記録8 黒い石碑について
困ったことになった。自由カオラクサ要塞化計画の日程は変更せざるを得ないだろう。
工事の最中、地面から掘り出されたのは、人の身丈を優に超える大きさの黒い石碑だった。その表面彫られた古代文字が時折青白く光り──つまり、何らかの魔術装置であることは明白だった。
魔術装置! 要は魔術師王の時代のものだ。気が遠くなるほどの長いあいだ、石碑は誰からも忘れ去られ、地中に眠っていたのだ。……何も、まさにいまこの時に現れなくったっていいものを!
一体どのような魔術が込められているかもわからない以上、それが発掘されてしまった工区での作業については、中断を指示するほかなかった。(もっとも、わたしの指示が行き届くまでもなく、魔術装置に恐れをなした人夫たちは持ち場を離れて逃げ出していたが。まったく、信心深い人びとである)
自由カオラクサを縄張りとする呪い師たちを呼び出し、石碑の調査を命じた。とはいえ、彼らはあくまで呪い師にすぎず、古代の魔術──つまり、戦争兵器としての魔術の専門家ではない。黒い石碑にはなんらかの魔術が封じられており現在も動作を続けている、ということしかわからなかった。詳しくは、専門の学者に見てもらう必要があるという。
手詰まりだった。これ以上下手にいじくって、なんらかの魔術を暴発させるわけにもいかなかった。伝説においては、魔術師王の軍勢は都市一つを焼き尽くす恐ろしい魔術を使ったと言われている。
とりあえずその石碑に彫られている古代文字を書き写し、ある程度埋め戻したうえで見張りを立てておいた。──埋め戻すことに意味があるかどうかは全く不明であるが、原状復帰というやつである。(露出したままだと、市民の不安を煽ってしまうという点もある)
この地の古い伝承を調査するように命じ、また同時に帝都の共和政府へと急使をやり──それ以上できることはなにもなかった。