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記録14 調査隊の特務魔術師について


 今日、わたしは女魔術師と会った。そして、握手を交わした。(万が一、この日記が他者の目に触れた時のために、誤解がないように書くとすれば、ここでいう『女魔術師』とは、娼婦を指す隠語の方ではなく、本義の方、つまりは魔術の力を持つ女性のことだ)


 帝都の共和政府が寄こしてきた調査隊がこの自由カオラクサに到着したのは、今日の夕方だった。それは街道から現れたのは馬車の一団であり、人数で言えば30人近い大所帯だった。

 城門から招き入れられた彼らは、自由カオラクサ市民の衆目の中、通りを歩き、政庁の前までやってきた。

 自由都市執政であるわたしが、彼らを出迎えてみれば、調査隊の中からひとりの女性が前へと進み出た。彼女は、なにやら軍服のような制服を身にまとっていた。やせ形で背も高くないが、いやに姿勢が良く、その顔には好戦的な色合いが仄めかされていた。

 彼女は声を張り上げた。

「共和政府の命によって参上しました。調査隊の隊長を務める、特務魔道士エウラーリエです」

 特務魔道士という言葉に、わたしは驚いた。こちらを遠巻きに眺めていた市民たちの間にも動揺が走るのが感じられた。

「よろしくお願いします、自由都市執政殿」

 そう言って、彼女は手を差し出してきた──

 一般的には、魔術師は社会的立場のある人間に近づくべきではないとされている。それがこの大陸の常識だったわけだ。本来であれば、魔術師が自由都市執政に握手を求めるなどというのは、無礼とみなされるものだ。

 けれど彼女は、そんなことなど一切お構いなしだった。


『魔術師は、政に関わってはならない』

『魔術師は、戦に関わってはならない』

『魔術師は、二人につき一人より多く子を作ってはならない』

 オルゴニア帝国における、皇帝と魔術師の協約である。この協約の下でこそ、この国における魔術師は生命と身体の安全を認められていたのだ。

 一方でこの協約は、魔術師を日陰者とみなすことと同義でもあった。魔術師のたちは一般社会からは隔離される。魔術師の一門は、『呪い師』を生業とすることを認められている──というか、それ以外の職業に就くことは、ほとんど認められていなかったのだ。

 だからこそ、わたしは──というか、オルゴニア帝国の一般大衆は──魔術師というやつらは、陰気で、隠遁的で、こちらの弱みにつけ込んで性病の治療費をふんだくるような、いかがわしい連中だという認識を持っていたのだ。


 そこにきて、この特務魔術師エウラーリエである。彼女はこちらの逡巡に感づいたらしく、不服そうに眉をひそめてみせた。傷ついたような、それと同時に攻撃的でもある視線をしていた。

 わたしは慌てて、彼女の差し出された手に応えた。

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