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記録6 境界について


 地面に堀を掘っておくと、侵入者はなかなかそれを越えられずに、困る──。なんとも原始的な話にきこえるが、現代の話である。(あるいは、本質的には、現代人というのも結局は原始人となんら変わらないもの、ということなのかもしれない)

 自由カオラクサ要塞化計画の短期的改修として、環濠掘りがようやく始まった。まさか作業開始までにこれほど時間がかかるとは。

 しかし、目に見えて地面の形が変わっていくというのは、案外と見ていて面白いものだ。現場の物見をする者は少なくはなかった。自由カオラクサの市民や出入りの商人のみならず、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦の農民でさえも物珍しそうに見物にやってきていた。(アデーラにせっつかれなければ、わたしももう少し眺めていただろうに)

 当然、大規模な工事であるので隠すこともできない。早速、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦の国衆が物言いをつけに来た。馬に乗る粗暴で強面な連中が現れて、大声をがなり立てるものだから、市街は一時騒然となった。国衆の連中が言うには、自由カオラクサの城壁の外で行われている工事は、領邦に対する領域侵犯であるというのだ。

 無論、こちらに手抜かりはない。あらかじめ過去の裁判記録を調査しておき、数百年も前に定められた自由都市と領邦の厳密な境界に関する文書を掘り起こしていた。今となっては誰からも忘れ去られているが、自由都市と領邦の境界は、現存の城壁よりも外に設定されているのだ。かつては城壁の外にも自由カオラクサの領域は広がっていたわけだ。

 息巻いていた国衆たちも、当時のフォーゲルザウゲ伯爵様の署名入りの裁判記録を突きつけられてしまえば、反論はできないようだった。彼らは汚い捨て台詞を吐きながら退散するほかなかった。

 しかし、工事に対する妨害はこれで最後になるとは思えない。ある程度の対策は立てているが……


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