記録5 美しい女について
美しい女がなにを考えているか、わたしはわかりえないのではないか? ……黙々と書類仕事をこなすアデーラの顔を見て、わたしはふと思った。
わたし自身はさして美しくもない凡庸な容姿の男であるが、美男子の考えることについては類推がつく気がしている。つまり、わたしも相手も同じ男である以上、わたしが考えていることを垂直方向に動かせば、それが美男子の思考と近似しているに違いないのだ。
美しくない女が考えていることについても、計算によって求められる気がしている。この場合は、わたしが考えていることを水平方向に動かして、美しくない男の象限から美しくない女の象限までもっていけばいいからだ。(そして、その計算によって求めた場合の思考というのは……ああ、美しくない乙女の守護聖女である聖女ヘレン様、美しくない乙女たちをお守りください)
しかし、美しい女! 垂直の先にも水平の先にも、美しい女というものは存在しない。人知の及ばぬ未知の世界、宇宙の彼方、世界の奥深くに隠された秘密、それが美しい女の象限であり、そこには一切の類推が働かない。類推ができない以上、わたしには、美しい女の考えを知ることができるとは思えない……。
アデーラはよく働いている。その仕事の細やかさは称賛に値する。それでもなお、わたしは彼女が何を考えているかがわからない。彼女の静かな美貌と無表情は、なにか底知れないものがある。




