記録111 何かしらの陰謀について
今日は再検査の日だった。
わたしは、腹立たしい気持ちを抑えながら、あの若い女呪い師を待っていた。あの魔女のせいで余計な手間を取らされたし、何よりも不面目を被った。文句の一つでも言ってやらないことには気が収まらなかった。
自由都市執政に不名誉な類の病気の疑いがあるという噂は、いったいどこから漏れ出たのか知らないが、あっという間に広がっている。市民たちからの評判なんてものはどうでもいいと嘯いているわたしであるが、今回の噂については勘弁してほしいところである。
正午過ぎ、あの魔女が執務室までやってきた。彼女は何やら、神妙な顔をしていた。周囲の様子を気にしながら、言った。
「執政殿、今回の件について、お伝えしなければいけないことがあります──」
彼女が言うには、先の検査において、呪い師一門の居宅に持ち帰っていた検査標本が、何者かにすり替えられたのだという。彼女は偶然そのすり替えに気づくことができたが、その工作は巧妙だった。要再検査となったのは、これによるものだという。
彼女の話を聞いて、わたしはただ困惑するしかなかった。
「呪い師一門の誰かが、診断結果を操作しようとした……ってことですか」
「身内の不始末でお恥ずかしい話ですが、その通りと思われます。……実は、執政殿の診察をする直前に、わたしのもとにも、報酬と引き換えに執政殿を病気持ちだと診断してくれ、という匿名の依頼もあったのです。まあわたしはこのとおり正直者で嘘がつけない人間ですから、その依頼は無視したわけですが。いたずらか何かと思って気にもしていなかったんですが、今回の検査標本のすり替えのことも含めて考えると、これは何かしらの陰謀はありそうだなと」
「なるほど……」
なんとなく、この魔女が言っていることは信じられる気がした。単なる直観ではあるが。
しかし、そんなことをして──この自由都市執政が病気持ちであるという風聞を広めて、いったい誰が、何の得をするというのだろうか?
「まあ、それはそれとして、執政殿」と、その若い魔女は楽しげに笑った。「そういう訳で、もう一度診察をさせていただきます。今度はちゃんと、標本のすり替えがないように管理するので安心してください」
「……お手柔らかにお願いします」




