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記録43 非常召集について


 混迷の状況にある。時系列にそって書き記しておく。


 今朝がた、自由カオラクサ参事会の長老格がひとり死んだという報せが入ってきた。その死んだ長老参事は、参事会の老人たちの中でも一層の年寄だった。彼の詳しい死因までは知らされていなかったが、ぽっくり死かなんかだろうと、この時点では思っていたわけだ。

 よりによって修道院長との対立が激化する中で死ぬとは、なんとも間が悪い老人である。通例では参事会の人間が任期中に亡くなると、自由カオラクサ市政としてもそれなりの対応をとることになっている。しかしこの状況だと、聖堂を使った葬礼をさせてもらえるかどうかが怪しいところだった。

 いや、あるいは──と、わたしはふと考えた。もしかしたら、この老人の死をきっかけとして、厳粛な葬儀を行うために、参事会が修道院長との対立路線を取りやめることもあるかもしれない。もしもそうなれば、結果的にこの老人のぽっくり死には、単なるぽっくり死以上の意味があることになるな……なんて甘っちょろいことを、この時は思っていた。


 正午前。

 参事会からの使いが息を切らしてやってきて、耳を疑うようなことをいった。いわく、今朝がたの長老参事の死は、修道院長の手の者による暗殺だったというのだ。

 実際のところ、なにが真実であるか、わたしの視点からは分からなかった。もしかしたら本当に修道院長があの暗殺行脚者をけしかけて老人を殺させたのかもしれないし、あるいは、参事会が年寄りの単なるぽっくり死を利用して修道院長への攻撃の大義名分をでっち上げたのかもしれない。

 いずれにしても確かなのは、これからすぐに参事会の老人たちが動き出すだろうということだった。わたしは現状の把握と事態の収拾に努めたが、何もかもが混乱している中では、手の打ちようがなかった。

 

 午後には、衛兵たちに非常召集がかけられた。──これは参事会が治安作戦の名目で発した召集であり、自由都市執政が持つ指揮権とはまた別個の統制によるものだった。

 衛兵たちは隊列を組み、物々しく市街の中を行進し、修道院へと向かった。

 いったいこれから何が始まるのかと不安を抱く市民たちの衆目の中、衛兵たちは修道院を包囲した。衛兵たちはかろうじて聖域の中に足を踏み入れてはいないようだが、そのすぐ側で立ちはだかっており、苛烈な示威行動である。

 そして、衛兵隊長ががなり声で、修道院に向かって通告をした──暗殺犯を引き渡せ、と。

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