記録97 ハータ派の人士たちについて
バルバナーシュ・フォーゲルザウゲが、公開状の形式で、自由カオラクサに要求を突きつけてきた。
『貴市の市庁舎に匿われているハータ・フォーゲルザウゲの身柄を引渡されたし』
バルバナーシュは、秘匿されていたハータ嬢の居場所をついに突き止めたようだ。こちらとしては十分に情報の秘匿には気を付けていたつもりだったが、人の口には戸が立てられないということなのだろう。
バルバナーシュからすれば、彼の妹であるハータ嬢の存在は、伯爵位継承の正統性主張における難点に違いなかった。ハータ嬢の身柄が敵対勢力の手の内にあるということは、バルバナーシュにとっては看過できない事態なのであろう。
とはいえ、こちらとしては、みすみすとハータ嬢を引渡すわけにもいかない。相手方にとってハータ嬢の存在が厄介なものであるのなら、それをこちらの手元に置いておくことは、戦略の上では有意となろう。
さて。
フォーゲルザウゲ伯爵家領邦を支配するバルバナーシュ自身が、ハータ・フォーゲルザウゲの自由カオラクサへの逃走を公に認めたものだから、ここ数日の間に、いわゆるハータ派の人士たちが密かに、自由カオラクサにやってきた。現状において、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦の領民である彼らがハータ嬢に接触するというのは、随分と危険な行為にも思えるが、彼らをそうさせるだけの力が、ハータ嬢にはあるということなのだろう。
そんな者たちをハータ嬢に引き合わせてみれば、彼らは忠臣の如くハータ嬢に跪き、そしてフォーゲルザウゲ伯爵家領邦におけるハータ派の窮状を涙ながらに訴えるのだった。するとハータ嬢は重々しく頷いて見せ、彼らの労をねぎらうのだった。
(これが君臣の義というものなのだろうか、とはたからその様子を見て、わたしは思った。自由都市で育ったわたしには、なかなか理解しえない心境だ)




