記録41 参事会と修道院長について
強欲な馬鹿どもめ! 参事会と修道院長、どちらも適当に落としどころをつければいいものを! 参事会は魔術装置を利用した遠隔通信によって利潤を増大させ、その一部を修道院長が受け取って道徳上の疵瑕に目をつぶる。たったそれだけのことじゃないか。どうしてこんな簡単なことができないんだ……。
どうも、雲行きが怪しい。なにやら、自由カオラクサ参事会と自由カオラクサ修道院との間に緊張が高まっている。言ってしまえば結局は金の流れをどうするかという問題なのだが、両派は互いに一歩も譲ろうとしていないらしい。
おそらくは、互いに、相手方への譲歩の姿勢を見せたくはないと思っているのだろう。それが合理的な戦略であるのなら何も問題はないのだが、もはやそれは非合理な相克へと発展して言っているように見える。この小さな自由カオラクサの内部で対立して、消耗するなんて、甚だ愚かである。
そしてこの対立は、わたしの頭越しでの対立になりつつあった。参事会も修道院長も、互いに敵愾心を燃やすあまり、名目上の行政の長である自由都市執政を介さずに、互いに手の者を使って政治工作の応酬を行っているようである。
ある時、わたしは参事会の老人の一人から、質問を受けた。
「きみが修道院長の情夫になったというのは本当かね、自由都市執政殿?」
わたしはげんなりしながら答えた。
「それは単なるうわさ話です。市民たちが根も葉もない噂話を好むのはご存知でしょう。そもそも、修道院長殿は教えの道に入った尼僧でしょうに」
「なるほど」
その後、おそらくは参事会勢力が政治工作として流したであろう以下の流言飛語があらわれた。
あの修道院長は、その立場にありながら大変な男好きであり、自由都市執政を篭絡して情夫にして、物理的な貞潔を守った上での変態行為を日夜繰り広げている──と。
……もう、なんでもすきにやればいいが、せめてわたしを巻き込まないでほしいものである。