記録82 貴族派の動向について
今日、ハータ・フォーゲルザウゲ嬢が自由カオラクサにやってきた。表向きには、黒い石碑の所有権に関しての継続争議、しかし実際には、わたしと彼女との情報交換──。
少なくとも、前回の会談で、彼女は貴族派の軍事行動についての情報をこちらに寄こしている。何も彼女を全面的に信用するわけではないが、貴族派の動向を知るための情報筋の一つとして利用できるという認識を、わたしはもっている。
さて。
前回と同様、今回も場所は自由カオラクサ修道院の聖堂である。広い聖堂の中央の席に、わたしとハータ嬢は二人で座る。互いのお付きの者や、修道院の修道女たちはそこから離れた出入り口の前に控えていて、こちらの様子を遠くから見守っている。
ハータ嬢は、顔を近づけ、ささやくようにいった。
「今回の用件は、ほかでもありません。貴族派諸侯の自由カオラクサ包囲についてです。詳細は省きますが、貴族派諸侯の中で、その機運が高まっているとだけは伝えておきます」
彼女の言葉を聞いて、わたしがまず最初に思ったのは『ついにこの時が来たか』だった。しかし、すぐにこうも思った。『──彼女が言っていることは本当だろうか?』
こちらの訝しみに気づいたのか、ハータ嬢はじっとこちらの目を見た。
「半信半疑、といった感じですね」
「……お気を悪くされないでいただきたい。そうですね、率直に言えば、確かに半信半疑です。もとより、いずれは貴族派による攻囲が始まるとは考えていますよ。しかし、それが近々に開始されるというのに、蓋然性を感じられないのです」
「内部の問題だったのです、自由都市執政殿。貴族派と一口に言っても、諸侯はそれぞれの思惑で動いています。その貴族派内部の利害調整が完了しつつあるということです」
「それをこちらに伝えて、どうしろというのですか」
「どうにかしていただきたい。このままでは、フォーゲルザウゲ伯爵家は、自由カオラクサ攻囲に駆り出されてしまうのです。貴族派の侵攻意思をくじくような何かをしていただきたい」
「……」
どうにかするとか、何かをするとか。要は丸投げじゃないか! ──と、声を上げたくなるのを、わたしはぐっとこらえた。
「……とりあえず、この話は一旦持ち帰らせてください。検討してみます」




