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記録138 決裂について


 今回の交渉は決裂した!

 数日にわたる直接交渉でも、妥協点を見つけることはかなわなかった。ミハル・ヘルコプフの身柄を、こちらは高く売りつけようとし、相手方は安く買い戻そうとして、結果的に互いに歩み寄ることはできなかった。

 この結末は、わたしにとっては誤算である。もしかしてヘルコプフ伯爵家が次男坊ミハルを見捨てうるというのは、駆け引きのためのはったりではなく、本当のことだったのだろうか?

 交渉の席において、エミーリエ嬢は幾度となくわたしに哀願した。憐れっぽい涙目で、わたしの目をじっと見てきた──わたしも人の子である。あの可愛らしい顔立ちのご令嬢にそのようにされれば、正直なところ、憐れみをかけたくもなった。

 結局、エミーリエ嬢は、一度ヘルコプフ伯爵家領邦に話を持ち帰ることとなった。彼女は父であるヘルコプフ伯爵からなんとか妥協を引き出し、その後、再度交渉にやってくるつもりだという。

 さて。

 交渉は決裂に終わったが、エミーリエ嬢をミハルへと引き合わせることにはなった。面会まで禁じるほど、鬼畜ではないのである。

 独房の中のミハルには何の予定も知らせていなかったため、妹が目の前に現れた時、彼はたいそう驚いた。目を大きく見開き、信じられないとばかりに首を振った。

 兄妹二人は衝動的に駆け寄り、抱き合った──監視下であるが、二人は互いの身を案じて、近況を語り合った。ミハルは捕虜の身であるにも関わらず、自分よりも妹の方を心配しているようであった。そんな兄に対し、妹は捕虜解放の交渉が不首尾に終わったことを不甲斐なく思ったのか、泣き出してしまった。

 ミハルは、わたしの方を睨んで声を上げた。

「貴様、ミリーに無礼を働いたのではなかろうな!」

 怒鳴られると、わたしも面白くはなく、言い返した。

「あんたの妹が泣いているのは、あんたが捕虜になったせいだろうが」


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