記録39 屈従について
わたしは降参することにした。自分の命には代えられまい。この修道院長への屈服に、さすがのわたしでも多少なりとも屈辱を感じないではないが、それも生命の保全の前には細やかなことである。
とはいえ、全面的に修道院長の要求を呑むわけにもいかなかった。つまり、彼女が要求してきていた『秘密同盟』の『同盟』の部分はともかく、『秘密』の部分は、参事会に対してこれを履行するわけにはいかないのだ。参事会に対して秘密を作ってしまえば、それを背任とみなされる可能性があるからだ。
そういうわけで、わたしは参事会への報告に上がることになった。参事会の老人たちは、実際にはアデーラからの報告を受けているであろうが、形式としてはこの自由都市執政自信からの報告を上げる必要があった。
わたしとしては、こんどは参事会の老人たちの反応に慄くこととなった。つまり、『たとえお前の命が危険だろうが、そんな要求つっぱねろ!』と、にべもなく言われる可能性を考えていたのだ。
しかし、実際のところ、参事会の老人たちは、いやにわたしに対して同情的だった。(それこそ、裏を勘繰りたくなるくらい)
彼らは自由都市執政としての責務をこなすわたしのことを労い、そして修道院長からの要求への屈服という、わたしの選択に理解を示してくれた。そして、今後の修道院長とのやり取りについて、参事会にも具に報告するようにとだけ命じてきた。
そういうわけで、わたしの屈従は自由カオラクサ参事会からのお墨付きとなったわけだ。




