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記録33 修道院長との面会について


 今日、修道院長との面会があった。

 彼女はしずしずと政庁に現れた──その一挙手一投足が、教えの道に入った修道女の貞潔さを体現しているかのようで、これはいっぱしの修道女ではないと、信心深くない人にさえも思わせる風格があった。

 応接室で向かい合ってみれば、伝え聞いた実年齢とはとても思えないほど、神秘的なまでに若々しく見えた。(砦の修道会の難行苦行がもたらす功徳なのだろうか?) 伏し目がちな童顔でありながらも、なにか部屋の空気が張り詰めたような、言外の迫力がある人物であった。


 修道院長は開口一番、なんとわたしに対して謝罪の言葉を発して、頭を下げた。

 思いもよらぬその出方に、わたしはあっけにとられた。これから対決が始まるとばかりおもい、すっかり身構えていたのだ。

 彼女曰く、最近の修道女たちによる自由都市執政への批判は度を過ぎている。いくら自由カオラクサ市民には市政を批判する権利があるとはいえ、無礼だった……とのことだった。

 いやいやそんな、遠慮せずにもっと批判するようにいってやってくださいよ──と本心を話すわけにもいかないわたしは、混乱しながらもなんとかうわべを取り繕うことしかできない。

 そしてこの面会の話は、さらに予期せぬ方向に進んでいくことになる……

 修道院長の言葉は、仮定法や反語を多用したものだった。おそらくは言質を与えないための政治的な言い回しなのだろう。彼女が示唆することを読みとってみれば──つまり、こういっていることになる。

『修道院長であるわたしと、自由都市執政殿であるあなたで、秘密同盟を結びましょう。こちらは自由都市執政殿の悪徳に目をつぶり支持に回りますから、代わりに自由都市執政殿はわたしに金銭だけでない種々の利益供与をお願いします。そして、もしもこの同盟を断るのなら、修道女たちのあなたへの批判はさらに苛烈になっていくので、あしからず……』

 修道院長が言わんとしていることを把握した途端、わたしはなんだか急にすべてが腑に落ちた気がした。──なるほど、むしろ、話は分かりやすくなったじゃないか。冒頭の謝罪の言葉も、一種の反語だったわけだ。

 わたしは脅迫を受けているということだ。修道院長殿は、こちらに対する修道女たちの反発を、目的を達成するための武器にしようとしている。……しかし、それはとんだ見当外れだ。彼女のように強烈な上昇志向を持つ人間は、わたしのような人間のことを理解できないのかもしれない。

「修道院長殿。残念ながら、あなたのご期待には沿えそうにありません」

 修道院長は、伏し目がちだった視線をちらりと上げ、こちらを睨みつけた。


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