記録135 優位な立場について
ミハル・ヘルコプフの解放条件についての交渉をヘルコプフ伯爵家と行っているが──とにかく。効率が悪い! 一度、魔術装置による即時通信に慣れてしまうと、物理的な密書のやり取りというのは、耐え難いほどの遅く、非効率なものに思えて仕方がない。便利さというのは、一度知ってしまうと、少なくとも心情的には後戻りができないものなのだ。(共和派の勢力圏であろうが、貴族派の勢力圏であろうが、このオルゴニア帝国の各地に埋まっている魔術装置を全部さっさと掘り起こして、帝国全土に即時通信をいきわたらせてほしいものである……いや、皮肉として記載したが、この案は存外、合理的かもしれない)
さて。
交渉についてわずらわしさを感じているのは、ヘルコプフ伯爵家の方も同様らしかった。相手側は、対面での直接交渉を提案してきた。こちらとしても願ったりの提案であったが、こちらに有利な条件をいくつか含ませてやった。優位な立場を利用して、その優位性をさらに推し進めてやったわけだ。向こうはこちら側の要求をのまざるを得ないようだった。
ヘルコプフ伯爵家側は、ただ一つだけの譲れない条件として、ミハル・ヘルコップフとの直接の面会も要求してきた。ミハルが自由カオラクサにおいて虐待されていないかを確認したいということなのだろう。向こう側の使者がミハルの独房まで赴いたら、虐待を受けているどころかその待遇の良さに驚くに違いないというのに。
さて。
そういうわけで、ヘルコプフ伯爵家の人間が密使として自由カオラクサにやってくることとなった。こちらにとって、圧倒的に優位な立場での交渉となるに違いない。できれば単なる身代金だけではなく、何か貴族派の中枢にかかわるような政治的な『お土産』も持ってきてほしいものである。




