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記録132 いつもの執務室について


 予定通り、自由カオラクサに帰ってきた。

 いつもの執務室──のはずだが、どこかよそよそしいような感じもする。それと同時に、我が家に帰ってきたような安心感も、半分ある。

 この部屋の臭いにしても、果たして、こんな臭いがしていただろうか? ……おそらくは、していたのだろう。その臭いを一度忘れて、今になって嗅ぎ直して、落ち着かなくて首をひねっているのがいまのわたしということだ。なんだか滑稽にも思える。

 なんとなく、わたしの肺腑の中には、フォーゲルザウゲ伯爵家領都の空気がまだ残存しているような気がした。しかし、息をするたびにそれは薄まりつつある。いずれは、全てがこの自由カオラクサの空気に置き換わることであろう。

 思い返してみれば、フォーゲルザウゲ伯爵家領都への滞在は、あっという間に過ぎてしまった。襲爵式に参列し、会談を行い、種々の用事もこなしたはずなのに、全てが夢を見ていたかのようだ。

 さて。

 ここ数日の出来事が夢であったとするのならば、これからの日々は、また現実ということになる。比喩的に言えば、夢から目を覚まして、現実に対応する必要があるだろう。

 数日ぶりの自由カオラクサは、にぎやかで、猥雑な、活気のある市民たちの都市だった。市民たちは、帰ってきた自由都市執政に対して、労をねぎらうでもなく、さっさと仕事に戻れとも言いたげな視線を投げかけてくる。……君たち自由カオラクサ市民が戴く自由都市執政は、これでもフォーゲルザウゲ伯爵家領都では歓迎されていたんだからな、と言ってやりたい気分である。


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