記録15 黒い石碑の正体について
つい昨日の夕方に到着したばかりだというのに、調査隊の仕事は迅速だった。
今日の正午には、黒い石碑に関する最初の報告が上がってきた。
「もちろんこれは暫定的なものです。最終的な結論を出すには、碑文をすべて解読したうえで情報を整理しなければならなりませんが──それでも、現時点での解読範囲でも、あの石碑に込められた魔術の概観は把握できたと思います」と、特務魔術師エウラーリエ。
さて。結論から言えば、あの黒い石碑は魔術兵器そのものではなかったらしい。
彼女の説明によれば、その正体は遠隔通信装置であり、通常ならば空気中に拡散していってしまうマナを集約して発信したり、あるいは反対に遠隔地から発信されたマナを受信するための装置……ということらしかった。
いや、正直、これはわたしがなんとか理解した断片に過ぎない。もしかしたら、なにか大きな認識違いをしている可能性もあるが。
とはいえ、重要なのは、あの黒い石碑が何であるかということではない。
「あの黒い石碑が魔術兵器でないとしたら、つまり、あれをどこか適当な場所にうっちゃっても問題ないということですね?」と、わたしは特務魔術師エウラーリエにきいた。これでようやく、工事を再開できると思っていたのだ。
「とんでもない!」と彼女は心外そうに声を上げた。「あの石碑は、この大陸の力線に沿って配置されているんです。遠隔通信にはその力線の流れを利用しているわけです。つまりあの石碑は、まさにあの座標に位置したままとしておかないと、正確な調査を行うことができなくなる」
「いや、こちらとしては、石碑の調査なんかよりも」
「自由都市執政殿」と、特務魔術師エウラーリエはわたしを睨みつけた。「こちらは、共和政府からの委任を受け、あの石碑に関する調査を任務としているのです。共和政府が革命推進のため魔術研究に重きを置いているのは、あなたもご存知のはずだ。あなた方の邪魔をするつもりはありませんが、あなた方もこちらの邪魔をしないでいただきたい」




