記録128 無遠慮な好奇心について
ハータ女伯と、共和政府の代表者である女伯、それに自由カオラクサ執政であるわたしの三人による会談が、今日行われた。
内容としてはなにか目新しいことがあったわけではない。もともと書面で取り交わしていた事項について、改めて対面での確認を行った、というのがほとんどである。フォーゲルザウゲ家の中立の具体的内容、フォーゲルザウゲ家による自由カオラクサへの賠償、あるいは賠償の免除、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦軍の兵への賞罰、自由カオラクサとフォーゲルザウゲ家の友好条約の条文改正、等々。
その場において女候殿がしきりに主張したことがある。つまり、共和政府はその本来の政治思想から貴族制に反対しており、今回のハータ・フォーゲルザウゲの襲爵にも反対だったのだが、そこをこの女候殿が取り持ったのである、ということだ。また、そもそもフォーゲルザウゲ伯爵家が共和派と貴族派に対して中立となることが共和政府側に認められたのも、それはひとえに女候殿の働きかけによる部分が大きいのだという……
まあ、ある程度は女候殿本人のふかしも入っているのだろう。それでも、彼女が共和政府内外に強い影響力を持ち続けているというのも、一面的には事実である。
わたしやハータ女伯は、少なくとも女候殿に対する愛想笑いを強いられたし、女候殿本人がそれを『貸し』としていずれは利用するかもしれないであろうことが、なんとも気を滅入らせた。
さて。
一通りの話が終わると、女候殿は表情を緩めた。わたしとハータ女伯の顔を見比べて、にやりと笑った。そして、遠回しにだが、二人の関係について聞き出そうとしてきた──耳聡い女候殿は、おそらく昨晩のことについても情報を仕入れていたのだろう。
わたしは、すっかり辟易させられることとなった。自分が罠にはまってしまったせいでハータ女伯の名誉にかかわる事態を引き起こしてしまったという負い目があったし、何より、ごく個人的な事柄についてあれこれ知りたがるその無遠慮な好奇心に晒されるのが嫌だった。
そんな女候殿からの詮索に対し、ハータ女伯はそっけなく、事実だけを認め、憶測を否定した。




