記録137 エミーリエ嬢について
今日、ヘルコプフ伯爵家の密使団が自由カオラクサに到着した。密使たちの代表者の名は、エミーリエ・ヘルコプフ──このエミーリエ嬢は、ミハル・ヘルコプフの妹だという。なるほど、確かに彼女は童顔でかわいらしい顔立ちをしており、あの捕虜との血の繋がりを感じさせるものであった。
彼女は真っ先にミハルとの面会を要求してきたが、こちらは一種の戦術としてその要求を拒んだ。彼女は恨めしそうな目をこちらに向けてきたが、しかしミハル本人の身柄を抑えているという優位性がこちらにある以上、従わざるを得ないようだった。
早速、捕虜の身代金についての交渉を始めたのだが──しかし、どうもこちらの想定通りに話は進まなかった。エミーリエ嬢はミハルの身を案じながらも、こちらが予測していたよりもずっと金払いが悪いようだった。こちらの要求に対して、彼女は狼狽え、困惑し──そしてしまいには、彼女はわっと泣き出してしまった。
そうなってくると、今度はこちらが困る番である。彼女を宥め、何とか泣き止ませようとする他がない。
やがて彼女は、涙ながらに、以下のようなことを述べた。ヘルコプフ伯爵は実際のところ、場合によってはミハルを見捨てることも選択肢に入れているのだという。ミハルはあくまで次男の立場であり、長子ではない。だから、ミハルの身代金があまりにも高くつくようならば、見殺しにすることも辞さない──と。
結局話はまとまらないまま、今日はお開きとなり、また明日、交渉の続きをすることとなった。
さて。
果たして、あのエミーリエ嬢の涙は本物だったのだろうか? あるいは、交渉を有利に進めるための泣き落としだったのだろうか? いずれにしても、出鼻をくじかれてしまったのは確かである。ヘルコプフ伯爵の話にしても、どこまでが本当のことか分からない。本当にミハルを見捨てる気なのか、あるいは、こちらにそのように思わせることで身代金を値切ろうとしているのか。
どうも、一筋縄にはいかなそうだ。




