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13話 けして、けせない




 

 =首相官邸タワー・緊急連絡会議室(CIC)=


 八月十九日午後五時ちょうど――。


 政府系テレビ局を筆頭に、全民放の放送が一斉に中断された。画面が一瞬ブラックアウトし、砂嵐が走る。その直後、無音のまま、銀の仮面が三日月を背負って現れた。


「始まった……!」


 CIC――首相官邸タワー内の緊急連絡会議室では、内閣情報官、警察庁幹部、総務・外務・財務・防衛・法務の各省幹部らが顔を揃え、場の空気は異様な緊張と焦燥に包まれていた。各端末が光を放ち、スタッフが何度も指示を飛ばす中で、重苦しい沈黙と苛立ちが交錯していた。


「また電波ジャックか!? 今すぐ止めろ、今すぐだ!!」


 司令席に陣取る内閣官房副長官が苛立ちを隠しきれずに怒鳴った。声は反響し、会議室に緊迫した空気がさらに満ちていく。


「妨害信号を――早く!」


「電波妨害、通信ブロック、全チャンネルに対してリセットコマンドを送信中ですが……無反応です!」


 総務省電波管理局長が顔面蒼白で端末にしがみつきながら報告する。額には脂汗、指は震えていた。


「バカな……先月の件を受けて対策はすべて講じたはずだ! 完全な逆探知ネットも組んでいたはずだろう!」


「実施済みです! しかし、ログがまったく残っていません! 発信源も存在せず、端末識別コードすら……読み取れない……」


 場内に震えるような沈黙が流れる。重く鈍い空気が、誰の口も封じた。


「どこからも発信されていない? ではこれは……何だ……」


「まるで、空間そのものが放送しているような……」


 技術顧問が呟いた瞬間、空気が一層張り詰めた。


「そんな非科学的なことがあってたまるか! お前は本気で、魔法でも使っているとでも言うのか!?」


「ですが……この現象は前例がなく…既存のどんな電波遮断技術でも阻止できないのは……」


 叫びにも似た主張が飛び交う中、巨大スクリーンに銀の仮面が映し出され、静かに口を開いた。


『これから語る言葉に耳を傾けてほしい。これは、ただの告白ではない。これは一人の官僚の死に様であると同時に、この国の裏側、闇、隠されてきた真実が、今まさに暴かれようとしている』


「止めろ……! もう、止めてくれ……!」


 防衛省幹部が歯を食いしばりながら呻いた。額の汗が顎を伝い、シャツの襟を濡らす。


「今からでも全国放送局の電源を落とせ! ネットも遮断しろ! 配信サーバーごと吹き飛ばしてでも止めろ!」


「試しています! しかし……映像が、テレビのハードそのものに直に流れ込んでいるような……再起動しても映像は止まりません!」


「そんな……っ!」


 狼狽する幹部たち。端末越しに指示を飛ばす者、椅子から立ち上がって怒声を上げる者。が、その中でも一人、財務省の関係者と目される男は額から脂汗を流し、画面に映った人物を見て顔色を変えた。


「……桐山……」


 スクリーンには、何人かが見覚えのある料亭の壁を背に正座した桐山貢一が、深く頭を下げていた。沈痛な沈黙の中、その声が会議室に響いた。


『……私は、桐山貢一。日本国財務省、事務次官を務めていた者です。まずは、全国の皆様に……心から、謝罪を申し上げます。このたびは……このたびまで……本当に、誠に……申し訳ございませんでした……っ!私のこれまでの行動によって、多くの国民の皆様を苦しめ、怒らせ、涙させ、そして、死に追いやってしまいました。私は、財務省の人間として、国の財政を健全に保つべき立場にありながら、国民から金を搾り取ることばかりを考えていました。私が行ってきたこと、その責任、その代償……そのすべてに、今から向き合い、明らかにいたします』


 その瞬間、CIC全体が凍りついた。


 これから語られるのは、確実にこの国家の中枢に巣食う闇。誰もが、すぐにそう理解した。


「……やめろ」


「やめてくれ――――ッ!!!」


 映像は、桐山による謝罪と証言、そして数百枚にも及ぶ内部資料を次々に映し出していく。押印、日付、決裁印、上申文書――その一枚一枚が、嘘を許さない重みを持っていた。


 財務省による政策誘導、天下り利権、与党幹部との裏金のやり取り、再開発と癒着した企業献金の流れ――桐山の声が淡々と重ねられていく。


 その中には、ここCICに座する者たちの名も、資料の端に、証言の中に、幾度となく登場していた。


「これは……全部、本物か……?」


「そんな訳あるかッ!これは全部偽物!作り物……!そう、最近流行りのフェイク動画だ、そうに違いない!」


「でもこんなに多く……しかも詳細に……押印と実名が……」


 誰もが額の汗を拭うことも忘れて、言葉を失っていた。血の気が引いた顔、指先をもてあそぶ仕草、じっと膝を見つめる視線。それぞれが罪の片鱗を突きつけられていた。


 桐山の告白は一時間以上続いた。


 矢継ぎ早に白日の下に晒されるこの国の暗部。

 この場に集う幹部・関係者達は大声で放送を止めさせろと喚き、あるいは頭を抱えて会議室の隅でうずくまっている。


「終わりだ…もう終わりだ…」


「これは何か悪い夢を見ているに違いない、そうだ、こんなことが現実にある筈がない」


「あの書類は全部捏造…妄想…思い付きで書いた根も葉もない誹謗中傷…あんな荒唐無稽な映像など信じる訳が…」


「何をボサッとしてる!止めろ!止めるんだ!今すぐ止めろォォォ!!」




 終盤、桐山の長い告白と懺悔映像は変わり、桐山邸の最期の夜を映し出す。

 俯瞰で桐山を映した映像は白装束。家族を失った部屋で深謝を手向け、その隣室中央に敷かれた白い座布団の上で正座し、自らの罪と向き合う姿が映し出された。

 背後から射し込む月明かりが、桐山の背を静かに照らしていた。


 桐山は呟く。


 この国に虐げられた日本人たちと。

 この国を売り飛ばした逆賊への、魂の叫び。


 無念、雪辱、後悔、期待、祈念、様々な感情が入り混じった桐山は潔く、まもなく家族の後を追った。


 そして、その瞬間を最後に再び銀の仮面が現れ、静かに国民へ問いかけた。


『――この国の明日を、どう選ぶ?』


 画面が暗転したあとも、CICには誰一人声を発せられなかった。


 政府の最高機密を暴かれた恐怖。

 それが、日本全国に“真実”として知れ渡ってしまった現実。


 その衝撃と絶望が、無言のまま、その空間を支配していた。


 誰かが何かを言おうとして口を開きかけ、すぐに閉じる。その繰り返しの中、この密室には、かつてないほどの静寂と重苦しさが漂っていた。






 =東京都・霞が関、警視庁地下三階 特捜一課の捜査室=


 同日同時刻。

 政府中枢が電波ジャックの報を受けて混乱に陥っていたまさにその時、警視庁本庁舎の地下三階にある特別捜査第一課――通称・特捜一課の捜査室でも、警報がけたたましく鳴り響いていた。


 緊急通信波形の異常、放送波の全遮断。分析班のモニターが一斉にブラックアウトし、次の瞬間、画面には例の仮面の男――銀の仮面が、冷ややかな沈黙とともに映し出された。


「銀の仮面です!銀の仮面が現れました!!」


「また……来たか」


 電子分析班の中央席に座っていた橘千景は、モニターを睨みつけながら唇を噛み締めた。


 前回の電波ジャック事件で「今夜中に発信源候補を三つに絞ります」と啖呵を切ったものの、結果は惨敗。手がかりすら掴めず、時間だけが過ぎていった。その悔しさを胸に、この約二週間、橘はほぼ不眠不休の勢いで解析作業に明け暮れていた。


「……クソッ……!」


 橘の指が怒涛の勢いでキーボードを叩き、周囲の分析官たちも次々と端末に情報を叩き込んでいく。しかし、またしても異常は何も検出されない。発信源の痕跡は皆無。


 そのとき、分厚い防音扉が音を立てて開き、管理官・早乙女敬司が鋭い視線を携えて入室してきた。


「橘、現状を報告しろ」


「…はい。銀の仮面による二度目の電波ジャックと断定しました。現在、全チャンネル・全波長を解析中ですが、発信源の特定には至っておりません。波形は前回と一致、端末内部に痕跡なし。信号の注入経路も未だ不明です。まるで、通信機器の内部構造をすり抜けて、空間そのものに映像が注ぎ込まれているような……」


「つまり、またしても、発信者の“実在”すら追えないと?」


「はい。前回以上に徹底されている印象です。従来のサイバー攻撃では到底説明がつきません。ハードウェア層に直接干渉しているとしか……」


 橘の説明に、分析官たちは顔を見合わせた。口元に動揺が浮かぶ。


「これは……通常のサイバー攻撃ではないな」


 早乙女が呟く。


「あちらにとんでもない切れ者がついているか、あるいは…もし魔法という概念が現実に存在するなら、それで全て説明がつくかもしれません。ただ……我々はそれを口にできない。だから私は、理論で突破口を開こうとしたんです。でも……現実は、あまりに異質すぎます」


 橘は自嘲気味に口元を歪めた。


 そのとき、画面が静かに切り替わった。

 そこに映っていたのは、深々と正座した桐山貢一――数日前に家族ごと心中したはずの男だった。


「……あれは」


 早乙女が息を飲むように呟く。


 映像内の桐山は、かつての尊大な姿はどこにもなかった。

 深く一礼し、震える声で語り始めたのは、自身が積み重ねてきた数々の罪。そして、その裏に存在していた、官僚と企業、宗教団体、外国勢力との黒く、そして深い癒着の構造だった。もちろん、そこには警察も根深く複雑に絡み合っていた。


 映し出される膨大な文書、捺印された決裁文書、機密指定の予算配分、極秘の覚書――すべてが、生々しく、鮮烈だった。


「……嘘だろ、こんなの……」


「信じられん……。ここまでやってたのか……」


 誰かが震える声で漏らした。

 室内は静まり返り、キーボードを打つ音すら聞こえなくなった。


 警視庁――国家の治安を守る要として、全員が画面の中の男の告白に、まるで国民のように見入っていた。


 懺悔映像が終わり桐山邸の俯瞰映像に切り替わる。

 月光の下で白装束の桐山は短刀を抜き、静かに独り言つ。


『…いずれ、この国の誰かが気づくはずだ。こんな歪んだままで……良いはずがない。日本人はこんな所で終わる訳が無いんだ。今に見ていろ……!』


『頼む……誰か取り返してくれ……この国を、もう一度――日本人の手に……』




 ゆっくりと懐刀を腹に構えた男の背中が映る。


 そして、くぐもった桐山の呻き声。


 血が、画面の隅を滲ませる。


 残された力を振り絞り、左から右へ無理矢理に搔っ捌く背中。


 途轍もない痛みに呼吸が出来ないながらも真横に振り抜くと、畳に瞬く間に血が広がり、程なくしてその血の海にどう、と倒れ込む。



 自らの血の海の中で、土下座するように息を引き取った。


 それが、桐山貢一の最期だった。



 銀の仮面の電波ジャックが終わり映像が暗転した後も、捜査室は水を打ったように静まり返っていた。


 捜査室の空気が止まる。

 パソコンのファンの音だけが、会議室に響いた。


「……これは、ただの懺悔じゃない。……告発であり、遺書だ」


 早乙女の低く沈んだ声。

 橘はモニターから目を外し、握りしめた拳を静かに解いた。


「……日本はこれからどうなるんでしょうか。このまま侵食され内部から食い破られるのを待つのか、そうなる前に自らに火を点け害虫を駆除するのか。我々警察は、無限に涌く虫を都度払い除けるだけにすべきですか。それとも火を点ける手を止めるべきですか」


 誰にも答えられなかった。


 国を蝕んだ罪。その一端に、自分たちが加担していたのではないか。


 既に巣食った寄生虫は首脳にまで穴を開けている。


 今、火を放てば大火傷必至だがくには助かる。だがそれに怯えて誰も火を放てぬまま、蛆が這いずり回るのを黙って見ている。




 今、どこかの誰かが日本に火を放とうとしている。

 それを止めなければならない立場の自分たちは、本当にその手を止めていいのか葛藤する。


 誰もが、正解を見出せないままだった。





 =東京都・中野区のとあるマンション=


 白田つかさは、いつものように静かな夕方を自宅のデスクで過ごしていた。

 ワンルームの室内に、パソコンの画面が青白く光り、カチャカチャというキーボードの音が響く。

 ウィンドウには省庁のデータベースから抜き取った報告書の断片。政治家や官僚の不自然な動きのログ。今夜もまた、国家の歪みに潜む影をひとつずつ拾い上げ、解析し、整理していた。


 その時だった。背後のリビングのテレビから突如、音が消えた。白田が反射的に振り向いた瞬間、画面はブラックアウトし、次の瞬間――仮面の男が、そこに映し出された。


「銀の仮面―――!」


 画面の中央に正座し、静かに佇む男。

 今日全国の一面を席巻した桐山貢一割腹・一家心中事件。

 前回の電波ジャックも午後五時ごろだったのを記憶している彼女は、銀の仮面が映像に映ったその瞬間に『今回は桐山をやったんだ』と悟る。


 ところが、今回は銀の仮面は天誅をしなかったという。

 その代わりに国民にはある男の最後の言葉を聞いてほしいと。


 程なくして画面が切り替わり、そこにあったのは畳に正座する桐山の姿。

 彼は全国民への謝罪をすると、これまでに行ったありとあらゆる悪事・癒着を全て暴露し始めた。

 傍らの紙束から一枚ずつカメラに向けながら釈明していくが。


 ある資料のレイアウトに見覚えがある。

 ホチキス留めしたそれは、入力した記憶に新しい、棒グラフ・折れ線グラフ。

 そうなると、もしかするとこの次にはあの写真が――――、出て来た。


 ――まさか、あれは。


 白田は目を凝らした。資料の縁に貼った蛍光ピンクの付箋の配置、紙の厚み、表紙に記した文字の擦れ具合……どれも間違いなく自分が編集・印刷したファイルだった。


「……なぜ、桐山が……?」


 小さく呟いた瞬間、胸がドクンと脈打ち、息が詰まる。


 秘密裏に作った機密の束を、何故当人が持っている?


 これまで信用のおける人にしか渡していないそれを桐山がどうして持っているのか。その状況に思わず手が震えた。


 テレビの前へ身を乗り出し、目を見開く。


 桐山の涙ながらの懺悔。私が作った証拠を手に説明しながら一時間半にも及ぶ深い後悔と反省と謝罪の映像が終わり、その末に流された、――切腹。


 映像は容赦なく真実を突きつけ、国家の闇を暴き、桐山の潔くも無念な最期は、視聴者の感情を揺さぶっていく。

 だが、白田の脳裏には一つの疑問がこの二時間弱、ずっとこびりついて離れなかった。


 ――どうして、あの資料が桐山の手元にあったのか。


 あのファイルはこれまで多くの相手に配ってきた。過去、正義感を語る若者にも、記者やNPO関係者にも。

 私は今までこの人は私の同志だと思った人や信用できると思った人にしか渡していない。

 そうでなければあんな危険なものを渡すわけがない。

 だが、最後に渡したのは……


「……あっ」


 中野の宝誠堂で金貨を売っていた、謎めいた雰囲気の青年。蓮。


 ――あの時のやりとり。

 ――あの金貨。

 ――こちらの素性を気にせず、何も語ろうとしなかった沈黙。


 あの青年こそが――?


 思考は加速するが、確信には至らない。

 ただ、胸の奥が何かを訴えていた。


 蓮に、確かめたい。


 白田はスマホを手に取り、震える指でメッセージを打った。


「……明後日の十五時、あのカフェで少しだけお話できませんか?」



 八月二十一日。

 中野駅から離れた住宅街の中にある静かな喫茶店。

 古民家風の落ち着いたカフェは先日と同様の落ち着いた雰囲気。クラシックが流れる穴場ともいえる空間。

 外はやや曇った天気でアンティーク調のランプの柔らかな光が際立つ。店内は白田一人だけ。ティーカップの音が一つだけ響いていた。


 扉のベルが鳴り、蓮が姿を見せた。

 薄手のポロシャツと薄いリュック。ごく普通の装い。平凡そうな見た目だが、そのまま彼が平凡だとは、もう思っていなかった。


「こんにちは。お待たせしました」

「来てくれて、ありがとう。……急にすいません」

「いえいえ。…何飲んでるんですか」

「えっとね、ロイヤルミルクティーを」

「じゃあ俺もそれにしようかな。すみません!」


 二人は広い店内だのに窓際の端の席に向かい合う。

 甘やかなミルクティーの香りがゆるやかに空間を満たした。


「……一昨日の映像、見ました?」

「……ああ。話題になってますね」


 短く答えた蓮の目は、カップの底に向いている。


「桐山の映像にあったあの証拠資料……あれ、私が作ったものだったの」


 蓮は、少しだけ目を見開いた。


「へえ……偶然ってあるんですね」


 曖昧な返答。白田は目を細めた。


「……最近、誰かに渡した覚えは?」

「うーん……あまり記憶にないですね」

「私は、最後に渡したのが――あなたなの。だから、もしかしてって」

「ふふ、なんだか推理小説みたいですね」


 軽く笑ってかわす蓮。

 白田は紅茶に口をつけながら、少し目を伏せた。


「……私ね、あの映像見て思ったんです。……もしも、あなたが銀の仮面だったらいいのにって思った。……ううん、思ってる」


 蓮はその言葉にわずかに眉を動かした。

 しかし、肯定も否定もせず、ただ黙って頷いた。


「…だから今日はロイヤルミルクティーですか」

「え?」

「アールグレイじゃなくてロイヤルミルクティーなのは、頭が糖分欲しがってるから?」

「……ふふ、そうね。いろいろ考えたから甘いの欲しくなっちゃったのかもね」

「俺もなんか疲れちゃったせいか、甘い物飲みたくなっちゃってたんですよ。奇遇ですね」

「蓮くんはそんなに疲れる事を一昨日したの?何してたの」


 ―――全国の放送を乗っ取って、勝手に映像を流したりとか?


 白田は頬杖を突きながら年上の女の余裕たっぷりに流し目で蓮を煽った。

 蓮は小さく笑うと、平然としたようにカップを傾ける。


「もしそうだったら、俺はもっと砂糖入れてますよ。これくらいじゃ取り返せない程の疲労だと思いますよ、あれは」

「………そりゃそうか。紅茶じゃなくて普通にエナドリとか飲むかも」

「エナドリかぁ。白田さんは普段エナドリとか飲むんですか」

「そうね~、興が乗った時は二本三本開けちゃうかも」

「えっ、そんなに?」

「だって今日アクセスしたページが明日もアクセスできるとは限らないでしょ。一時間後には消えてるかもしれないヤバイ情報とかいっぱいあるし、一昨日はあんなことあったし。タイムイズマネー、時は金なりですよ。いくら積んでももみ消したい秘密ってのは誰にでもありますから。まぁ、実際に売り込みをかけようとしたら消されちゃうのは証拠だけじゃなくて私もでしょうけど」


 と笑う白田だったが、ふと顔を真正面から見た蓮はほんの少しだけ小首を捻った。


「もしかして今日を指定したのって、昨日一日()()()()()()ですか」

「………バレました?」

「ああ…だって白田さん、隈が出ちゃってますよ」

「えっ嘘っ」

「もしかして昨日エナドリ何本も開けてたりしてませんか?」

「……っ!だって、あんな映像流れたらもう時間との勝負じゃない!お腹スッキリされちゃう前に、痛い腹を探って証拠を握っておかないと」

「まさか今日寝てないとかないですよね?」

「寝ました!三時間くらい…」

「―――はぁ」

「何よ!私の資料で助かったんでしょ?感謝してほしいくらいだわ!ほら、ありがとうございますって!」

「何で俺が白田さんに感謝するんですか。俺、銀の仮面じゃないですよ?」

「~~~~~っっっ!!!」


 頬を膨らませながら蓮を睨むが、ほんの少しだけ目元が笑っていた。

 平和を願い、安らぎの宿り木のようなこの行きつけの喫茶店で、白田の中で何かが静かにほどけていく。


 カフェの灯が静かに揺れる中、二人は落ち着く空間で談笑しながら、束の間の平穏に浸る。


 しかしその平穏は、すぐに砕け散ることになる。





 中野の裏通りは、日暮れと共に街灯がぽつぽつと灯り始め、路面に長く影を落とし始めた。蒸し暑さの残る八月の夕暮れ、アスファルトにこもった熱気がまだ地表を包み、居酒屋の店先からはビールの泡が弾ける音と笑い声が漏れていた。すれ違う人々の服の隙間からは、汗を拭う制汗剤と店内の冷房の香りが混ざり合い、夏特有の街の匂いを運んでいた。


 カフェから出て間もなく、白田つかさは蓮に軽く会釈をして、交差点の手前で足を止めた。


「じゃあ、また連絡、しますね」

「はい。気をつけて」


 蓮の短い返答に、白田は少しだけ笑みを浮かべて手を振り、歩き出した。蓮はその背中を見送りながら、小さく息を吐いて反対方向へと歩き始める。


 だが、その数秒後だった。


 薄暗い路地に差しかかろうとした白田の肩を、突然、誰かの腕が乱暴に引き寄せた。


「――っ!? なに、やっ……!」


 叫ぶ暇もなく、大柄な男の腕が白田を背後から抱え込むようにして、路地裏へと引きずり込んだ。


 そこは街灯の死角。ビルとビルの隙間にできた薄闇は、すでに夜に飲まれていた。舗装もされておらず、ゴミ袋の山が無造作に積まれ、袋の裂け目から異臭が漂っている。


「オイ、シズカニシロ……」


 男の低く濁った声が響いた。両手の指にはドクロのタトゥー、そして左頬から目尻にかけて伸びる異様な刺青。浅黒い肌の男は己の欲望を吐き出すことしか考えていないといった風情で、白田を地面に押し付けながらニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「やめて……! たす、けて、誰か……!」


 悲鳴を上げた瞬間、男の手が白田の胸元を掴み、シャツのボタンを引きちぎった。白田は必死に体を捩って抵抗しようとしたが、力の差は圧倒的だった。


「ダマレ。ヨケイナコト、スルナ」


 白田の鼻先に、鈍く光る銃口が突きつけられた。冷たい金属の感触が皮膚に触れた瞬間、彼女の全身が震える。


 その時、足元の空の一斗缶が蹴られて転がり、大きな音を立てて崩れた。その音が路地に響き渡る。


「アバレルナ!…オトナシクシロ!」


「痛い痛い痛い!助けて!誰か助けてぇぇぇ!!」


 白田の悲痛な叫びと、男の恫喝。

 路地には似つかわしくないやり取りは、大きな音を立て過ぎた。





「おいそこのお前、何をやってる!」


 路地の入口から怒鳴り声が飛んだ。

 声だけが聞こえた白田の耳に、微かな希望が灯る。


「れ……く……っ!」


 そこにはつい先ほど別れた蓮がいた。

 交差点の手前で別れ、もう一度振り返った時に白田の姿が消えていた。

 あまりに消えるのが早すぎた違和感に、蓮の第六感が警鐘を鳴らし、気が付けば走り出していた。


 背後に現れた気配に男は白田を組み伏せたまま上体だけ振り向く。


「ナンダ、オマエ…!?」


 そこには喉輪で地面に押し付けられている、白田の怯え切った姿があった。


「―――白田さん……!」



 蓮の視線が白田に馬乗りになる男の顔に釘付けになる。左頬から目尻にかけての異様な刺青、そして両手全ての指に彫られたタトゥー。その姿に、蓮の脳裏に電撃のような記憶が甦った。


「お前、埼玉の……連続婦女暴行事件で不起訴になったあの……!名前は、たしか……」


 言葉にした瞬間、男の肩がびくりと震えた。


「ク、クルナ……!コイツガドウナッテモイイノカ……!」


 白田の胸倉を乱暴に掴み上げ、左腕に抱えながら白田に銃口を向けて牽制する。

 じりじりと蓮との間合いを図り、白田を人質にして逃走を図ろうとしたが、男の手元がぶれた。

 つい指先に力が入り、白田の胸に向けて突き付けていた銃の、引き金が引かれた。


 ―――ダァン!!


 引き金が引かれた瞬間、白田の目は驚愕に開かれ、胸と背中から血が同時に直線状に噴き出た。


 銃撃した張本人である男は驚いて左腕を離す。白田は地面にどさりと音を立てて崩れ落ちた。

 発砲してしまった銃と白田を動揺した表情で交互に見、やがて蓮に目が止まる。


 人を殺す現場を確実に目撃された。


「……っ!!」


 男は口封じするため、その銃を蓮に向けた。


 銃を向けるが先か、蓮が動くが先か。蓮は既に駆け出していた。




 蓮は即座に詠唱を開始した。


「―――無音結界サイレントバリア!」


 詠唱と同時に、世界が沈黙に包まれる。爆音の残響が消え、張り詰めた緊張感だけが空間を支配した。


 地面に倒れ込んだ白田の周りには急速に血が広がっていく。

 これは心臓を直撃したに違いない。


 蓮の喉元が凍る。


「白田さん!!」


 叫ぶと同時に、蓮は駆け出す。


「ク、ク、クルナ!ウツゾ!!」


 男は銃を蓮に向けて引き金を引いた。


 蓮は左手をかざし、第二の魔法を放つ。


「―――禍封障結マリス・シールド!」


 男が構え直した銃から放たれた弾は、蓮が纏う不可視の壁に勢いを失い、蓮に直撃することなくコロンコロンと小さい金属音を立てて落下した。


 男が蓮に銃が通じなかったことを察するよりも早く、蓮は一瞬で間合いを詰める。足を踏み込み、体重を乗せた回し蹴りを銃を持っている手へ叩き込んだ。


「――っがッ!」


 蹴り飛ばした銃が回転しながら地面を滑っていく。


 続けざまに拳で顔面を打ち抜き、更に渾身の蹴りが男の腹部を抉り、吹き飛ばされた男は背後のコンクリート壁に激突した。男はよろめいて地面に倒れ込む。


「グッ……ぅぁ!」


 呻きながらも立ち上がろうとしたその瞬間、蓮は詠唱を紡いだ。


「――――重圧呪縛グラビティバインド!」


 空中に魔法陣が出現し、重力の奔流が男を圧し潰す。

 骨が軋み、地面がひび割れ、男の動きが完全に止まった。


 男を無力化した蓮はすぐに白田のもとへ駆け寄った。

 彼女は胸と背中から大量の血を流しながら、虫の息のような呼吸となっている。

 みるみるうちに顔が青白くなっていく。


 蓮は彼女の脈を取り、冷汗を滲ませながら葛藤する。

 至近距離から心臓付近に撃たれた銃弾は背中まで貫通している。とめどなく血は流れ続け、事態は一刻を争う。

 魔法で治癒すれば、彼女に自分の正体が露見する。しかし――救急車では間に合わない。この出血量では、救急車がここに来る前に命を落とす可能性が高い。


 見捨てるという選択肢など、蓮にはなかった。


 覚悟を決め、右手を白田の胸元にかざす。


「―――治癒ヒール!」


 淡く緑がかった光が白田を包み込み、徐々に抉れた弾痕が塞がっていく。

 そしてアイテムボックスから取り出したポーションを、意識を失いかけている白田の口に流し込む。


「飲んでくれ……頼む……ちょっとでいいから飲んでくれ……!」


 傷は塞がっても、失った血だけは取り戻せない。

 ポーションを飲んでくれさえすれば白田は死地を脱するかもしれない。


 細く、しかし零れるほど、蓮は白田の仰向けの口にポーションを注いだ。

 蓮は自分の心臓が早鐘を打つ。


 頼む。飲んでくれ。飲んでくれないと助からない。

 少しでいいから飲んでくれ。

 飲め……飲むんだ……!!



 蓮の必死の祈りの中、白田の喉が小さく鳴った。

 数十秒後、血の気が引いていた白田の頬に、わずかな赤みが戻ってきた。


 もう一度、白田の喉が鳴り、ポーションが飲み込まれる。

 そうしてようやく蓮はポーションをアイテムボックスに戻し、もう一度詠唱する。


「―――活性加速リジェネレイト!」


 ポーションを媒体に白田の本来の生命力・回復力を活性化させる。

 そうすることでようやく白田の呼吸が整い、やがてゆっくりと瞼を開いた。


 彼女の視線が、焦点の合わないまま蓮の顔を捉える。


「―――大丈夫か!これは見えるか?」


 蓮は二本指を揺らす。


 白田の目がそれを追い、「……に、ほん……」と呟いた。



 窮地を脱したことで蓮は深い安堵のため息を吐いた。


「良かった……!」



 蓮はそっと白田の身体を起こし、背を支えるように抱え込む。意識はまだ朦朧としていたが、呼吸は安定しつつあった。蓮の膝が、地面に広がった血に塗れるが、それよりも白田の容体が気がかりだった。

 胸元の血の染みは生々しく残っているが、傷自体は完全に塞がっている。


 その目が、ようやく確かな焦点を取り戻し、蓮の顔をしっかりと捉えた。


「……蓮、くん……?」


 か細い声が、静かに蓮の名を呼ぶ。それが何よりの回復の証だった。

 蓮は小さくうなずいた。


「俺だ。白田さん、もう大丈夫だ」




 ――ドクロの指タトゥーと刺青顔の男は圧し潰された苦悶の表情でうめき声を上げながら、まだしぶとく生きている。


 蓮は男に鋭い視線を突き付けたまま、アイテムボックスから替えのTシャツを取り出すと白田の胸を隠すように視界の外で押し付ける。


 物理的にも精神的にも完全な敗北を意味していた男だが、しばらくその特徴的なタトゥーを見つめていてようやく蓮は完全に思い出した。


 ジャマン・ホック・ムハンマド。

 パキスタン国籍のその男は、約一ヶ月前、蓮がエルディアから帰還したその日に見上げたオーロラビジョンに映っていた連続婦女暴行事件の犯人。

 埼玉を中心にうら若き少女たちを立て続けに襲い、その罪によってようやく逮捕されたが、何故か不起訴となり市井に放たれた野獣はまたもや無関係の女性を毒牙にかけようとした。


 悪人は何も政府高官だけじゃない。

 日本に流入して、実際に手を上げる不逞の輩たちがいる。

 道端でわざとぶつかって因縁を吹っ掛けるだけのそれとはわけが違う。

 これは蓮が割って入らなければ"強姦致死"に発展していた。


 白田はしばらく何も言わず、その光景を見つめた。だがふと、蓮の手から滲む魔力の残滓、そして彼の瞳に宿る深い覚悟の色を感じ取り、唇を震わせる。


「あなた、まさか……」


 その言葉に蓮は返事をしない。ただ静かに視線をジャマンへと戻し、右手を掲げた。


「―――死神之鎌グリムサイズ


 ジャマンの真上に現れた魔法陣から、大鎌を持った死神が現れる。

 全身からは陽炎のように揺れる紫のオーラを放ち、大鎌を足元にひれ伏すジャマンの首に添える。


「タ、タスケテ……!」


 哀願を誘うような、善良な外国人然とした表情で蓮を見る。


「コロサナイデ…オネガイ…!」


 粗野な大男らしからぬ口ぶり。

 丸写ししたような言い回しは恐らく、男が手に掛けて来た女性たちが最期に放った言葉。


 既にこの世にいない、何の罪もない女性たちの言葉を借りて命乞いをし、自分だけは助かろうとしている。

 己の欲望を優先して一切を無視してきた最期の声を、今この男が口にしている。


 不慣れな外国だからと、一度は過ちを赦してやる平和ボケした日本人ならつい見逃してしまいそうな顔だが。


 もう日本人はお前の罪を赦さない。




 ジャマンの首に添えられた大鎌はそのまま振り抜かれ、小市民を姑息に装って逃れようとした刺青顔は、首となって転がった。



「――――浄火結界パージ・ドーム


 蒼白く輝く浄化の炎が、首と胴に別れた男を包む。

 彼の肉体を包み込み、瞬く間に何もかもを焼き尽くす。


 音も煙も外には漏れない。無音結界サイレントバリアの中、男の命は一瞬にして浄化された。形も影も残さず、その場から存在が消し去られた。


 そして、白田の流した血の跡も、綺麗さっぱり焼き消された。


 静寂。


 蓮は拳を下ろし、重く息を吐いた。


「これで、片は付いた」




 白田は呆然としたまま、その一部始終を目に焼き付けていた。


 蓮が白田の前にしゃがみ込み、静かに語り掛ける。


「白田さん、大丈夫か?立てるか?」


 白田はゆっくりと頷いた。


「……まだ、足は震えてますけど……多分」


 蓮は手を差し出した。白田はその手を握ると、ゆっくりと身体を起こした。蓮の腕にすがるようにしながら、ようやく自分の足で立ち上がった。


 先程渡したシャツを胸に抱いたままとなっていた白田に気付くと、背を向ける。


「とりあえず、それ着てください」


「…!」


 力ずくで引きちぎられ胸がほぼ露になりかけていることに気付いた白田は、慌てて破れた服を脱ぎ、シャツを着た。


 しばしの沈黙。だが、次第に白田の顔に確信の色が灯り始める。


「さっきの魔法……。あなたが銀の仮面、なんですね?」


 蓮は背中を向けたまま、答えない。


 白田はその背中を黙って見続けた。

 蓮は振り返ると同時に、左手の平を、白田の頭に向けてかざした。

 上から頭を掴むような手は、ついたった今見た、何かの魔法を行使する前触れのような立ち姿。


「待って。――消さないで」


 蓮の左手を、白田は両手で握りしめた。


「何もなかったことにしないで。きっと、私の記憶を消して今の事忘れさせようとするんでしょう?そうでしょう?」


 蓮は白田に握られた手を握り返すでもなく、振りほどくでもなく、白田から目を逸らした。

 白田はその手を離さないように握り続ける。


「誰にも言わない。言わないから、消さないで。この気持ちは忘れたくないの」


 無響の結界の中で、すぐ傍で放たれた声が消える。

 白田はゆっくりと蓮の左手を下ろす。


「あなたのお陰で助かった。その恩人を売るなんて真似、絶対にしない」


 込み上げてくる涙に白田の瞼が瞬く。

 しかし、その目は蓮を真っ直ぐに射貫くように見つめたまま。


 心の底からの感謝と、万感の思いを込めて。


「……助けてくれて、ありがとうございます。命を、救ってくれて」


 その言葉に、蓮は目を上げた。白田に手を掴まれたまま、立ち続ける。


「覚えてる?銀の仮面の力になりたいって。あの言葉は嘘じゃないよ。ううん、今、その気持ちがもっと強くなった」


 恐る恐る触れていたはずの手が、ほんの少しだけ力強くなった。


「お願い。あなたの力になりたいの。あのデータ、役に立ったでしょう?これからもきっとあなたの力になれる。きっとあなたの理想を手助けできる。だから―――」


 蓮の手を白田の胸元に導いた。

 トクン、トクン、と胸を叩く拍動。


 その規則正しい動きは、蓮が触れてから三秒程して早く打ち始めた。

 白田は一度大きな深呼吸をすると、潤んだ瞳で、しかし確かな決意を込めた眼差しで蓮の目を逃さず見つめた。


「あなたの天誅、手伝わせて」




 真っ直ぐ見つめてくる白田の覚悟を見た蓮は問いかける。


「………こっちに来たらもう戻れませんよ」


「ええ、もう戻るつもりはありません」


「俺に関わったら………また、今みたいなことが起こるかもしれない」


「でもそうしたら、また助けてくれるでしょう?救急車よりも早く、完璧に」


 白田は赤らんだ顔で、わざと大袈裟に笑って見せた。



 手がきゅ、とさらに強く握られる。

 振りほどこうと思えば簡単に振りほどける手だが、白田の純粋な熱意と決意が真っ直ぐに伝わる。


 涙が滲むその目の奥に、揺らがない心が見える。

 これは嘘を言っていない人の目だ。


 僅かな曇りもない、固く清廉な意志がきりっとした眼差しとなっている。


 鑑定などしなくても分かる。


 この覚悟は間違いない。彼女は、本物だ。





 一度空を見上げて、蓮は深く吸い込んだ。

 区切りをつけるかのように短く強く息を吐くと、初めて、微かに微笑んだ。


「分かりました。ではこれからは、―――()()()()()でよろしくお願いします。白田さん」


 蓮は掴まれたままの左手に右手を添え、両手の握手に切り替えた。


「…………ほ、……ほんとう…に……?」


「――ええ」


 見る限り、白田の様子は手助けがあれば歩けるまでには回復していそうだ。

 そうなると、いつまでもここにはいられない。

 そう思った蓮は白田の手をゆっくりと引く。


「離れよう。長居はしないほうがいい」


 白田は頷いた。


 その呟きとともに、無音結界サイレントバリアの術式が解け、夜の音が徐々に戻ってくる。遠くから聞こえる自転車のベル、街灯に照らされた虫の羽音、そして夏の夜風。


 介添えするよう手を繋いで路地裏を去る二人の影。

 帰る場所を失った男と夢を失った女の新たな絆が、静かに結ばれようとしていた。

白田つかさの挿絵が完成しました。2025/7/31追記

挿絵(By みてみん)


次話は明日15時投稿予定です。

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