人物。
夜に蔓延る国民の敵と、三日月の裁きが、上空で火花を散らすのを黙って見ているしか出来ないのがが、今の日本であった。
同じ頃、首相官邸タワー内、特別会議室。
楕円形のテーブルを囲むスーツ姿の男たち。官房長官、危機管理担当、内閣情報調査室、そして教育再生担当大臣。
「――報告を」
官房長官の声は冷ややかだが、その指先はかすかに震えていた。
「死亡者は全国で約六十万人。年齢層は小中高の触法生徒とされる者が大半。教員も一部含まれています」
会議室にざわめきが走る。
六十万――数字の重みが、場を支配していた。
「死因は?」
「原因不明。司法解剖の結果、心臓麻痺などのショック死によるものと推察されており、共通点はゼロ。医学的に説明不可能です」
「ウイルスでは?」
「感染経路もなし。体液検出も陰性。外傷もなく、手掛かりはありません」
「……銀の仮面か」
誰かがつぶやいた瞬間、空気が張り詰めた。
「その名前を、軽々しく口にするな」
「しかし――」
「証拠は?噂で国政を動かすつもりか。思い付きで発言をするな」
押し殺した怒声が交錯する。
沈黙を破ったのは、教育再生担当だった。
「……国籍比率は外国人が八割。意図せず救われた形になってしまいましたね」
会議室が、凍りついた。
その一言に込められた意味――誰もが理解しながら、口を閉ざすしかなかった。
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【スレタイ】
【考察】銀の仮面の正体と天誅対象予想スレ★7【アジア進出】
【314:無名の日本人】
おい、ニュース見たか?四日間で六十万人が死んだってよ
【316:無名の日本人】
死因不明ってマジ?戦争でも災害でもこんな死に方しねぇよ
【317:無名の日本人】
まとめじゃ不良とかヤンキーとか半グレみたいなやつらばっからしいじゃん
学校でイキってた連中が一斉にポックリw
【319:無名の日本人】
いや笑えねぇだろ、こんな事あるか普通
【321:無名の日本人】
>>319
普通はあり得ませんね
【323:無名の日本人】
>>319
普通ならありえませんね
【326:無名の日本人】
>>321-323
懐かしww
【329:無名の日本人】
どうせ銀の仮面だろ
それ以外に説明できん
【331:無名の日本人】
証拠あんの?
【333:無名の日本人】
ねーよ。でも他に誰ができるんだよ
【336:無名の日本人】
六十万人だぞ?人海戦術でも無理だろ
【338:無名の日本人】
だから魔法だろ、富士山止めた時点で人外確定してんだし
【342:無名の日本人】
つーか政府はずっと「死因は謎」「関連性は確認できません」しか言ってねえじゃん
火消しに必死だが相変わらずの無能政府w
【344:無名の日本人】
まあ死人のほとんどがゴミだったのは事実だろ
【348:無名の日本人】
少年院レベルの悪ガキメインだったらしいけど、何か外国人が多かったらしいじゃん
【351:無名の日本人】
反日外国人生徒ってだけで「あっ…」ってなるわ
どうせそうでしょ?
【353:無名の日本人】
次はどこ狙うと思う?
【356:無名の日本人】
政治家だろ、また一人くらいやられても驚かねぇ
【359:無名の日本人】
経団連のジジイ共じゃね?あいつら売国奴の巣窟
【360:無名の日本人】
いや、外務省の親中派まだ生きてんじゃん
【362:無名の日本人】
あとあれ見た?JIKAのニュース
【365:無名の日本人】
ジーカね。国際親善機構とかいうクソ組織
【366:無名の日本人】
勝手に国内4市をアフリカの「カントリーシティ」に認定した件だろ
【368:無名の日本人】
あれ移民受け入れだよな完全に
誰だよカントリーシティプロジェクト決めた奴
【369:無名の日本人】
しかも自治体の承認なしで強行w
市役所に苦情殺到してるらしい
俺も電話してるんだけどネ ハハッ♪
【371:無名の日本人】
裏でどんだけカネ動いてんだよ
【373:無名の日本人】
利権臭しかしねぇわ。親玉誰だ?
【377:無名の日本人】
理事長だろ?名前忘れたけどググったらパーティー三昧の写真出てくるぞ
【378:無名の日本人】
こういう奴が次の天誅対象になったら笑うw
【380:無名の日本人】
笑うどころか日本救済だろ
【382:無名の日本人】
頼むぞ銀の仮面
【385:無名の日本人】
【予想】次の見出し「JIKA理事長、謎の失踪」
本文中の銀の仮面の救済ページのメッセージは、被害者本人がアクセスした際に表示されるメッセージです。
被害者の遺族が救済ページにアクセスした際に表示されるメッセージも、ここでご紹介します。
《―――日本全国の青少年のいじめを原因とする自殺者は二〇〇六年以降右肩上がりのまま。
あなたの大切なあの人も、この中に含まれています。
あの人が抱いた苦しみ。悲しみ。絶望。孤独。それに匹敵する地獄に耐えきれず自分で最期の決断をした人がこの国に二万人もいるのです。
暴行・傷害・強要・脅迫・恐喝・強制わいせつ・窃盗・器物損壊・名誉棄損・建造物侵入・放火・自殺教唆・殺人未遂・殺人。
これらすべての犯罪は、学校内で起きてしまったら「いじめ」と矮小化されます。
懲役相当の罪状であっても学校内で内々に処理され、加害者には相応の罰が下されることもなく、被害者への補償が必ずしもあるわけでなく、加害者生徒と被害者生徒を同じクラスに残したまま、あたかも何事もなかったかのように翌日を知らん顔で始めようとする。
いじめとは、生徒だけでなく、教師や学校も深く関与しているものです。
関与どころか直接の加害者にさえなっているケースも少なくありません。
私は希望を失ったその瞬間を知っています。
世界の全てに見放されたような無限の闇を知っています。
助けを求める事よりも、心配をかけさせたくないと言う、僅かに残った欠片程の優しさも知っています。
あなたの大切な人の心を、大切な命を、彼らは奪い、踏みにじりました。
その罪はあなた方が悲しみの奥底にいる限り晴れる事はありません。
私は、あなた方の長い夜を終わらせたい。
私は、あなた方がもう一度前を向いて生きられるようにしたい。
これから見せる映像は、あなたにとっては様々な感情が渦巻くものかも知れません。
しかしあなたの大切な人に血を流させた人が無傷のまま、これからものうのうと生きていて良いのかと私は問いたい。
目には目を歯には歯を、命を奪った者にはそれ相応の天罰があるべきとは思いませんか。
このページを開くことが出来た時点で、あなたは私の目に適いました。
あなたが大切な人を救えなかった後悔、反省、無力感。何度あの日に帰れたらと思った事でしょう。
過去を変えることは出来ませんが、命と前途を捻じ曲げた因縁の相手に未来がそのままあるとは思いたくないのが、紛れもない本心なのではありませんか。
これからご覧いただく映像には、あなたの過去・トラウマを激しく揺り動かす光景が数多く見られるでしょう。
かつて味わったあの日の悲しみと、今も忘れ得ぬ塗炭の苦しみが呼び起こされる事でしょう。
しかしそれを乗り越えた向こうには、あなたがずっと願っていた「正当な裁きの瞬間」を大切なあの人に手向けられるかもしれません。
数えきれない暴力と悪意に抗しきれずその命を終えてしまったあなたの大切な方へ。
あの方を忘れられないあなたへ。
この言葉と、これから始まる物語の結末を届けたい。
――お天道様はその罪を忘れてはいない。今こそその罪を清算する時だ。
大切な想い、願い、命を奪った報いはきっちり受けさせる。
私がこの手であなたたちの仇を討つ。最後の瞬間を、しっかりとその目に焼き付けてください。
――――正義の代行者・銀の仮面》
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次話は明日15時投稿予定です。
この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。
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