記録18 喧嘩騒動について
参事会の老人たちは、帝都との即時通信に強い関心を示した。商人であればこそ、情報というものの価値を理解しているのだろう。そういうわけで、黒い石碑に関する調査と運用の計画は、参事会の支援を受けて進められていくことになりそうだ。
あの黒い石碑の実態については、機密として扱うこととされた。このご時世、通信というのは軍事的な側面を多分に含むため、仕方のない措置ではある。……しかし一方で、その機密指定は、自由カオラクサの一般市民からすれば不信感が残る方策に違いなかった。
さて。今日、酒場での喧嘩騒ぎがあったという。双方十数人が入り乱れての乱闘だったらしい。
酒場での喧嘩騒ぎなどというのは、本来ならば、わざわざ自由都市執政のところまで上がってくるような問題ではない。そんなことにいちいちかまっていられるほど、自由都市執政は暇ではない。通例であれば、衛兵が騒ぎを起こした連中をしょっ引いて、留置場にひと晩ぶち込んで、頭を冷やさせたうえで罰金を課して、それで終わりのはずである。
しかし今回、その喧嘩を起こしたのが、よりによって帝都からやってきた調査隊の特務魔術師エウラーリエだというから、衛兵たちは扱いに困ったという。特務魔術師は一応、自由カオラクサと同盟関係にある帝都の共和政府の人間である。確かに、政治的に言えば微妙な問題であるが……同時に、あまりにもくだらない問題ともいえる。結局、この微妙な問題について誰も責任を取りたがらないものだから、この件がわたしのところまで上がってきたのだ。
そんなのそっちで適当にやっておけよ! と言いたい気持ちを、わたしはぐっと抑えた。さっさと特務魔術師エウラーリエを放免するようにと指示を出した。
すっかり夜も更けていた。一通りの仕事を終え、いまこの日記をつけている。──すると、先ほどの衛兵がなにやら情けない顔をして戻ってきた。
何事かと聞いてみれば、特務魔術師エウラーリエを留置所から出そうとしたところ、彼女はなぜかその放免を拒否し、意固地になって留置場の中に座り込みをしているのだという。
もう勘弁してくれよ、とわたしは途方に暮れた。とりあえず、今から留置所に向かわなくてはいけないようだ……