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記録53 慣例と儀礼について


 慣例と儀礼というものが、ある。(ない方がよかったんだが)

 数百年も前、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦からの自由カオラクサの独立は、少なくとも形式上は平和裏に行われたものである。その独立の条件のひとつとして、フォーゲルザウゲ伯爵家と自由カオラクサは友好条約を締結しており、これにより自由カオラクサはフォーゲルザウゲ伯爵家の人間の来訪を拒むことができないのだ。

 一種の儀礼的な条約であり、どこまで実効性があるかは不明だが、少なくともこれまでの歴史上、政治的緊張が高まっていた時期においても、これは慣例的に順守されていた。慣例的であるということは、これを破ろうとすると、理由やら責任やら、そういう面倒くさいものが発生してしまう。

 どっちにしても面倒くさい問題であるが、慣例だからという言い訳によって責任逃れできる方を選択するのは自然の流れであり、この自由カオラクサはハータ・フォーゲルザウゲ伯爵令嬢の来訪を断れず、迎え入れることになるわけだ。

 幸いなことに、ハータ嬢は自由カオラクサでは修道院に宿泊するというが、それでもやらなくてはいけないことは山積みである。滞在中の彼女に万が一でも怪我をさせるわけにはいかないので、警護体制を構築しないといけない。それに、ハータ嬢との会合がある以上、わたしも予定を無理にでも空けなくてはならない。わたしが抱えている定常業務やその他期日が近い案件についても、早めに終わらせるか、それとも延期するかを個別に判断し、そして早めに終わらせる必要がある場合は優先的に対応し……と、とにかくまあ疲れることである。

 いっそのこと何か理由をつけてハータ嬢の来訪を拒否してやろうかと、逃避的な空想を走らせたりもするが、結局は前述のとおり、責任を取りたくない以上、この決断をするわけにもいかなかった。

 わたしは身も心も引き裂かれんばかりだ。あらゆる面倒なことをしたくないし、あらゆる責任を取りたくないだけなのに!


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