表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/117

記録68 本山歌劇団の招聘について


 参事会補選の候補者のひとりが、本山歌劇団の招聘を取り付けたようだ。本山歌劇団といえば、この大陸で最も名高い歌劇団の一つである。砦の修道会の下部組織であるこの劇団は、六人の聖女の御業を題材とした宗教劇でよく知られている。(実際、その手の分野に疎いこのわたしでさえも知っているということは、かなり有名であるということだ)

 この本山歌劇団の公演を実現するのに、一体どれだけの寄進やら賄賂やらが必要だったのだろうか? おそらくは相当の額が費やされたに違いない。公演が成功裏に終われば、その主催者は、大きな名声を得ることになるだろう……それこそ、参事会補選においては多くの票を集めるであろうことは確実に思える。

 

 今日、その公演の主催者となる立候補者が市庁舎にやってきた。この自由カオラクサにおける催し物の開催については、最終的には自由都市執政の認可が必要になるからだ。もっとも、この認可というのは、通例、よほどのことがない限りは流れ作業で決裁されるものである。補選のくだらないいざこざに巻き込まれたくないわたしは、それを淡々と処理した。

 本山歌劇団の公演開催の認可を受けたその候補者は、ひとまずはほっとしたようで、しかしなにか気がかりなことが残っているようなそぶりを見せた。

「ときに、執政殿。この公演における警護は、万全となるでしょうか」

「催事警備の慣例に従って、こちらからは衛兵を遣ることになると思いますが。……なにか、気がかりなことでも?」

「それがですね、執政殿。わたしが懸念しているのは」その立候補者は、脂っこいその顔を近づけてきて、ささやくように続けた。「つまり、この公演を妬んで、妨害しようとしている輩がいるんじゃないかと、そう疑っているわけです」

「それは……非紳士的な話ですね」

「そう、非紳士的! まさしくそれです。執政殿もご賢察のことでしょうが、いるでしょう、それをやりかねない男が。あの、組合(ギルド)の男ですよ。あの手の奴が、作法を弁えているとは思えません。いったいどんな卑怯なことを仕掛けてくるか、わかったものじゃない。そりゃあねえ、他の立候補者にはこのような疑いを持ったりはしませんよ。しかし、あいつだけは、あの凶暴な顔つきの男だけは別です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ