3話 忍び寄る審判
翌七月十六日。
その朝、各局の番組は一斉に「雨宮誠一総理大臣行方不明」の速報を報じていた。
『昨日十五日未明、雨宮誠一総理大臣が首相官邸に戻った後、行方が分からなくなっていることが分かりました。警視庁は現在、事件と事故の両面から捜査を進めています。官邸関係者によりますと、雨宮総理が夜二十二時以降に再び官邸を出た記録はなく、周辺の防犯カメラには不審な人物は確認されていません。室内に争った形跡も見られず、警視庁は当日中に官邸に出入りした関係者への聞き取りを開始しています――』
街頭の大型ビジョンにも、スマホのニュース速報にも、その見出しが踊る。だが、画面の前で視線を止める人々の表情は、決して驚愕に染まるものではなかった。
「どうせ別荘かどこかで女とでも遊んでるんだろ」
「拉致されたとか?それなら万歳だよな」
「やっと消えたかって感じ。この国がよくなる第一歩だな」
「誰か真面目にやる人が代わってくれりゃいいけど……与党が自民党のままじゃどうせ次も同じだろ」
「そういや、二週間前の外交声明でも妙なこと言ってたよな。どうせ中国に行ってんじゃねーの?完全に中共の犬じゃん」
SNS上には、祝杯をあげるような書き込みが溢れていた。
「売国奴が失踪」「まだ死んでないのか?」「早く確定情報くれ」の文字列が並ぶ。
中には「行方不明とか言って、サボってるだけ。勝手に抜け出して女に会いに行ってたりすんだろ」と、冷めた反応をする者もいるが、どちらにせよ雨宮への心配は皆無。
民意は完全に雨宮を見限っていた。
各局が雨宮総理失踪のニュースを朝昼夕と報じてから一日が経った七月十七日、警視庁に一人の重要参考人が呼ばれた。
三枝信介、外務大臣。
最後に雨宮と接触した閣僚であり、政界でも特に近い存在と目されていた男だ。
警視庁・特捜一課の取調室。机越しに座る三枝の前で、捜査員が書類をめくる。
「三枝大臣、一昨日・十五日の会食は何時に終了しましたか?」
「記憶が定かではないので確かなことは言えませんが、終わりは二十三時か零時辺りだったような気がします。総理とは大分酒を酌み交わしたものですから、時間の感覚が…。気が付いたら官邸の応接室でそのまま酔いつぶれてしまいまして」
「会食の場では、総理に変わった様子は?」
「特には……。多少疲れていたようでしたが、あれくらいのことはいつもです」
「総理から何か言われたりしたことは?トラブルを抱えているとか、誰かと会うとか」
「近くの日中首脳会談に向けてどうにか、という話と……あとは取るに足らないようなことばかりで、言葉を最後に交わしたのは、宴もたけなわになった頃、『そろそろ風呂にでも入ってくるよ。三枝君は好きに寛いでくれ』と、それだけでした」
「総理の失踪を知ったのは?」
「酔いがさめたのが朝四時か五時頃でしたかね。総理は官邸にはいませんでした。出掛けたのかなとも思いましたが、秘書から『総理がいない』と連絡を受けた時は、まさかと思いました」
なるほど、と一言。ペンを走らせる捜査員は三枝に問いかけ続ける。
「……何か、気になる点は?」
三枝は一瞬、逡巡の間を挟んだあと、声を落として言った。
「実は……総理が失踪したと思われる頃と同じ時間帯に、奇妙な手紙が置かれていました」
「手紙?」
「ええ。応接室のソファでそのまま寝てしまっていたのですが、そばのテーブルに置かれていて。封筒の差出人名義は……“銀の仮面”と書かれていました」
捜査員の手が止まる。
「中身は?」
「その………掻い摘んで言うと、総理の命を奪った旨を事後報告するような内容でした」
捜査員の眉がぴくりと動いた。
「……命を奪った?本当に、そう明言されていたんですね?」
「――“天誅により、この世を去った”と、確かそう記されていました」
天誅――。
捜査官が口に出してその意味を咀嚼する。
意味と背景に思案を巡らせたくなるが、今は三枝に意識を戻す。
「その手紙、今はどこに?」
「秘書に命じて、本書は厳重に保管させています。写しはすでに官邸の危機管理室に提出済みです」
「差出人は“銀の仮面”……と。他に手がかりになりそうな文言や符号、紙質、インクなどは?」
「切手がなく直接テーブルに置かれていたことと、表書きと中身は筆で書かれていたくらいで、封筒も便箋も、極めて一般的なものでした。いや、あと……銀色の封蝋がされていました」
捜査員は小さくうなずき、手元の記録に素早く書き込んでいく。
「その手紙には、雨宮総理の命を奪った犯行声明だけが書かれていましたか?」
「……いえ。“次はお前だ”――明確に、そう書かれていました」
室内の空気が重くなる。
「それは脅迫と受け取りましたか?」
「当然です! 総理が失踪したのと同時にそんな置手紙をされていたら…脅迫と感じない方がどうかしています!」
「落ち着いてください、大臣」
捜査員が両手を軽く上げて宥める。三枝はハンカチを取り出して額を拭った。
「……申し訳ない。昨夜から、ほとんど眠っておりませんので」
三枝はべったりとねばついた汗を嫌うように、ハンカチで強く額をこすった。
「では最後に。大臣ご自身、何者かに狙われる理由に心当たりは?」
三枝の指先がわずかに揺れた。言葉に詰まったのを見逃さず、捜査員は静かに視線を重ねる。
「個人的な恨みなどでは……?」
「……いや、ありません。私は外交の責任者として、常に国益と国際協調の中で職責を――」
「ですが、総理と共にこの国の舵取りに携わってきたお立場です。今回の件に、政治的な動機が絡んでいるとしたら?」
「……それは、警察の方が判断されることです」
三枝の語尾はかすかに震えていた。
捜査員はその変化を見逃さず、メモ帳を閉じながら言った。
「大臣、今後、警護についても調整をお願いするかもしれません。万一に備えて、外出先の報告・連絡もお願いします」
「分かりました……。――本当に、銀の仮面という者が、現実に総理を……?」
その問いに、捜査員は一瞬、返答を迷った。
「現時点では、すべての可能性を視野に入れています。ただ、確かなのは――総理は確かに、姿を消したということです」
無言のまま、三枝は深く椅子に背を預けた。その目は宙を彷徨いながら、見えない何かを追っていた。
(――このままでは、俺の命も……)
その背中は、いつもよりわずかに丸まって見えた。
その夜。
霞が関の外務省庁舎ではなく、都内の高級住宅街にある三枝信介の私邸。
警視庁から戻った彼は、ジャケットをソファに放り投げるなり、スーツのポケットから鍵を取り出して書斎の扉を閉めた。
室内には誰もいない。妻も子も既に地方の別邸に避難させている。表向きは療養だが、実際には仮面の男への恐怖からだ。
三枝は、ついさっきポストに届いた、切手のない封筒を取り出した。
銀色の封蝋がなされた封筒の表書きに「三枝信介様」と達筆で書かれた黒の筆文字。
そこには、どこか異様な威厳があった。
平時であれば表書きになど特に感情を抱かないが、本能が警鐘を鳴らしているのか、先日と同じ封筒とこの筆文字にさえ恐れを感じてしまい、思わず封を開ける手が震える。そんな不気味さ。
「くそ……何なんだ……この男は……」
呻くように呟きながら、三枝は中の手紙を取り出す。
ざらついた上質紙に書かれていたのは、実に簡素な文だった。
『──売国の徒、雨宮誠一、天誅済
あなたも例外ではありません
来たるべき時はもう間もなく』
たったそれだけ。だが、そこに記された三文字──「天誅済」という言葉が、彼の脳裏に焼き付き、離れなかった。
三枝は机に崩れ落ちるようにして座り込み、顔を両手で覆った。
「天誅……!?……俺は……殺されるのか……?」
思えば、予兆はあった。
雨宮総理の弱腰外交で中韓に極端な譲歩を重ねるたびに、世論は激しく反発していた。自分もまた、その外交方針を後押ししてきた。表ではアジア太平洋地域の安全友好を謳いながら、裏では中国共産党・趙凱外相との非公式な交渉を繰り返し、中国企業に対する入札優遇を進めてきた。日本各地の商業ビル・北海道を中心とする水源地・観光地周辺の新規ホテル建設事業―――それらに便宜を図る代償として、金と享楽を得てきたのだ。
――それらは、すべて見られていたのか?
いや、まさか。俺の動きは秘書も限られた部下しか知らぬ。公安も一目置く警戒網だ。こんな奴、警察の手配にも存在していない。
だが、現に雨宮は消えた。何の痕跡もなく。争った形跡も、監視カメラの映像も何も残さず。
三枝は、ようやく立ち上がると、書斎の窓のカーテンをわずかに開け、外を覗いた。
人気のない深夜の住宅街。その奥に、街灯の影が揺れていた。人影ではないと分かっていても、心臓が跳ねる。
「まさか、今……そこに……?」
幻聴のように、「ずっと見ているぞ」という声が、背後から聞こえた気がした。
翌日、外務省は公式に三枝外相の「外交日程見直し」を発表した。
同時に、彼の予定にあった東南アジア訪問・中国との外相級会談・G20関連協議のほとんどがキャンセルされた。
表向きの理由は「国際情勢に応じた調整」だったが、永田町の誰もが、「三枝が何かに怯えている」ことに気づいていた。
議員会館・外務省庁舎・官邸タワー・国会ですれ違う三枝は憔悴しているのが誰の目にも明らかで、つい数日前までの脂ぎった笑みを完全に失っていたのだった。
七月十九日の午後、国会では予定通り「東アジア外交の現状と日本の立場」に関する審議が行われた。
総理の行方不明という国家の一大事にもかかわらず、政府は依然として公式には「体調不良による休務」と説明を続けていたため、外務大臣・三枝信介が臨時の答弁に立つこととなった。
議場に姿を現した三枝は、いつもの精悍な面影を欠いていた。頬はこけ、ネクタイはゆがみ、資料の束を抱える手はわずかに震えている。長年の政界経験者にしては、あまりに脆弱な姿だった。
「……三枝外務大臣。先の中国との共同文書について、“我が国は台湾問題において中国の置かれた現状を十分に理解し、可能な範囲内で配慮する”と記載されています。これは震災で巨額の義援金を寄付してくれた台湾を明確に裏切る行為です。友好な日台関係と国際社会における日本の立場を著しく損なうものではありませんか?」
野党議員の追及に、三枝は立ち上がったが、明確な言葉を返すことができなかった。
「え、ええ……その件につきましては、我が国としても……ええと、立場の明確化と……あくまで対話の継続を念頭に置きながら……相互理解をですね……模索していければと……」
「大臣、これは中国に台湾の主権を認めると日本が後押ししたと取られかねない重大な問題ですよ。相互理解と言いましたが、中国は歴史歪曲問題もありますし、プロパガンダ映画で反日教育を後押しして、思惑通りに日本企業への不買運動と打ち壊しが起こってるじゃないですか。在留邦人が現地人に斬りつけられる事態も起こってるんです。あちらがこちらの抗議に耳を貸さないのにあちらの言う事にハイハイ頷いていたらそれは一方的な譲歩ですよ。あちらはこちらに全然謝罪も誠意もないじゃないですか。こちらが中国の顔色を窺ってばかりですよね?日本国の外務大臣としてそれはどうなんでしょう?」
「い、いえ、それは……断じて……あの、やはり、日本は世界に誇る平和を重んずる国として、戦争放棄を掲げていますから、あの……何でもかんでも力で解決するのではなく、えー…対話で、糸口を見つけるのが日本の、おー……やり方と言いますか……台湾問題もありますが、そこはアジアの安定を第一に、……今後の動向を見極めつつ、中国にとって最も、いや、あの、日中両国にとって最も良い……」
議場にどよめきが走った。
「大臣今何と言おうとしましたか!」
「"中国にとって最も良い"と言おうとしましたよね!」
「アジアの安定のためなら台湾には犠牲になれと大臣はお考えですか!」
「いや、違…そ、そうではなく、そうではなく、ちゅ、中国と日本双方の国益を、最大限追求出来る、せ、選択をですね―――」
言葉は所々でつっかえ支離滅裂、語尾は曖昧。これまでの強硬なグローバル志向・親中姿勢とはまるで別人のような動揺ぶりだった。
審議の様子は生中継されており、各家庭や街中のテレビでも映し出されていた。
=定食屋=
「とうとう尻尾出しやがったな三枝」
「……なにあれ。どこの国の外務大臣な訳?」
「汗ダラダラ。ビビりすぎだろ」
「総理が消えて、あいつに火の粉が降りかかると思ってんのかね。腰引けてるの丸わかり」
「正直、自業自得って感じだな。あんだけ好き放題やってきて、今さら“国益”とか言ってもなぁ……」
=商店街のテレビ前=
「おい、今の外相の顔見た?明らかにバレたって顔したけど」
「今更って感じもするけどな」
「終始どもり過ぎだし。ずっと震えっぱなしだけどどしたん?」
「夜中に誰かに脅されたんじゃねぇの?政府?警察?中国?まぁ、あいつはいろんな所からヘイト買ってるから脅迫されてもおかしくねぇけどな」
「雨宮の次はお前だ、ってか。あの辺の連中、みんな怖がってんじゃねぇのか?」
=ネット上の声(SNS)=
「三枝、目が泳ぎすぎ。何があったんだよw」
「仮に“総理失踪”がただの事故でも、この外相の挙動不審は説明つかんだろ」
「やっぱ三枝はクロだったか。何が起こってんだ?マジで日本が終わる時が近いのか?」
「こんな大臣に日本任せてていいのかよ?何の取り柄もないけど、俺が立候補しようか?俺の方が少なくともあいつよりはやれる自信がある」
「お前が立候補するなら俺らの票やるわ」
「本当の市民が国会に行かないと始まんないだろ。世襲議員ほど市民の声(笑)とか言うもんな」
「一議席でも多く自民党議員を無職にしてやろうぜ」
「お前らマジで投票行け」
「どうせ自分が投票したところでとか言ってんなよ?捨てるくらいならその票俺にくれ」
「投票行かない奴はガチで非国民」
「非国民とかwwwww って笑ってられる時代じゃあないんだよな…もう…」
「短冊にどれだけの人が願いを込めたんだろう」
「彼女欲しいけどその前に平和な地元を返してほしい」
「もうこんな日本見たくないよ。どうにかしてくれよ」
「誰か勇者出て来てくれ。マジで頼む」
三枝は、言いようのない不安に苛まれていた。
今朝も届いた“手紙”──誰にも見せず、自室の金庫に増えていく白封筒の文面が、脳裏に焼き付いて離れない。
『審判の時は刻一刻。
あなたの罪は何か、思い出すといいでしょう』
明確な日時を示唆しての殺害予告はまだ来ない。
だが連日届く手紙の文言が何を意味しているのかは、誰に聞いても同じ答えを出すだろう。
自分の命が狙われているという確信だけは日に日に強まっていた。
帰宅後の三枝は、家中のカーテンを閉め、秘書にも警護官にも言わず私的に警備会社に依頼をかけた。寝室のドアに追加の鍵を取り付け、ベッドの下には防犯スプレーと小型スタンガンを隠してある。
だが、眠れない。
まぶたを閉じれば、誰かが立っている気配がする。
あの男──いや、“気配”そのものが、自分に付きまとっている。
そして、胸の奥にひそむ微かな疑念。
(この国のどこかで、奴が見ている……)
防犯スプレーやスタンガンではやはり心細い。
ここは銃を持たないと。銃でないと安心感は買えない。
そうだ、銃を手配しよう。それがいい―――――。
翌日から、三枝は登庁を数日単位で休むようになった。
理由は「体調不良」。だが真実はただ一つ──恐怖だった。
誰にも語れぬ恐怖が、外務大臣の心と行動を蝕んでいく。
三枝信介が再び公の場に姿を見せたのは、総理失踪から十日後のことだった。
自宅に引きこもっていると、連日連夜時間を問わずポストに切手のない封筒が投函される。
妻子を避難させている為、私邸には私一人だけしかいない時間が増える。
かえって私邸に引きこもっていると危ういのではないかと思い至った三枝は、再び公用車に飛び乗った。
だがその姿は、かつての外務大臣の威厳とはかけ離れていた。
黒の帽子にサングラス、顔の半分を覆う医療用マスク。ダークグレーのコートは七月の暑い陽射しの下でも脱がれることはなく、襟は目元まで立てられていた。手には黒革の手袋。ワイシャツの下には防刃チョッキ。腰には伸縮警棒と、まるで要人警護中の秘密捜査官か、あるいは監視されることを極度に恐れる逃亡者のようだった。
その異様な服装に、同行する秘書官やSPたちは互いに目配せするしかなかった。
省庁から車で移動する間も、三枝は絶えず車窓の外を気にした。赤信号で停まるたびに腰を下げて窓の外から姿を見られないように隠れ、人混みの中に“誰か”を見つけたように指を差し、車内の警護官に低く声を発する。
「……今の男、見たか? あの角でこっちを見ていた」
「は、はい……確認します」
警護官が慌てて無線を飛ばすが、当然何も出てこない。
三枝の不安は消えない。目は泳ぎ、口元は震え、額には玉のような汗が滲んでいた。
省庁内でもその異常ぶりは目立っていた。
エレベーター内で、たまたま同乗した若手秘書官に唐突に問い掛ける。
「……お前、銀の仮面じゃないよな?」
「はっ……?な、なにを……仮面、とは……」
「すまん……。ただ、確認しておきたくてな。万が一ということもあるから……いや、気にしないでくれ」
若手は蒼白になりながら降りていった。三枝は誰かに聞かれることを恐れ、小声で独り言のように呟いた。
「どこだ…誰だ……誰が奴なのか、どこで見ているのか……」
午後の会議中、担当課長が資料を説明している最中、突如三枝が立ち上がる。
「……お前か?」
「えっ?」
「お前……今何か言っただろ、今。"正義"がどうこう……いや、目が合ったな? その目……俺を睨んでいただろう」
会議室は一瞬、凍りついた。
「三枝大臣、何かご気分でも……?」
「黙れ!貴様もか?誰かが俺を……俺を見張ってる……ずっと……!」
発作的な叫びとともに、三枝は自席に崩れるように座り、震える手で胸元を押さえた。
その日以降、三枝の行動は完全に異常を来した。
登庁すれば地下駐車場から直通エレベーターしか使わず、外出先では常にSPを六人以上従え、ビルの全フロアを事前に調べさせるよう命じた。会議中も誰かの手が懐に伸びただけで怯え、頻繁に会議を途中退席した。
さらには、官房副長官や警備部長に対し、深夜に何度も「誰かに尾けられている」「寝室の壁から足音が聞こえる」「そちらで尾行者の検知は?」と電話をかける始末。
その姿は、国民の目にさえ奇異に映り始めていた。
=ネット掲示板やSNS=
「おい、今日のニュース見たか?三枝、SP何人連れてんだよww」
「サングラスとマスクで顔見えねぇし、マジで被害妄想ヤバすぎる」
「誰かに見張られてる?なんだよそれ。やっぱなんか知ってるんじゃねぇの、あの外相」
「というか、とうとう過激派に追われ始めてんじゃねーのか?売国やりすぎた報いだな」
=テレビ番組の街頭インタビュー=
「本当にこの国の外務大臣なのかって思うよね。あの恰好、あの態度……国の顔として恥ずかしい」
「責任ある立場なら堂々としててほしいけど、あれじゃ……何か後ろめたいことがあるんじゃないかって思うわ」
「あの調子でまともに公務が出来るのかが本当に疑問だね。もう別の人に交代したほうが良いでしょ、流石に」
恐怖は、一日中場所と時間を問わず三枝の精神を蝕み続けていた。
昼も夜も、彼は心のどこかで“その存在”を意識していた。
──正義の代行者・銀の仮面。
ヴェールに隠された謎の審判者。正体も目的も不明のまま、すでに一人の宰相を消した可能性すらある“何か”。
それが今、自分に狙いを定めている──。
三枝信介はもう正気を失い始め、外交も政務も機能していなかった。
あるのはただ、忍び寄る“審判”への、絶え間ない怯えと疑心だけだった。
次話は今日20時投稿予定です。
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