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記録32 修道院長について


 修道院長が面会を求めてきた。つまり、この自由カオラクサにおける修道女たちの親分である。

 この修道院長というのは、まさしくわたしの就任式において、聖女カーロッタとの結縁と祝福を執り行った御人である。一見すると年齢を感じさせない清楚な修道女といった風であるが、その実、かつて砦の修道会の本山で難行苦行を積んだ経歴があるらしい。これまで彼女とは就任式以外での接触はなかったが、しかし自由都市執政になる前から、彼女の噂は聞き及んでいた。──その噂によると、この修道院長はその楚々とした外見とは裏腹に、強い権力志向を持つやり手であるらしい。いまは自由カオラクサの修道院長を務めているが、これは腰かけであり、本山の総局の役職の座を虎視眈々と狙っているという。

 さて。

 これまでの修道女たちによる抗議というのは、あくまで自由カオラクサに住む修道女個々人によるものであり、世界宗教組織としての砦の修道会それ自体が携わっているものではなかった。それがいまになって、修道院長がお出まししてくるというのだから、自由都市執政に対する反発の段階が一つ上がったとみてもいいのかもしれない。修道院長は、魔術装置を使う恥知らずな自由都市執政の弾劾という成果を上げようとしている可能性だってある。

 これはいよいよ弾劾が近いのかもしれないぞ……とわたしは内心ほくそ笑んだわけだ。


 修道院長との面会の前夜、執務室にてアデーラがふと口を開いた。

「そういえば、執政殿。修道院長との面会の間は、わたしの名前を呼ばないようにしていただけますか」

 その唐突な申し出に、わたしはやや面食らった。

「つまり、『アデーラ』と呼びかけるなってことか」

「はい」

「それはいいけど、なぜ?」

「いろいろとややこしいことがありまして。そうしたほうが、ややこしくならなくて済みます」

 アデーラはいつもの通り素知らぬ顔をしていたが──その冷徹な無表情に、なにか後ろめたさのようなものが滲んでいるように思えた。

 そういえばアデーラは、もとは砦の修道会の本山で修行を積んだ修道騎士だったはずだ。今となっては、どういうわけかこの自由カオラクサに流れ着き、女武芸者とは思えぬ身なりになっているわけだが。

 本山にいた経歴を持つ修道院長の前で『アデーラ』の名前を出すことが憚られるということは……もしかしたら、アデーラは本山にいたころになにか問題を起こして、それを隠したがっているのかもしれない。

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