記録114 自由都市執政の仕事について
ハータ嬢の襲爵式までに、終わらせておかなくてはいけない仕事が山ほどある。今現在発生している仕事への対応と、それに加えて、襲爵式のためにわたしがこの自由カオラクサを離れている間の指示の作成があり、つまりは現在と未来の2倍の仕事をこなさなくてはいけない状態なのである。
良い点で言えば、わたしは自由カオラクサを離れている間はそれらの仕事から離れることができるという点だ。むろん式典でのあれこれは、それはそれとして気が重いのだが、少なくとも過労になることはなかろう(過労だけに)。
悪い点で言えば、今現在が2倍忙しいということであるが……いや、襲爵式から戻ってきた後のことを考えると、不在中の問題の対応がまた発生するのだが……
自由都市執政の仕事というものは難儀なものである。その大部分は、要は決裁業務なのであるが、これが終わりのないものである。つまり次々に新しい問題が発生し、それへの対処方針を決め、関係各所への連携と調整を行い、それを承認する。一度決裁してしまえばその問題の対応は市政の定常業務としてわたしの手を離れることになるのだが、そうしているうちにまた新たな課題が検出され、そしてその対応は自由都市執政の預かりとなり……と、際限がないのだ。
無論、わたしにはアデーラを始めとした選良的な助役がいて仕事を補助してくれるのだが、その補助があった上で、このざまである。
何百年も前に自由カオラクサが独立した時点では、この体制でよかったのかもしれないが、時代は進み、社会は発展するものである。その発展にあわせて発生する問題も高度化、複雑化しているというのに、この自由都市執政という制度は質的な変化をしてこなかった。だから自由都市執政は激務に晒され、悪ければ、わたしの先代のように……
結局、愚痴っぽくなってしまった。答えがある話でもない。そしてなお恐ろしいことを付け加えるのならば、わたしはこの自由都市執政という立場を嫌悪していると同時に、この仕事を十分にこなせるのは自分しかいないのではないか、とも思ってしまっていることだ。




