記録17 遠隔かつ即時の通信について
『あなた方のやっている黒い石碑に対する調査というのは、わが自由カオラクサにとってどのような益があるのか?』という修辞的な苦言を、わたしはあらかじめ用意していた。
いくら調査隊が帝都の共和政府からの指令を受けているとはいえ、現状、こちらにとっては得るものがないように見える。帝都の共和政府と自由カオラクサは同盟関係にあるとはいえ──いや、同盟関係にあるからこそ、いまのこの状況には何らかの対応が必要である、と。
特務魔術師エウラーリエが、黒い石碑に対する調査の進捗の報告にくるというので、わたしはアデーラと共に執務室で待ち構えていた。
約束の時間よりも少しだけ早く、特務魔術師エウラーリエは礼儀正しく参上した。……実際、彼女はだいたいの場合において、実に礼儀正しい。ただし、彼女が魔術師であるという点で侮りを受ける場合においては、彼女は毅然と反撃をするのだ。
彼女は報告書を提出し、その内容を口頭で説明していく。わたしはその報告書に目を通すというよりも、どこでこの特務魔術師の話に口をはさんでやろうかと彼女の方を伺っていた。
しかし、そんな中で、特務魔術師エウラーリエは物怖じもしなかった。
「──石碑に刻まれた古代文字を解読したところ、同様の魔術装置の所在についての定義と思わしき記載がありました。その座標は、この大陸中に点在していましたが、そのうちの一つが、帝都にありました」
「帝都に?」
「はい。あくまでもこの魔術装置が実際に運用されていた時代の話ですが。けれど、帝都の地面の下に今でも黒い石碑が埋まっている可能性は、十分に高いものと考えられます」
「……たしか、この魔術装置は、遠隔通信を可能にすると」
「はい。その通りです自由都市執政どの」と、エウラーリエはにやりと笑った。「この自由カオラクサと帝都の間で、遠隔かつ即時の連絡が可能になることでしょう」