記録64 参事会の補選について
自由カオラクサ参事会の補選が、行われる見込みである。──もっとも、自由都市の参事会というのは、結局は力を持った大商人の派閥による寡頭支配が本質であり、今回の補選でどの候補が当選したところで、実際の政治に影響があるわけではないのだが。(そもそも、納税額やら推薦やらが被選挙権の条件として必要である以上、元来の参事会の老人たちにとって都合のいい人物しか立候補しえないのだ)
とはいえ、それでもこの自由カオラクサにおいて、あさましくも権力の階を一段でも多く登ろうとしている新興の商人にとっては、たとえ有名無実に近かろうとも、参事会に選出されることは念願に違いなかった。彼らは多額の納税をし、参事会の老人たちにひたすら媚びを売り、そして市民たちに名を売ることで、補選において参事の座を射止めようとするのである。
特に、一度立候補が認められれば、あとは自由カオラクサの一般市民たちの投票によってその当落の運命が決まるわけであるから、この市民たちに対しての売名行為が過熱していくのも、ある種必然的であった。
物品による直接的な買収が(表向きには)無作法とされている中で、よく好んで使われる手法が、催し物である。旅芸人の一座等を招いて自由カオラクサで公演を行わせて、それを見物に来る自由カオラクサ市民たちに、主催者として立候補者の名前を売るわけだ。
こうなると当然、市民たちは彼らが持つ投票権を振りかざし、投票してほしかったらもっともっと自分たちを楽しませてくれと、立候補者たちに要求していくことになる。
そういうわけで、この自由カオラクサにおいて参事会の補選というのは、どこか浮ついたような、躁的で、享楽的な雰囲気を連想させるものなのだ。




