記録48 精力剤について
巷での評判が高まったせいか、ここのところ何かと種々の物品を献上されることが増えてきた。これまでの献上品は、すべて政庁の保管庫に収めているが、その保管庫への出入りが多くなると、どうも人々は、そこに山積みになっている精力剤に目が行くようだ。
……この記述だけでは、またアデーラに冷たい目で見られ、お嬢さまには罵倒され、あるいは特務魔術師エウラーリエ殿には赤面されてしまいそうである。しかし、この山積みの精力剤というのは、世の人びとが誤解しているような、わたしが快楽のためにそれを日ごろから大量に摂取しているということを意味しているのではない。
実際のところは、この世間の誤解とはむしろ正反対で、それらの精力剤は消費されないがために、山積みに残存しているのだ。
そもそもの話として、自由都市執政というものは、口にするものでさえも自由ではない。これが平時であれば問題もないのだろうが、いつ暗殺者が差し向けられるかもわからないこのご時世で、毒物の警戒をしないわけにはいかないのだ。献上品は全て相手を記録しているが、それを承知で毒を仕込むことだってありえるし、あるいは献上した本人に悪意はなくともどこかの段階で毒が仕込まれる可能性だってあるわけだ。
消費するわけにもいかない一方で、精力剤というのは古来より権力者に対する献上品として好まれており、かつその原材料である生薬の流通と販売が自由化されたということもあり、わりと頻繁に献上されてくるのだ。(この辺の事情は過去の日記にも書いた気がするが)
そういうわけで、保管庫には精力剤が山積みになり、むしろその山は大きくなり続けている。ある程度は日持ちはするのだろうが、それでも死蔵を続けているのはなんとなくもったいなく感じるものだ。




