封印されし七つの力
前半:3758文字
後半:4039文字
軽く残虐表現あり。苦手な方は注意。
〇〇〇〇、△△△△、□□□、▽▽▽、◇◇◇◇、×××××、☆☆☆…。
「…分からない。」
「これは勇者にのみ扱えるとされる、七つの力なのですが…。」
「分からないというか、認識が…出来ない。どれがどれかは判別出来るけど、内容が全く読み取れない。」
「…恐らくは、呪いでしょうか。」
「呪い…。魔王の呪いか。」
私は勇者だ。三日前、女神からの神託によりその役割を授かった。これから、七つの力を取り込み、魔王討伐に向かう…はずだったのだが。
魔王は既に手を打っていたようだ。私が七つの力を使えないよう、呪いをかけたらしい。私はその力についての知識、記憶を失い、それらを認識する事すら出来なくなってしまったようだ。性質を理解出来なければ、この力を使う事は出来ない。
「魔王…甘い相手ではないようですね。」
隣にいるこの子は聖騎士で、名をアリスという。私と同時に神託を受け、勇者の仲間となった。私は攻撃型だが、アリスは防御を得意とする。七つの力を使えない今の私では、彼女の防御を突破する事は難しいと思う、それくらいの実力者だ。
ちなみに仲間はもう一人いる。魔術師の、ファルという少年だ。私達より4つ下の12歳の彼も、神託を受けたらしい。若いが、非常に優秀な魔術師で、回復から攻撃、支援まで全て一定の水準でこなせる。
こんな二人に対して、私といえば…。私はただのどこにでもいる魔剣士だ。人並み以上に鍛錬してはいたが、この二人を見るとそれも霞んでしまう。
勇者の力を使えない私なんて、価値があるのだろうか?まぁ、それは女神しか知らない事だ。
「とりあえず、ファルと合流しましょう。呪いだとしたら、私達より彼の方が詳しいはずです。」
私はアリスの言う通り、ファルと合流することにした。
「呪い、か。」
ファルは深く考え込んでいる様子だ。
そして、ふと呟く。
「魔王の方が一段上手だったみ☆☆☆。」
「…今、なんて言った?」
「え?魔王の方が一段上手だった、って…。」
「そこじゃない、その後だ。」
「あっ?」
アリスとファルは何かに気が付いた様だ。二人は目を見合わせる。
「もしかして、☆☆☆?」
「それです!☆☆☆です!」
「…?」
私だけ置いて行かれているようで少し寂しい。
「勇者様!呪いの対抗策、分かったかもしれません。」
「どういう事だ?」
「勇者様は、七つの力、その名を認識できないようにされているんです。しかしそれは、同じ言葉で別のものを現している場合でも認識阻害がかかるようになっています。先程はファルが七つの力の一つ「☆☆☆」を文章中にたまたま含めたので、その部分の認識が阻害されて聞き取れなかったのではないでしょうか!」
「なるほど?」
「ここからは勇者様が頑張るしかないのですが…。聞き取れなかった部分に入る文字列を考えてみて下さい。」
「正解の単語を口に出すと、多分、呪いが一部解消される。呪術は案外、緻密なものなんだ。外側からの解呪は難しいが、内側からの力には弱い。」
「私が正解を導き出せばいいのか。だが、流石にもう少しヒントが欲しいな…。」
「七つの力が~~~~を~~~に~~~~~~事…とか。」
「すまない、何も認識出来なかった。」
「…厳重な呪いだなぁ。知識を奪って、かつそれらにも認識阻害を掛けるか。本気で七つの力を使わせたくないんだろうなぁ。」
「ですが、私達は対抗策を生み出しました。そうつ△△△△は行きませんよ!」
…今のもヒントになりそうだ。
呪いが解けるのを待っていても埒が明かないので、私達は魔王城を目指すことにした。
歩きながら、私達は会話をしてみる。
私が呪いを解くには、より多く会話する事が一番の近道だ。あまり直接的な表現をすると、周囲の文字ごと認識阻害されてしまうことが分かったので、私達は慎重に会話する。
「アリスは、どうして聖騎士になったの?」
「私…ですか?そうですね…。き×××××は僧侶だったのですが、私は正直、回復魔法や支援魔法がそんなに得意ではなかったのです。かわりに、防御する戦い方はとても得意でした。なので、私は聖騎士になる道を選びました。」
「ふーん。」
「今でも僧侶になりたかったと思う事はありますが、後悔はしていないです。この職業でも、何人もの罪人を、反省◇◇◇◇生きる道に戻してあげられて居ますから。」
「アリスはとことん綺麗な人間なんだね。」
「そうでしょうか。ちなみに、ファルはどうして魔術師に?」
「僕かぁ。僕は元々魔法が得意じゃなかったんだけど、うちは代々魔法で食ってきた家系でね。家を捨てない限り、僕も魔術師になるしか道は無かったんだ。魔道具の力に頼るのもいい、とは言われたけど、僕は他人の▽▽▽しで相撲を取るようなことはしたくなくて。自力で勉強したんだ。」
「ファルは頑張り屋なんですね。」
「そうだよ。最終的に、魔法学校の入学試験を総〇〇〇〇点で合格して、卒業する時も成績はトップだったかな。」
「成績優秀だったんですね。」
「ふふっ、自慢じゃないけどね。二人に教えられるくらいの理解度はあるよ。ちょっとした攻撃魔法くらいは使い方を□□□くと便利だから、教えようか?」
…ん?
もしかして、今ので七つ全てのヒントが揃ったのか?
二人はこちらを見て微笑んでいる。なるほど、全て計画通りと言う事か。さっき私を置いて二人でどこかに行っていたが、これを用意していたらしい。呪いを解く手がかりをくれていたのだ。
「えーと、何の話だったっけ…。」
ファルがそう言った時、異変が起きた。
私達の足元に赤く光る巨大な魔法陣が構築されたのだ。
「っ!これは遠距離転移魔法!?」
ファルが言うなら間違いない。何者かが私達を転移させようとしている…?
「範囲外に逃げ…」
しかし、それは叶わなかった。私達が気づいてから約五秒ほどで、魔法陣は起動してしまった。
「アリス、ファル…!」
私は硬い地面に投げ出された。周囲を見る。
私と同様に転移してきたアリスとファルも居る。しかしここは…
「ここは…。魔王城…。」
「ククク…。貴方達の目的地まで転移させて差し上げたのですよ。感謝なさい。」
階段の上に、誰かが立っている。
「ヤバいな、ありゃ、魔王だ…。」
「…私が食い止めます、二人は逃げて下さい!」
「自分を犠牲にして勇者を逃がすつもりですか?しかし、どこへ逃げるというのですか?この包囲の中で。」
見ると、四方八方に大量の魔族が。この包囲を突破するのは不可能に近い。
「あのなぁ、もしそれで逃げられるとしても、アリスを置いて行くわけがないだろ。」
ファルは妖しげな笑みを浮かべる。
「僕の答えはこうだ。喰らえっ!」
突如、魔王の頭部が爆発する。ファルが魔法を撃ったのだろう。
…
「クハハ…勇者でもないくせに、ワタシにダメージを与えられるとでも?」
「くそっ、やっぱ無理か!」
「ですが今のは良い攻撃でしたねぇ…。封印してしまいたい所ですが、八個の枠をもう使い果たしてしまっているので、出来ませんねぇ…。」
封印。そうだ。私の封印されている勇者の力が使えれば…!
「勇者の七つの力、もとい~~~~~を封じられた貴方達に、勝ち目などありませんけどねぇ…。」
私が…考えろ!
「流石魔王だな…奴の邪悪な…あ◇◇◇◇ぼうが、渦巻いている…。」
「私達だけでも、てい☆☆☆めーじを与えられたらいいのですが…。」
「すう▽▽▽にか持ち堪えるだけでも、せめて…。」
…二人も手伝ってくれている。早く…!
「お遊びはここまでにしましょう。さぁ皆さん、やってしまいなさい。」
「…自ら手を下すまでもないってか。」
「その通りです。」
大量の魔族たちの猛攻は、さすがのアリスも防御しきれなかった。
すぐに私達の戦線は崩壊し、窮地に立たされた。
「危ない!」
ファルの背後から魔族が槍を一突き…
「え?」
その一撃を、アリスが身を挺して守ったのだった。
「…アリス!」
「ククク…まずは一人…。」
「くそっ…!僕のせいだ!」
ファルは正気を失いかけている。正直言うと、私ももう限界かもしれない。
「落ち着いてくれ、ファル…!」
「…そうだね…。僕は、アリスが繋いでくれたこの命で、出来る事をしないといけない。」
私はファルが言っている意味が一瞬理解出来なかったが、自分の周囲に結界が貼られた瞬間に、彼の意図に気付いた。
「待て…!待ってくれ…!」
「ごめんね、勇者様。これが僕の答えなんだ。」
そして彼は、杖を高らかに掲げ、
「さよなら!」
その瞬間、強い光が放たれ、私は思わず目を閉じてしまった。
響き渡る轟音、魔族の断末魔。
次に目を開けた時、私の前にあったのは、破壊された魔王城の瓦礫と、高らかに笑う魔王の姿だけだった。
「今のは面白かったですねぇ、ククク…魔力量があと3倍くらいあれば、ワタシにダメージを与える事も出来たかもしれませんねぇ…!」
アレを喰らって無傷か。信じられない。
やはり、勇者の力が無いと魔王には勝てないらしい。
「さて…残すところ、あと一人ですが…。」
こんな状況だが、私は何故か冷静でいられた。
「ククク…何か言い残す事がありますか?」
「無いな。せめて貴様にバシッと一撃入れて、一矢報いたいだろうか。」
「ハハハ…クハハ!諦めの悪いヤツは、嫌いですよ。」
魔王の姿が消えた。
私は瞬時に背中に剣を回す。読み通り、魔王は背後から奇襲してきていた。
「な…何故私の動きに対応出来るのです?」
※ここから種明かしパートに入ります。自力で呪いを解きたい方は一旦ストップ。
「まさか…あり得ない、ワタシの呪いを解いたというのですか!?」
魔王は狼狽える。
そうだ。私は既に呪いを解いた二つの力の能力を使った。そして、私は既に、他の五つの力の名称も当たりを付けている。
「何故…!呪いは完璧だったはず…!どうやって…。」
魔王は私がどうやって呪いを解いたのか、気付けていない様子だ。方法は、ファルが言っていた「名称を口に出す」という単純な方法なのだが…
『せめて貴様にバシッと一撃入れて、一矢報いたいだろうか。』
先程のこの一言で、私は七つの力のうち「嫉妬」「怠惰」を解放した。魔王に悟られぬよう、文章の合間に隠して。
…これが出来たのも、アリスとファルが多くのヒントをくれたからなのだが。
□□□…「嫉妬」の力。【強大な敵と戦う時、相手の実力が高い程、勇者自身の力が増す】力。
☆☆☆…「怠惰」の力。【周囲の全ての事象を、目で見ずとも観測し理解できる】力。
これで、魔王の不意打ちに対応したというわけだ。
私は他の五つの力も順次解放しようと試みる。
「貴様が背負うその業、満足行くまで滅させてもらう。」
〇〇〇〇…「傲慢」の力。【弱き者の命を掌握し、生殺与奪の権利を握る】力。
生憎、周囲に大量に居た魔族はファルの魔法で一掃されてしまっている。この能力は活かせないだろう。
「どんな悪人でも、反省し清く生きる道が残されていると思うか?」
「どういう意味です!?」
「そのままの意味だ。貴様も今から罪を償えば、赦されると思うか?」
「赦す?貴方達がそんな立場に居られると思ったら、大間違いですよ。貴方を殺して、全てを破壊して、この世界を作り変えるのです!」
「…そう都合よく行くと思うなよ。」
◇◇◇◇…「色欲」の力。【勇者自身が、他者の目から魅力的に映り、欲される】能力。
こんなものが無くても、アリスとファルは…。
△△△△…「強欲」の力。【その魂を生贄に、勇者自身が望んだ事象を強制的に引き起こす】能力。
これを今使って、私が死んだら、魔王は倒せない可能性が高い。少なくとも今使うべきではない。
魔王ももう待ってはくれないようだ。今度は正面から5発、背後から2発の魔法弾を撃ってきた。
私は前方の弾を剣で捌きつつ、飛んできた後方の弾を回避。「怠惰」の力を持った私には、大した脅威ではなかった。
「くそっ、呪いが…封印が…!何故だ、何故だぁぁ!」
魔王は明らかに焦っている。
「貴様に残された希望…贖罪し、真っ当に生きる道もあったのだがな。貴様はそれを選ばなかった。数分、どうするか考える時間はあったはずだが。」
×××××…「暴食」の力。【失った仲間の力を喰らい、成長する】力。
▽▽▽…「憤怒」の力。【怒りを力に変え、一時的に絶大な自己強化をする】力。
…。
解放した瞬間、溢れんばかりの力が湧いてきた。
これだけの力があれば、魔王なんて…。
私の中には、今、三つの怒りがあった。一つ目は、仲間達を殺した魔王に対する怒り。二つ目は、この状況に陥るまで呪いを解けなかった自分への怒り。最後に…仲間を失う前提のこの勇者の力への怒り。
これでは、まるで、あの二人は…。
まぁ少なくとも、いまやるべきことは一つだ。この行き場の無い怒りも含めて、全て魔王にぶつけること。
「何故…!どうやって呪いを解いた!?」
「教えると思うか?」
魔王は私が明らかに不自然な発言をしていた事にすら気付いていないらしい。
…焦りすぎだ。私に呪いをかけたのも、私達をすぐにここに呼び寄せたのも、勇者の力を使われたら勝機が無いと考えての事だったのだろう。
私はおもむろに剣を振るう。
「は…?」
魔王の身体は斜めに真っ二つに割れた。崩れ落ちる魔王の身体。
…魔王というものについて、私はもう少し威厳のあるものを想像していた。力で全てをねじ伏せる、まさに魔の王、というその強さ。私は少し憧れをも持っていた。
しかし、こいつはどうか。自分が強くなる事よりも、勇者を弱体化させる事を優先し、圧倒的な「数の暴力」で私達を葬ろうとした…。威厳のかけらもなく、ただ狡猾で卑怯な魔王。失望した。
「先程の言葉、そのまま返そう。何か言い残す事はあるか?」
「…ククク。」
…?何が可笑しいのだろうか。死を目前にしているというのに。
「ワタシは死ぬ…。しかし、貴方も道連れですよ!」
「道連れ…か。既に全てを失った私がそんなものを怖がるとでも?」
「貴方は気付いていないようですねぇ…!ワタシが施した八つ目の呪いに…!」
…いや、もしかしたら、とは思っていた。違和感はあった。魔王の発言からも、八つ目の呪いがある事も察する事が出来た。
「ワタシの八つ目の呪い、それは…」
「それは、「私」なのだろう?今となっては何も分からないが、な。」
「…ククク、気付いていたのですか…。そうですよ!私は「勇者となった人物」に、最も強力な呪いをかけたのです。つまり今の貴方は…「勇者」でしかない。」
「だから皆も私を「勇者」としか呼ばなかったし、私もそれを止める事をしなかった、と。」
「…何故そんなに落ち着いて居られるのですか…!?貴方は今後、「勇者」としてしか認識されない…。貴方の本質は誰にも知りえない…。呪いをかけたワタシでさえも…!ワタシが、魔王が倒されれば、「勇者」の存在意義も無くなる…。「勇者」の事はいずれ忘れ去られ、貴方の事を理解できる者は誰も存在しなくなる。その孤独に、貴方は耐えられるとでも?」
「だからと言って、今から何か変えられるわけでもないだろう?」
「わ、ワタシが死んでも呪いは解けないのですよ!?ガァっ!?」
私は剣を魔王の口の中に突き刺した。
「もういいよ。何も聴きたくない、貴様の話などは。」
そのまま剣に魔力を流し込み、暴発させる。
「~~~~~!!」
…魔王、撃破。
さて…。
周囲は瓦礫の山、生き残ったのは私一人だけ。
これからやる事はもう決めている。
「強欲」の力。【その魂を生贄に、勇者自身が望んだ事象を強制的に引き起こす】能力。
どうせ忘れられる私より、あの二人が生きた方がよっぽど有意義だ。そのはず。
未練はある気がするが、どうせ私にも思い出せない。躊躇はしない。
「強欲の力…。私の欲望に応えよ。」
…?
能力は発動した…はず。
ファルとアリスは?どうなった?
私は何故生きている?
『質問にお答えしましょう。「強欲」の能力はしっかりと、発動しましたよ。』
「誰だ…?」
いや、この声は…神託の時と同じ。女神様か?
『ご明察。そして、能力が発動したので、お二人は生き返りましたよ。ただし、肉体は先の爆発によって吹き飛んでしまっているので、精神体としてですが。勇者の力とて、流石に完全に消滅したものを復元するのは不可能です…。』
…では、あの二人はもう普通の人生には戻れないのか。まぁ、家族や友達と再び会えるだけでも、力を使った価値はあるだろう。
『そして、貴方が何故生きているか、ですが…。「貴方」は既に死んでいますよ。ただし、「封印の魔王」の呪いによって、封印された■■■が、ですが。おっと、言っても伝わりませんね。…こうなったのは、七つの力を創造した張本人の私ですら想定外ですけど。』
…つまり?「私」は死んだが、呪いによって切り離された「勇者」が生きているから、私はここに存在している?
『そういう事ですね。ただ、この状態は長くは持ちませんよ。貴方は魔王を倒した、勇者としての役目はもう終わりです。貴方が勇者で無くなったら、器が無くなった「貴方」の魂は蒸発する。』
「まぁ、元々消える予定だったんだ、問題は無い…か。」
『延命する方法もありますよ。新しい称号を手に入れる事です。「勇者」のような、称号を器にすれば、貴方の魂はまだこの世界に居続けられます。私は貴方の未練、知ってますよ。』
…何だ?私の未練って?
『貴方、「魔王」に憧れていたんでしょう?』
まぁ、確かに、憧れていたといえばそうなの、かもしれない…。
『じゃあ、』
「待て、言わずとも分かる。私が魔王になれ、と?」
『そうです!話が早いですね!』
そんなこんなあって…私は「勇者」から「魔王」にジョブチェンジする事となってしまった。
「魔王」は「勇者」と同じく、世界に一人だけ。
しかも、私は別に「勇者」の称号を失ったわけではない。
女神の狙いは、「勇者」と「魔王」のどちらをも出現させなくし、争いを起こさせなくする事だった。ファルの魔法で現存する魔族が全滅したため、丁度良かったのだとか。
魔王にはなったが、私の仕事は新たに生まれた魔族を殲滅する事。そして、無謀にも魔王に挑んでくる人間達を圧倒的な力でねじ伏せ、送還する事。
まぁ、私が憧れた、思い描いた魔王の姿とは少し違うが、これはこれで楽しい。
私は「虚無の魔王」として君臨し、同時に勇者でもある…これはごく一部の者しか知らない。だが…
その日私の元を訪れたのは、たった三日間とはいえ、ともに過ごした仲間達だった。
「やっと見つけたぞ…勇者様、いや、魔王と呼んだ方がいいか?」
「フフ、私達の推測はやはり正しかったようですね!」
懐かしい、あの頃の姿のままだ。恐らく、肉体を失っているからだろう。
「どうして…私の事を覚えている?」
「え?僕らを舐めて貰っちゃ困るよ。」
「私達は、貴方の事を忘れた時など一度もありませんよ。だって…仲間ですから。呪いがどうとか、そんなの関係ありません!」
「ただ、勇者様と「虚無の魔王」が同一存在だと気づくのに、百年かかっちゃったけどな!」
そうか…あれからもう百年か。
「ハハ、勇者様も変わってないな。僕達もだけどな。」
「女神様は私の事、二人には教えなかったのか…。」
「教えてくれませんでしたね…。女神様とは何度か話しましたが、私達が質問してもだんまりでした…。」
「「強欲」の力を使って生き残った私と言うイレギュラーを隠したかったのか…?」
あの時はこんな他愛のない話をする余裕もなかった。だが今は違う。私達には恐らく無限の時間が用意されている。この永い時を独りで過ごす事にならなかったのは幸運だと、私は思った。
Fin
呪いによって認識出来なかった会話内容一覧
「魔王の方が一段上手だったみたいだ。」
「ですが、私達は対抗策を生み出しました。そう都合よくは行きませんよ!」
「私…ですか?そうですね…。希望職は僧侶だったのですが、私は正直、回復魔法や支援魔法がそんなに得意ではなかったのです。」
「この職業でも、何人もの罪人を、反省し清く生きる道に戻してあげられて居ますから。」
「僕は他人の褌で相撲を取るようなことはしたくなくて。自力で勉強したんだ。」
「最終的に、魔法学校の入学試験を総合満点で合格して、卒業する時も成績はトップだったかな。」
「ちょっとした攻撃魔法くらいは使い方を知っとくと便利だから、教えようか?」
「流石魔王だな…奴の邪悪な…悪しき欲望が、渦巻いている…。」
「私達だけでも、手痛いダメージを与えられたらいいのですが…。」
「数分どうにか持ち堪えるだけでも、せめて…。」
キャラ設定
■■■(勇者、虚無の魔王)
女神の神託によって選ばれた勇者。性別は■で、種族は■■な■■ではなく■■■■■■。■■歳。
魔王の呪いによって存在を認識出来なくされた上、「強欲」の力で存在が消滅した。
職業は魔剣士。魔王になってからもずっと同じ剣を使っている。
アリス
勇者の仲間として選ばれた人物。性別は女、種族は人間。十六歳。
攻撃は苦手だが、防御力はとても高い。しかし、魔族の攻撃から咄嗟にファルを庇った結果、防御を貫通されてしまった。
職業は聖騎士。元々は僧侶になりたかったらしい。
ファル
勇者の仲間として選ばれた人物。性別は男、種族は人間。十二歳。
多彩な魔法で攻撃、回復、支援までなんのその。若き天才。何故自爆魔法を使えたのかは不明。
職業は魔術師。魔法学校を飛び級かつ主席で卒業している。
魔王(封印の魔王)
勇者一行を始末し、世界を支配しようと目論む魔王。性別は無、種族は魔族。生まれて間もない。
強力な呪い一つと、通常の呪い七つを操り、勇者のメタを張る。呪いで勇者が弱体化している間に始末しようと、魔王城に無理やり転移させたが、すんでの所で呪いを無効化され敗北した。
どんな手を使ってでも勝つ。準備は怠らない性格。
女神
世界を裏から安寧に導く神。性別は女、種族は神、年齢=世界の始まりからの年数。
基本は神託の時にしか声を聞くことは出来ない。
何度始末しても勝手に湧いてくる魔王にうんざりし、ついには勇者に魔王を兼任させるという暴挙に出た。
神託を受ける事はあるが、その姿を見た者は誰も居ない。ひょっとしたら、八本足のバケモノだったりするのかも?
後書き
ギミックと設定を考えるのに三日、文章を書くのに一か月かかりました。
後書き合わせて10000文字程度書くのに、一か月…。いくらなんでも遅すぎる。
執筆経緯は、言葉遊びの穴埋めクイズを多数作ってたんです。
例えばこんな問題。
「おれの〇〇〇〇は、それくら〇〇〇〇っくにできるぞ。」〇〇〇〇に共通して入る平仮名四文字は何?
(答えは一番下に)
で、これ、完成する文章の内容で、結構シチュエーションが妄想出来るんですよね。上の問題も、家族思いの男の子が目に浮かぶようです。
じゃあいっそのこと、小説にしてしまおうか?と。
小節にするにあたって、新しく問題を考えようとしたのですが、一貫したシチュエーションでいくつも問題を作るのが意外に難しく。
で、逆に答えの方をセットの物にしちゃえばいいんじゃない?と考え、七つの大罪を選びました。
n個セットの物で、文字数が3~5文字でまとまりつつ、文章の中に混ぜ込みやすく、なおかつかっこいい(中二病的な)響きのものって、やはり七つの大罪ですよね。
他の候補として、火水木金土(日月)や、虹の七色、将棋の駒の略称などもありましたが、文字数が短すぎますね。十二支や十二星座は…多すぎるかな。
そんなこんなで、ギミック自体はすぐに完成したのですが、文章の方は無理やり書き始めたので、全然筆が進まず。魔王城にワープしたあたりで一週間くらいは止まってたり、ゆっくりゆっくり書き進めてやっと完成。
言葉遊び的なギミックを多用していて、「おもむろに剣を振るう」の部分は、正しい意味と誤用のどちらでとっても意味が通じるようにしたり。その両者で結構イメージが変わるのもおもしろいなと思い。最後まで楽しく書けました。やったね。
本当は後半もうちょっと書きたかったんですけど、長引かせるとギミックの意味が薄れると思ったので切り上げて終了しました。
…これ誰かとネタ被ってたりしませんよね?こんな奇抜な事する人他に居ないと思いますけど。
まぁ、とりあえず、あまりいないとは思うけど、ここまでどうでもいい話含めて読んでくれた方には、最大限の感謝を。
ありがとうございました。
クイズの答え:いもうと