記録23 防諜について
要塞化工事に携わる人夫のひとりが、何やら話があるとして、自由都市執政への取次を求めてきた。通常ならば個別に相手をすることはないのだが、その人夫はあの黒い石碑を発掘した現場に居合わせた者であり、それに関しての話があるというのだ。
聞いてみれば、彼は黒い石碑の情報を探っている人物からの接触を受けたという。
昨晩、人夫たちはいつものように、連れ立って飲んだくれていた。すると、その安酒場とはどこか不釣り合いな商人風の男が、偶然を装って人夫たちに話しかけてきたという。
その商人風の男が、世間話をしているようでいて、実際にはあの地面から掘り出された黒い石碑のことを知りたがっているようだと、人夫たちは目ざとく感づいた。そして、人夫たちはそれを面白がり、担いでやろうと考えた。仲間内で目くばせをすると、情報をもったいつけて、その男に酒をさんざんおごらせてやったという。その上で、人夫たちは男に黒い石碑を掘り当てたときのことを話してやったが、そもそも人夫たちは、黒い石碑に刻まれた古代文字が青白く光るのを見て、即座に逃げ出していたので、特段なにか黒い石碑についての詳細を知っているわけではなかった。
最終的に、その商人風の男は、苦々しい顔をして去っていたという……。
さて。
この話を持ってきた人夫は、貴族派の密偵らしき男の情報を提供して、その上、自由カオラクサの防諜に貢献を果たしたからと言って、自由都市執政であるわたしに小金をせびってきた。
わたしは苦々しく思いながらも、自分の札入れからいくらかを取り出して渡してやった。すると人夫は、自分は仲間たちの代表だから人数分もっと寄こせと言ってきたものだから、その分だけ渡して、あとはアデーラに追っ払わせた。