記録62 隠蔽について
皇領ルガンエを再占領した共和政府軍は、反発を恐れてか、蜂起に参加した領民たちを赦免したという。一方で、皇領ルガンエに入り込んで蜂起を扇動したと思わしき貴族派の人間は捕らえられ、それらは貴族派諸侯による無作法の動かぬ証拠とされた。目下のところ、貴族派諸侯はその関与を否定しているが、分は悪そうである。
今回の皇領ルガンエの騒動について、ふと思いついたことがある。それは、後述するふたつの疑いである。
まず、皇領ルガンエの領民たちが蜂起してすぐに、皇領ルガンエには魔術装置が埋まっているという噂が流れたわけだが──もしかして、この噂は共和政府が意図的にその情報を流したものなのではなかろうか。(これが、ひとつめの疑いである)
つまり、貴族派がその情報を察知すれば、すぐさま魔術装置の発掘に取り掛かることになると読んでいたのだ。特に、街が共和政府軍に包囲されているとあれば、その作業は急いで行われることになると予想できたはずである。
そして、この情報操作により相手方の拙速な発掘作業を誘導した共和政府は、それが契機と見せかけた魔術的災害を意図的に引き起こしたのではないか。(これが、ふたつめの疑いである)
あの時、皇領ルガンエにおいて、共和政府が魔術的災害と称している現象が発生したのは確からしいが、しかし偶発的な事故にしては、やはり共和政府にとって都合が良すぎる。実態としては、単なる事故というよりも、共和政府が抱えている特務魔術師が、密かに何らかの手段でその現象を誘導し、操作していたのではないか。
……もっとも、ここまで書いてきたことに、格たる証拠はない。全ては単なる直観である。
いずれにしても、共和政府は、何かを隠蔽しているに違いない。そしてそれは、敵方である貴族派諸侯に対してのみならず、同盟関係にあるはずのこの自由カオラクサに対しても、隠蔽が行われているのだ。




