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記録37 旅装の修道女について


 聖堂に礼拝に行くのも、もう何度目になるかもわからない。周囲からの軽蔑の視線も、初めの頃はひどく居心地が悪く感じたものであるが、最近ではすっかり慣れたものである。

 そんな通いなれた聖堂であるが、今日はなんだか、妙に印象的な礼拝客がいた。

 その人物は、その恰好からして、旅の修道女なのだろう。杖は歩きの助けのため、外套は日ざしや風雨から身を守るため、首から下げた短刀は護身用もしくは緊急時の自害用──といった、形式化された類型的な修道女の旅装だった。

 礼拝を終えての帰り際、聖堂を出ようとしたときに、わたしはその旅装の修道女とすれ違う形になった。普段見慣れぬその恰好に、なんとなく目が惹かれて、彼女の顔を横目で伺ってみれば、凛々しいその顔が見えた。顔立ちは整っていたが、美人というよりはどこか勇ましさもある顔つきだった。なにかの責任を負っているようであり、どこか厳めしく、思い悩むような表情をしているように思えた。それに、一瞬だけ、彼女もこちらに鋭い視線を寄こしたような気がした。

 旅の途中でこの自由カオラクサの聖堂に寄ったというところだろうが、こんなご時世に巡礼なんてご苦労なことだな……と、わたしは漫然と考えながら、その旅の修道女とすれ違い、聖堂を出た。

 

 まだ早い朝の日ざしを浴びて、外の空気に開放的な心地よさを感じていると──なにやら、付き添いのアデーラがわたしの肩を強く押してきた。

 何事かと振り返ってみたら、どうもアデーラはわたしを一刻も早く聖堂から遠ざけようとしているようだった。訳も分からずに彼女に押されるがままに、帰路を急ぐこととなった。

「執政殿、早く政庁へ──」

 普段泰然としているアデーラが初めて見せたその焦燥に気圧されて、わたしは何事かと聞く間もなく、押し込まれるようにして執務室へと戻った。その間、アデーラはわたしをかばうように身体をぴったりと寄せながら、何度も聖堂の方を振り返り、顔をしかめていた。


 ようやく執務室に落ち着くと、わたしは息を整えながらアデーラの方を見た。なにやら深刻な表情の彼女は、落ち着かない様子で、部屋の中だというのに警戒するように視線をあちこちに動かしていた。

「それで、急にどうしたんだ、アデーラ」

「……大変失礼しました、執政殿。しかし、危急のことだったので」

 彼女はひとつ咳払いをした。

「あの聖堂ですれ違った旅の修道女ですが、あの女──砦の修道会から絶縁を受けた修道騎士だったかもしれません。つまり、暗殺行脚者です」

「は?」

「さすがに聖域の中ではおとなしくしていたようですが、聖堂を出た途端に襲ってくる可能性がありました。結果的には大丈夫でしたが、もしも、そうなっていたら……」


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