記録67 民主的体制について
以前から帝都の共和政府は、自由カオラクサ参事会の補選に興味を示している。
まあ、実際のところ、この自由カオラクサはフォーゲルザウゲ伯爵家領邦からの独立以来、市民による自治を実践していると言えなくもない。それはある意味で、王侯貴族による支配の廃絶を最終目標として掲げている共和政府の革命理論にも先んじた、進歩的で開明的な、民主的体制なのだ……と、言えなくもない。
自由カオラクサと帝都間の定時連絡において、共和政府は早い段階から今回の補選についての情報共有を求めてきていた。自由カオラクサの執政としては、同盟相手である共和政府にそれを秘匿する必要を特段感じてもいなかったので、求められるがままに情報を共有させていた。補選の公示から被選挙権の条件、選挙権の条件、入れ札のやり方、運営方針、そして明文化されていない慣例、等々……。
さて。
近頃、何やら不穏な噂が流れているらしい。いわく、今回の補選について、共和政府が密かに介入し、彼らの望む候補者を自由カオラクサ参事会に送り込もうとしているという。
もしもこの噂が本当であれば、ひとり、思い浮かぶ男がいる。おそらく市民たちも同様にその男を思い浮かべているのだろう。
あの、組合の男だ。
思い返せば、供託金の出どころを問いただしたときに、彼はやや言いよどんでいた。もしかして、あれは後ろめたさの表出であり──つまり、共和政府と何らかの取引をして、供託金を肩代わりさせたのではなかろうか?
……まあ、もっとも。仮にこの仮説が真実だとしても、それが即座に何らかの影響を与えるものではないが。実際のところ、現職の参事会の老人たちによる支配は、良くも悪くも強固である。外部勢力の息がかかった者がひとりやふたり、参事会に送り込まれようとも、総体として、自由カオラクサ市政に影響を及ぼすことはないのである。
とはいえ、件の噂が、わたしにとって気まずいものであるのは確かである。(なにせ、名目上は立候補者の最終承認者はこのわたしということになっている……ああ、やだやだ! 責任なんてものを寄こさないでくれ!)共和政府に対してそれとない牽制をして、同時にあの組合の男の身辺を調査しないといけないだろう。




