記録46 大主教について
魔術装置を利用した即時通信によって帝都からもたらされたのは、帝都の大主教からの言伝だった。大主教といえば、このオルゴニア帝国における、砦の修道会の信徒および聖職者の頂点である。
双方、矛を治めよ──というのが、その大主教からの言伝の大意であった。
最初、この大主教からの言伝は、受け取った自由カオラクサ側に疑いと困惑を引き起こした。まさか大主教ともあろう方が魔術装置などという不道徳なものを使用するわけがない……と、誰もが思ったのだ。しかし、結局はこれが、正真正銘の大主教の言葉だったわけだ。自由カオラクサ修道院が被る聖域侵犯という危機について、大主教はそれを止めるために手段を選んでいられなかったのだ。
そして、秩序の回復は速やかに行われた。
参事会は、修道院への侵犯を取りやめるだけでなく、衛兵による包囲も撤収させることとなった。とはいえ、それは参事会の敗北による撤収ではなかったのだ。
大主教が魔術装置による通信を利用したということは、参事会にとっては多大な意味を持っていた。無論、大主教にとってはあくまでも緊急事態におけるやむを得ない手段だったわけだが、逆に言えば、理由があるのならば魔術装置を利用しても問題はないと、参事会はそのような理論を即座に構築した。そしてその理論があれば、自由カオラクサの修道院長による暗殺の大義名分を失わせることができるのだった。
自由カオラクサにおける参事会と修道院長の争いは仲裁されたが、結果的には参事会は望んでいたものを手に入れた形になる。
わたしが思うに、これは魔術装置の利用を推進する共和政府が意図した結果なのだろう。以前に特務魔術師エウラーリエが言っていた共和政府の策というのは、まさにこのことに違いない。




