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記録74 つまらない醜聞について


 歌劇は終わり、日常が戻ってくる。

 今日、自由カオラクサ市民たちからの盛大な見送りの中、惜しまれつつも、本山歌劇団は自由カオラクサを発った。


 その出立の直前、本山歌劇団の座長が面会を求めてきた。アデーラと歌姫ドロレスの悶着に関してのことである。

 正直、わたしは身構えていた。アデーラと歌姫ドロレスの間に、男女関係のもつれ──いや、女女関係のもつれがあったことが原因だとすれば、アデーラは糾弾を免れないだろうと思った。これまでアデーラが、砦の修道会本山の関係者と距離を置こうとしていたあの態度からするに、それが体面の悪い問題に違いないのだから。

 今回は、アデーラも同席していた。彼女はなにか不機嫌そうな顔で、じっと押し黙り、座長の来訪を待ち構えていた。

「アデーラ、きみの個人的なことをいろいろと聞くのは、本意ではないんだが……結局、きみは本山でなにをしでかしたんだ?」

「自由都市執政殿の業務に関係のないことは、お答えしかねます」

 と、アデーラはにべもなく言った。

 さて。

 執務室に通された座長は、こちらへの挨拶をしながらも、横目で、アデーラに向かって責めるような視線を送っていた。そしてアデーラは、不服そうにその視線をはねのけていた。

「──つきましては、執政殿」と座長殿。「先日の、ドロレスの件につきましては、内密にしていただけませんでしょうか。今回は、改めてそのお願いに参った次第です」

 糾弾ではなかったのか、とわたしは内心、ほっと胸をなでおろした。けれど表面上はそれを見せずに、恩着せがましく返す。

「ええ、問題ありません。あのときあの場に居合わせた者たちにも、口止めをしていますよ」

 座長は、ひとつ安心したように息を吐いた。

 歌姫ドロレスはこれから間違いなく超一流の歌姫となる──と座長はいった。これから数々の栄誉を賜るに際して、つまらない醜聞は避けておきたい、とのことだった。

 さて。

 座長殿が退出した後、わたしはアデーラの方を改めて見た。彼女は相変わらず、不服そうな顔をしていた。それは、過去の本山での出来事に対しての不服なのだろうか。それとも、過去を無かったことにしようとする座長に対しての不服だったのだろうか。わたしには、計り知れないところである。

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