記録63 マナ鉱石について
今日、皇領ルガンエの魔術装置による通信が、早くもこの自由カオラクサにも届いた。彼の地での蜂起だの、情報漏洩だので騒ぎになっていたのがついこの間のことだというのに、共和政府は、実に手際がいいものである。
とはいえ、いくら魔術装置の運用ができたといっても、結局のところ、皇領ルガンエはめぼしい資源を掘りつくした寂れた鉱山の街にすぎず、そことの通信を実際に使う意味はあまりないだろう……と、こちらは当初考えていた。
しかし、共和政府は随分と目ざとかった。まだ埋蔵されていながらも、これまで見向きもされていなかった資源──それどころかむしろ忌み嫌われていた資源について、今になってその価値を見いだしたのだ。
マナ鉱石である。
マナを含有するその鉱石は、人体に害があるとされている。含有量にもよるが、皮膚にやけどを負わせたり、潰瘍を生じさせたりする厄介な物質だ。特に、催奇性の問題があり、妊婦に近づけることは禁忌とされている。この鉱石の用途としては、呪い師がけちな錬金術に使ったりするのがせいぜいで、非魔術師にとっては単に有害で迷惑な物質でしかなかったのだ。
しかし、この国では革命が起こったのである。オルゴニア皇帝はいなくなり、代わりに現れた共和政府は、なんと恐れ知らずにも、国策として魔術の研究を進めようとしているわけだ。大量のマナの鉱石を、蒸留するだか分離するだかして抽出される純粋なマナは、まさにその研究にはうってつけであろう。
そういうわけで、共和政府は再占領した皇領ルガンエから膨大な量のマナ鉱石を買い付けているそうだ。降って湧いたその資源取引に、それまで共和派を嫌っていた領民たちも、さすがに大喜びだそうだ。(そしてこの自由カオラクサの商人たちも、そのにわかに景気が良くなりそうな皇領ルガンエに対して、いろいろなものを売りつけたやろうと目論んでいるようだ)




