記録119 おしゃべりについて
女候殿の応接は、正直なところ気が重かった。わたしは特別人懐こい方ではないし、その上相手があの女候殿となると、どのようなことになるか全く予想がつかなかったし、とにかくなにか悪いことが起こるのだろうとばかり思っていた。
……しかし、ふたを開けてみると、わたしは反対の意味で驚かされることになる。
女候殿は、あの迫力のある装いとは裏腹に、やたらとおしゃべりだった。言っちゃあれだが、まさしくお茶飲み好きのおばちゃんといった感じで、とにかく、ずーっと楽しそうにまくしたてていた。最近の帝都での出来事や、自由カオラクサへの道中での出来事、それに昔話や読んだ本の話まで、話題は他の話題へと自由自在につなぎ合わされ、それだけにどうなったらその会話が終結するのかまるで見当もつかないくらいだった。
わたしは呆気に取られていたし、居合わせたアデーラも愛想がいい人間ではない。それでも女候殿は、自分がたくさんしゃべるのに加えてこちらにも話を投げかけ、その返答も楽しんでいるようだった。
また、それと同時に印象的だったのは、女候殿の護衛の特務魔術師『狼女』である。彼女は座りもせずに、ずっと女候殿のすぐ後ろに立っていた。不愛想で、見るからに人嫌いのこの特務魔術師は、時折、女候殿から話を振られることもあったが、ほとんど無礼なほどの無関心な態度で、投げやりな言葉をぶっきらぼうに返すのだった。その様子を見ていて、わたしは勝手にハラハラさせられたが、しかし当の女候殿は、なぜか嬉しそうに、けらけら笑うのだった。
さて。
しかし、今になって思い返してみれば、女候殿のおしゃべり好きというのは、一種の外交術なのだと思う。
あのおしゃべりの中で、わたしはこの自由カオラクサに関する詳しい情報を彼女にしゃべらされていたように思う。無論、機密に関わる情報はしゃべらされていないはずだが……いや、どうだろう。知らず知らずのうちに誘導されて、共和政府に対して持っている秘密の一つや二つを、しゃべらされていたのかもしれない。
やはり、陰謀渦巻く貴族社会を生き抜き、革命も乗り越えた女傑というのは、油断ならないものがある。




