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記録22 よそよそしい態度について


 いつもの定例報告。

「帝都で発掘された黒い石碑ですが」と特務魔術師エウラーリエは手元の資料に目を落としながらいう。「あちらでも用意は着々と進んでいるようです。魔術上の配置や設定について、自由カオラクサ側とすり合わせる必要があるので、いまはその段階ですね。連絡と人員の行き来を何往復かすれば、黒い石碑間の疎通実験が開始できそうです」

「随分と早いものなんですね」

「この自由カオラクサでの調査で得た知見があるので、帝都での作業はその分効率的に進んでいます。それに、帝都には『天才魔術師』もいますから」

「その『天才魔術師』というのは?」

 わたしの問いに、特務魔術師エウラーリエは一瞬だけこちらを見た──しかし視線があった瞬間、彼女はあわてて視線を外す。

「……『天才魔術師』というのは、極北大公領からやってきたやつです。世間一般の呪い師に対する偏見とはまた別の奇矯さを持ったやつですが、革命後は共和政府の招集に応えていの一番に帝都にはせ参じた男です。共和政府から重用されているので帝都を離れられないみたいですが、今回はたまたまそれが都合よかったわけです」

「なるほど」

「……」

 その後も特務魔術師エウラーリエの報告は続いたが、その間、彼女はこちらの顔を見ようとはしなかった。報告が終わると、彼女は何やら、まるでこの執務室から逃げ出すかのように、足早に退室していった。


 特務魔術師エウラーリエは、確かに(素面の状態では)堅いところがある人間だが、きょうはそれにくわえて、妙によそよそしかった。というか、わたしのことを避けようとしていたようにも思えた。

 彼女になにかあったのだろうか? あるいは、わたしが気づかないうちに粗相をした可能性もある……

「執政殿」と、アデーラは訝しんでいるわたしに声をかけた。「特務魔術師殿は、噂を気にしてらっしゃるんですよ。口さがない市民が言うのを、彼女は聞き及んでしまったのでしょう」

「噂? ……ああ、黒い石碑を使って邪神を呼び出すとかなんとか」

「というよりは、執政殿が女魔術師にほれ込んでいるという噂の方でしょうね」

「ああ、なるほど」

 アデーラに言われてようやく腑に落ちた。あの態度は、男に対する困惑と警戒によるものだったのか。……まったく、世間の奴らめ、好き勝手いいやがって!



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