30話 神在月
【スレタイ】
【三日月党】銀の仮面支援スレ★9【神在月】
【637:無名の日本人】
中央線沿線民ワイ、終電で寝過ごして大月駅
絶望してたら気付いたら新宿まで戻って来れた件
【638:無名の日本人】
>>637
は?
深夜だぞ?中央線もう動いてねぇだろ
【639:無名の日本人】
>>637
タクシー使ったか?大月から新宿って何万円もかかるぞ
毎度お世話に…じゃなかった、ご愁傷様
【640:無名の日本人】
中央線でもタクシーでもないんだなこれが。
見て驚くなよ
http://www.youtube.xxx/watch?xxxxxxxxxxxxx
【642:無名の日本人】
おいこれ、やべえだろ
【643:無名の日本人】
大月も魔法陣で繋がったって事?
【644:無名の日本人】
AI画像かと思ったらガチだった
深夜に新宿中央公園って、怖くね?
【645:無名の日本人】
>>644
深夜の大月の方が怖えーわ!
酔っ払って大月まで飛ばされた奴らなら分かるよな?な?
【648:無名の日本人】
>>645
あの孤独感と絶望感はもう味わいたくないね
【650:無名の日本人】
>>645
寝て起きたら大月、寝てしまったのが運の尽きってね
【653:無名の日本人】
熱海とかと違って帰宅難民用の避難路的な意味合いかな?
言っちゃ悪いが大月って特に見るもんないだろ
【656:無名の日本人】
>>653
見るもんないとか言うなあああ!!
見るもん!ないとか!言うなあああああああああ!!!!!
【659:無名の日本人】
でも実際なんで大月?観光名所ってわけでもなし、地味じゃね?
【661:無名の日本人】
行ったことないから中央線の終点ってイメージしかねえ
終電難民ホイホイ的な。
【663:無名の日本人】
てことは、狙って設置してるってことか。民の利便性まで考慮してんの?
神じゃん
【664:無名の日本人】
もしかして「大月」だから設置したとか?
最初から三日月の旗使ってるし、月には何かと縁があるな
【666:無名の日本人】
>>664
そんな訳wwwwwwwwwあるかも
【668:無名の日本人】
>>664
月って地名が付いてるからってそんなことするわけねーだろwwww
とは言い切れない
【670:無名の日本人】
今新宿中央公園の転移陣に来た
乗った瞬間、なんか頭の中に海の景色と山の景色が二つ浮かんだ
試しに山の景色をイメージしたら、大月に来てたわ
すぐ戻って来たけど、大月側の転移陣に乗った時はそれ浮かばなかったんだよな
行き先一つしかないと、乗ったらすぐ飛ぶ仕様だったみたい
【672:無名の日本人】
>>670
そうなると、複数の行き先が登録されてる転移陣の場合、あらかじめ行き先が選べるようになるってことか
【674:無名の日本人】
ちょっと待て、これは革命過ぎるぞ
少し便利になったとかそんなもんじゃない
お前ら分かってるか?
大月と新宿が繋がるって事は、山梨県大月市大月が東京都新宿区大月になるってことだぞ
住宅需要と不動産価格がとんでもない事になるって事だぞ!!
【675:無名の日本人】
新宿区大月www地価バグるwww
【676:無名の日本人】
ちょっと不動産屋行ってくるわ
【677:無名の日本人】
ちょっと山買ってくるわ
【678:無名の日本人】
おいやめろ
目先の金に目が眩んで土地を買い漁るな
C国人じゃあるまいし
【679:無名の日本人】
言われてみればそうか
「大月から新宿までは帰ってこられる」って意識だったけど
「遠のいてた地方に新宿から秒で行ける」ってことだもんな、そうなるよな
【684:無名の日本人】
これでお金かかったりしない?
大月-新宿間のタクシー運賃三六八〇〇円って出たんだけど
【685:無名の日本人】
>>684
現状無料っぽい
金以外の何かを取られてたら気付けないけど
【687:無名の日本人】
>>685
一時間くらいの寿命で済むなら喜んで反復横跳びしちゃるわ!
【689:無名の日本人】
本物の価格崩壊を見た
【693:無名の日本人】
ところでさ、今更だけど転移した先って時間のズレとかない?
体感一分なのに一時間経ってた、みたいなやつ
【694:無名の日本人】
>>693
今んとこそういう話は見ないな
ただ、転移先で時間軸ズレてたらそれこそやばいぞ
深夜の新宿から戻ったら昼の大月でした、ってなると社会生活壊れる
【695:無名の日本人】
ふと思ったけど、あのゲートが壊れたらどうなるんだ?
転移中に隙間に落っこちたら…って考えるとゾッとする
【696:無名の日本人】
>>695
怖すぎィ!
「空間の狭間で永遠に彷徨う元終電民」とか嫌すぎる
【698:無名の日本人】
そもそもこれ、政府絡んでるの?それとも完全に銀の仮面の独断?
【699:無名の日本人】
政府がやってたらまず政府専用非公開になるよな。
一般開放されても有料&身分登録制だろう
無料・無許可・監視なしって時点で、完全に個人…いや、“個”かどうかも怪しいけどな
【701:無名の日本人】
神って、こういう存在のことを言うんじゃねえの?
【702:無名の日本人】
「神在月」ってスレタイが予言レベル
【704:無名の日本人】
神「終電逃した?よし、送ったるわ」
【705:無名の日本人】
交通安全のお守りって効果あったんだな~
【706:無名の日本人】
こうなるとさ、次どこ繋がると思う?
【707:無名の日本人】
名古屋来い名古屋ァ!!頼む!!
【708:無名の日本人】
新宿−名古屋繋がったら、それもう新幹線完全終了じゃね?
【709:無名の日本人】
在来線オワタ、新幹線オワタ、空港オワタ
既存の交通インフラは淘汰され、魔法陣で飛び回るボーダーレス時代が来るな
【710:無名の日本人】
そうなるともう笑えなくなってくるな
旅の醍醐味が失われるってのもそうだけど、外と繋がったせいで治安が悪化したって例、今まで散々見ただろ
日本は島国だから今まで守ってこれたのに、これが地続きになったらひとたまりもない
【712:無名の日本人】
>>710
確かに
やっぱりある程度の制限は必要だよな
不自由だからこそ良い事もあるよな
【715:無名の日本人】
正しく使えば便利になるのに、使い方を間違えたらたくさんの人が悲しむ
ノーベルもこんな気持ちだったんだろうね
【719:無名の日本人】
銀の仮面は悪くないんだよ、使う俺たちのモラルの問題でさ
俺たちがちゃんと使い方を守れば、日本は悪い方向には行かないはず
銀の仮面はきっかけをくれるに過ぎなくて、結局日本を良くも悪くもするのは俺たち次第なんじゃねえのかな
…って、照れくさい事言ったわ、すまんな
カレー食ってくるわ
【721:無名の日本人】
>>719
ええで
【723:無名の日本人】
>>719
構わんよ
【725:無名の日本人】
>>719
天誅せずに愛の甘口食えよ
【727:無名の日本人】
>>719
リアルでもそういう風に口に出せる世の中になったらいいな
午前八時、大月駅。
通勤・通学の波と共に、駅前ロータリーにはちらほらと観光客らしき人々が姿を見せ始めていた。
大月駅の赤い鳥居風入口を出てすぐ、真正面の視界に入るのは、静かに鎮座する転移陣。歩道上と私有地の一角に幾何学的な文様が刻まれており、深夜に訪れた者だけが、その意味を知ることができる。
この転移陣は、深夜の終電終了後から、始発が動き出す直前までのわずか数時間だけ、蒼白い光を放って活性化する。
日中の時間帯には、転移陣はその光を失い、ただの意匠的な装飾のように落ち着く。だが、この転移陣が夜間だけ新宿中央公園と繋がると知っている者にとっては、それが不思議との遭遇であることを疑う余地はない。
ここは、もはや単なる地方駅ではない。富士山・熱海&新宿に次ぐ三番目に銀の仮面が開いた門の一つとして、大月駅は全国の銀の仮面ファンたちから注目を集める聖地となった。とりわけ夜間に転移体験を果たした者たちは、異口同音に言う。「本当に繋がってた」「ただの噂だと思ってた」と。
そんな見物客で、始発運転開始前から朝の大月駅は人出がにぎわい始めた。
大月駅前には、ここ数日で急速に注目を集めているカフェがある。
その名も、"月Cafe"。
元々は地元密着型の小さな喫茶店だったが、転移陣から出て来たファンの口コミで広がりを見せ、いつしか大月駅に来たら必ず寄るべしと定番の巡礼スポットになった。
転移陣のすぐそばにある店の外観は木造風のレトロな佇まいで、店頭の立て看板には手描きのチョークアートで「いらっしゃいませ、月の旅人の皆さま」と書かれている。中に入れば、月や星をモチーフにしたインテリアがあちこちに配置され、柔らかなジャズが流れる落ち着いた空間。
店員の一部に既に銀の仮面ファンがいた事でこの時流をいち早く掴み、この頃から新メニューを打ち出していた。地元の食材を使った豊富なメニューに加え、「三日月ブレンド(深煎り)」「月夜のサンドイッチ」「満月プリン」など、仮面を意識したネーミングも遊び心たっぷりだ。
朝八時から開店するのに合わせて成していた行列によって、店内はすぐさま満席となる。しかし秩序と平和を貴ぶ銀の仮面のファンたちは、とても統率の取れた動きと、過ぎたるを辞す態度でスマートに会計を済ませて去る。
彼らにとって"月Cafe"は、ただの飲食店ではない。「あの人が選んだ場所」に身を置くことで、ほんの少しでも銀の仮面の気配に近づけたような、そんな特別な感覚を味わえる聖地。
三日月の旗を掲げて戦う銀の仮面が、月を冠した駅に降り立ち、月を冠した喫茶店の店先に転移陣を開いたのは、確実に明確な作為があると思われる。
彼が込めた想いの一端に触れたいと思うのは、当然の事だった。
そして何より、この地には不思議な安堵感がある。夜には奇跡が起き、朝には穏やかな時間が流れる。
喫茶店に置かれたグランドピアノでは、銀の仮面を称えるあの曲が、一日に何度も腕に覚えのあるファンたちによって弾かれる。
どこの誰かは知らないけれど、誰もがみんな知っている。
そんな静かな興奮と敬意が町を包んでいた。
東京・中野、白田の自宅。
公式サイトに寄せられる問い合わせフォームやグッズ販売ページの出品申請など、午前の処理を終えた白田は、少し遅めの昼食を摂ることにした。
最近は詐欺被害者への補償や魔力回復待ちなどのため、白田の家で時間を過ごすことが多くなったとはいえ、いつどこで尾けられて自宅を特定されるか分からないと考えた蓮は、なるべく別行動を取ることにしている。
遠隔通信は暗号アプリか銀の仮面公式サイトの管理者ページを使用。必要に応じて都度自宅に戻ってくる形式を取っている。
手持ち資金は金貨の売却益がそこそこ残っているし、最近では銀の仮面公式サイトに寄せられる寄付によって二人分の生活は充分成り立っていた。
自分の意志で天誅しておりそれが概ね好意的に受け入れられているこの状況。
蓮は不意に「裏稼業で生計を立てている」という意識に襲われた。
異世界・エルディアでは魔物や魔族を殺して報酬を得る事は当たり前だったのだが、日本における生活感覚が戻ってくると、どうにも人を殺した金で白田を養っている後ろめたさのようなものがふつりと湧いて来たのだ。
「白田さん、俺、働いてみようと思う」
転移で部屋に直接帰ってきた蓮が、隠形の輝石と仮面をアイテムボックスに収納しながらつぶやいた。
「おかえりなさい。…働く?どうしてです」
「いや……ちょっとね」
「…資金ですか?資金なら当面問題ありませんし、そんなことしなくてもしばらくは平気ですよ」
帰ってきた蓮にペットボトルの天然水を手渡す。
慣れた手つきで開封して二口ほど飲みながらソファに座る。
「家賃、ですか?いいですよ、お世話になってるのは私の方です。コレのおかげで普通に働くより余裕出ましたから」
モニター上には日々寄せられるファンからの気遣いや感謝がずらりと並ぶ。
寄付だけでなく、グッズ販売ページから得られる二パーセントの売買手数料も毎日順調に積み上がっている。
何もあえて働かなくても、というのが白田の率直な印象だったが。
「なんだか、ふわふわした感覚なんです。地に足がついていないような、しっかりと根をおろしていないような、不安定な感じがしていて」
「はあ」
「悪を裁くとは言っても、オブラートを剥がせば人殺しで稼いでいるようなものです。今でこそ歓迎されてるけど、これを一生続けるのは無理があるなって」
「…確かに」
「それに、せっかく日本に戻ってきたのに、やってることは異世界と大して変わらないんじゃないかと。日本に戻ってきた実感が欲しいんです。俺は」
ペットボトルの水を傾け、蛍光灯の明かりが反射する。
「別に、稼ぐとかじゃないです。当たり前の暮らしをしたいだけです。日本人として」
そう言って見つめた蓮に、白田はふっと微笑んだ。
「分かりました。それなら私は止めません。蓮くんの好きにしてください」
「ありがとう、白田さん」
十月十七日。
秋の陽が傾き始めた東京都調布市の街中。
人波の中を歩いていた蓮は、ふとコンビニ前で足を止めた。手にしたのは、店外のラックに並べられている薄いフリーペーパー。求人広告やイベント情報が掲載されたその本には「未経験歓迎・短期可」の大きな文字が躍っている。
「日本人限定って。大胆なことする人もいるなあ」
それはある町工場の作業員の募集広告にあった。ページ内で異彩を放っていたナショナリズム溢れる「日本人限定」との文言に思わず独り言を漏らした。
銀の仮面として日本人のためと口にしても、あらゆる妨害・脅迫・攻撃を蓮ならば跳ね返せる。それとは違い、そのような悪意や実力行使に抗する術を持たないだろう市民がそれを口にするのは余程の勇気がいることだろう。
蓮は自分のこれまでの実績が日本人の心に火を灯し始めていることを実感し、胸が高鳴るようだった。
気を取り直してページをめくり、条件の合いそうな職種を目で追っていると、不意にガラス越しに妙な動きをする少年が目に入った。
制服姿の中学生。落ち着きなく棚の前を行き来し、周囲を気にしながら品物をリュックへ滑り込ませている。店員は他の客の対応に追われており、その不自然な様子に気づいていない。少年は競歩のような早歩きでそそくさとレジ脇を通り抜け店外へ出た。
蓮は紙面から目を離し、アイテムボックスに求人誌を収納しながら距離をとりつつその背を追った。
少年は数十メートル先の小さな公園に入る。そこには四人の同年代の少年たちが待ち構えていた。白人黒人黄色人と肌色の異なる少年たちが乱暴に盗品をひったくる。
「これだけかよ、少ねぇな!」
「もっとちゃんとやれよ、ヘタクソ!」
乱暴な罵声と共に、少年の頭を平手で叩く音が公園に響いた。
四人はさらに「失敗した罰だ」と目と口角を吊り上げて笑う。少年を突き飛ばし、取り落としたスクールバッグを奪い取って逆さに振り回し、中身を地面にぶちまけた。ノートや教科書が砂の地面に散乱し、その間に落ちた財布を白人の少年が拾い上げる。中を覗くと、迷いなく千円札と硬貨を抜き取り、鼻で笑った。
「じゃ、ゲーセン行くか!」
「片付けとけよ、奴隷クン」
「ダサクラ、次しくったらどうなるか覚えとけよ」
空になった財布を少年の顔目がけて投げつけながら、高笑いを残して四人は公園を後にした。
残された少年は、しゃがみ込みながら震える手で空の財布、ノート、教科書、筆箱を拾い集める。
砂にまみれた手の甲にぽたり、ぽたりと涙が落ち、その小さな肩を揺らしていた。
公園の外から一部始終を見ていた蓮の存在に気付くことなく、四人は蓮と肩がぶつかりそうなほどすぐ近くをすれ違い、笑いながら去っていく。
歩道横一杯に広がって対向者を壁際に避けさせながら去るその四人の背中を見つめる蓮の表情は無く、眼差しは冷たく研ぎ澄まされていた。
次話は明日20時投稿予定です。
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