記録73 今日の公演について
豪華絢爛! 素晴らしい公演だった。筆舌に尽くしがたい美しさ……。そこで見せられた演技、そこで聞かされた歌声が、頭の中に反響し、形の無い衝動として渦巻いている。わたしだけでなく、客席にいた自由カオラクサ市民の誰もが、それぞれの頭の中という舞台に、それぞれの激しい感動を抱えているに違いなかった。
全く、素晴らしい体験だったというほかがない。いまこの日記を書いていて、途方もない気分である。
公演が始まる前、主催者である補選の立候補者が舞台に現れたときは、客席に冷ややかな空気が流れた。その男はあいさつに託けて名を売ろうと必死だったが、観客たちは一種白けた雰囲気でそれを見ていた──しかし、いまになって考えてみれば、むしろこの主催者挨拶が歌劇の前にあったことは幸いというほかがない。もしもこの挨拶が歌劇の後にあったのならば、人びとの感動に水を差していたであろうから。つまり冒涜は比較的軽く済んだのである。
さて。
ひとたび歌劇の幕が開けば、わたしはすぐにも物語のとりこになった。演目は『戦勝の日』。魔術師王朝の征服から始まり、六人の聖女の受難と反撃、そして反乱軍の勝利──つまり、この大陸における史実に基づいた演題である。この大陸に住む者ならば誰もが知っているはずの話であり、当然このわたしもその筋書きを知ってはいたのだが、観劇者としてのわたしはすっかりその舞台の中の世界にのめり込んでしまっていた。魔術師王による破壊には身を震わせ、六人の聖女の逃走劇には息を呑み、そして最後の場面、魔術師王への処罰においては、わたしは心は勝利の喜びと宗教的な感激に貫かれていた。
演者たちはみな素晴らしかったが、中でも主役である聖女のひとりを演じたあのドロレスには、強烈な存在感があった。
先日の政庁でのひと悶着では、容姿は優れているがどこかわがままな少女といった雰囲気も併せ持っていた歌姫ドロレスであるが、舞台の上ではそれが一変した。舞台の上の彼女は、まさしく崇高にして神秘的な聖女であった。無論、言うまでもなく歌唱もまた最上のものだった。
今日の公演については、到底語りつくすことなどできないだろう。その強大な芸術性を前にして、わたしのような無教養人は、全容を把握することもできずに、ただ断片を書き記すのみである。




