記録3 女秘書について
参事会の老人たちが、秘書という名目で女をひとり寄こしてきた。わたしを監視するお目付け役というのが実際のところだろう。あるいは、わたしを屈服させるための罠かもしれなかった。
いったいどんな厭らしい毒婦がやってくるのかと身構えていたが、政務室にあらわれたのは、少なくとも見た目の上では気品のある女だった。
彼女はアデーラと名乗った。細縁の眼鏡の才女といった風だった。ためしにいくつか作業を割り振ってみれば、たしかにそれなりに仕事ができる人間のようであった。
この日記には、わざわざ事細かに記載していなかったが、自由都市執政としての政務は早くもひっ迫してきている。──単純に、仕事の量が多かった。日々大量に上がってくる種々の報告に目を通し、決裁し、別個に指示を下す。市の景況、城壁の改修計画、共和派内の連絡、貴族派の動向の調査と分析……。いったい、前任者はどのようにしてこの仕事量をさばいていたのか?(あるいは、さばけなかったからこそ、あの末路だったのかもしれないが)
そこにきて、このアデーラである。あたかも参事会の老人たちに見越されているようで不愉快であるが、アデーラのおかげで、わたしは抱えていた仕事に一旦のめどをつけることができた。……まあ、仕方がない。利用できるものは、利用させてもらうさ。
とはいえ、やはり、警戒は必要だろう。心に留めておかなくてはならないのだ。
参事会の老人たちにとって、わたしは悪意の対象ではないにせよ、都合のいい手駒に過ぎないのだ。もしも彼らがわたしを切り捨てると決めたなら、そのための何らかの政治工作を、このアデーラが実行する可能性があるわけだ。隙を見せてはならない。